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第38話 奇跡に溺れるな


 ブロロロ……。


 改造車が3台並び、高速道路を走っている。

 雨上がりの後に澄んでいた空気も日が経つにつれて完全に乾き、風に乗って辺りに砂が舞っていた。


 砂曇りの空は太陽を隠し、どことなく薄暗い印象になっていく。

 舞う砂の先が、どんなに晴天で鮮やかな青色をしていても、くすんだ景観となってしまうのだ。


 ミランは車内でもゴーグルとマスクを装着しており、その下から過ぎていくサービスエリアを眺めている。

 群青色の瞳を細めた先にあるのは、寄るのを避けるべき場所だ。


 高速道路のサービスエリアは全部が使える訳ではない。

 比較的使えそうな所もあれば、魔物が占拠している所もある。

 時間さえあれば片付けるのもひとつだが、植物系の魔物だったので素通りした。


 植物系は大して強くはないが、根のはり方が酷く、火で一帯を燃やしても土深くに残っていることが多い。

 そして繁殖力も高く、周りの土の栄養を吸収し続ける非常に厄介な植物系魔物だ。


 イメージとしては、竹の10倍は厄介な繁殖力と他の植物を枯らす吸収力を持つ。

 そして、竹のように食べれたり素材に使えるわけではない。


 植物系魔物は殲滅させなければ意味があまりないし、時間がかかり過ぎる。

 もしかしたら、ミラン達が気付いていないだけで何かしら魔物を使う方法はあるのかもしれない。

 だが今のところは、そんな便利な結果はなかった。


 次に見かけたサービスエリアはガソリンスタンドから火事が起きたのか、争いがあったのか。

 爆発し大火事になった跡があり、寄れそうな場所ではなかった。


 もしかしたら過去に植物系魔物を殲滅しようと足掻き、成功した例なのかもしれない。


 次のサービスエリアは廃車が多く窓ガラスが割られ、人間同士の争いがあったと感じる場所だった。

 背後には草が伸びている元畑が見えて、砂に半分埋まっている中でそうであるならば、一時は自給自足をしていたのかもしれない。


 生き残っている土がある畑の元は魅力的ではあったが、道途中すぎる。

 今は諦めるしかなかった。



「そろそろ夕暮れですね」

「次のサービスエリアが泊まれそうな場所なら良いが……無理そうならトイレだけでも使えるか確認し、駐車場を借りるだけにするか」

 グリットの言葉に、そうミランが返す。


「了解です」

 グリットは運転しながら頷いたのだった。



 ***


 次のサービスエリアは広くないトイレと小型店舗がある場所だった。


 小型店舗は窓ガラスが割られ中は散乱。

 自動販売機は種類多くあったようだが、全てがこじ開けられていた。


 ミラン達は砂の積もった中を軽く歩き、一応の確認を行う。

 窓が割れていた為に砂が多い。


 此処はフードコートは無く、使えそうなのは砂に埋もれたベンチぐらいか。

 元々シンプルなサービスエリアだ。


「ミラン隊長、報告します!」

「トイレを調べた結果、山から水を取っているタイプのようです!」

 部下2人の報告に頷くミラン。


「よし。魔物も見当たらない。今夜は駐車場で野営の用意をするぞ!」

「「「はいッ!」」」


 先ずはミランの収納空間から剣先スコップと竹箒を取り出した。

 部下達は大まかに駐車場の一部を掃除していく。


 砂を出来るだけ周りへ追いやり、駐車場内に空間を作る。

 程々に綺麗な状態になったら改造車を運転し掃除場所に移動。


 グリットが改造車を上手く運転し、広い三角形の空間を真ん中に作り出す。

 大きな車輪止めは忘れずに、前後にピッタリ装着した。


 1台は横向きで残り2台は、その1台に頭部分を近付け尻側は空間を空けている。

 この状態では、まだ砂が入り込みやすい。


 ガチャンッ!


 尻側を空けていた2台の三角形内側の片扉は、車体に重なるまで開き固定する。

 もう片扉はあえて半端に開いた状態にした。


「はい、広げてー!」

 ヤムクーが他の軍員達に声をかけた。

 3台の改造車上に数人の部下が上り、収納から出した広く厚いブルーシートをかぶせ三角形の空間を上から覆う。


 ガコンッ!


 大きな板を何枚も3台の改造車の上にかぶせた。

 板の蓋がブルーシートを風で飛ばされないように固定する。


「はい、こっちのシートは内側固定ねー!」

 半端に広げた扉側から、側面で揺れるブルーシートの下を掴む。

 内側に軽く入れてブロックに噛ませた。


 ゴトンッ。ゴトンッ。ゴトンッ。


 さらに三角形内側から緩めにブルーシートを何枚も敷いて、ブロックで緩く固定していく。


 ビービリッ!


 ガムテープで重なっているブルーシートを塞ぎ外から風が吹き入るのを簡易的に避ける。

「じゃあプレハブを出すぞ」


 ドスンッ!


 ミランは収納空間から1坪分のプレハブを取り出した。

 もし可能なら、もっと大きな小屋を最初から収納出来れば話は早いが、今のところはあまり空間内を埋められないので、このひとつのみだ。


 前後に扉があるプレハブを三角形の開いた1面を覆う形で置いている。

 あの微妙に開いてた扉が、ピッタリ重なっていた。


 それでも生まれる微妙な隙間は、内側からゴミ袋用の大袋をガムテープで貼って固定する。

 これにより、そこまで大きくないが彼らが休める空間が出来上がった。


 一時的な簡易天幕のようなものだ。

 トラック内で各々休む形でも良いが、せっかくの食事があるので、この全員で食べれる形式に変えた。


「まあ、マシだな。見張りの交代、トイレに出た者はプレハブ前で砂を出来るだけ落とし、扉の開け閉めを徹底すること!」

「「「はいッ!」」」

 ミランの呼びかけに全員が力強く返答した。


 プレハブの扉から出入りし、必ず扉を閉めてから片方を開ければ粉塵の侵入は抑えられる。

 収納能力があるミラン達だからこそ成せた、1日だけの処置だった。


「いくつか収納して、プレハブで寝泊まりでは駄目なんっすか?」

 後輩に聞かれたアスが答える。


「現状は改造車の方が安全度は高いしな。プレハブ自体は見張りが使えるし……いざとなったら車輪止めだけ収納し、他を捨て出発も出来る」

「なるほど」

「まあ、このパターンは初だが悪くはねえだろ」


 どこかの建物内に入り寝床が確保できるなら良いが、今回のように難しい状態だった為、出発前に話し合いで構想していた簡易天幕を実行した。

 ミランの収納能力があるから出来る方法で、なければ普通に改造車内で寝泊まりだ。


「お前ら、喜べ」

 粉塵を避けた空間内で、ミランは机を出して上に業務用炊飯器を置く。


「えッ!」

「ま、まさか今夜もですか?」

 自分達の軍事基地のとは違う炊飯器に、ミランへ期待の瞳が向いている。


 ユノが差し入れしたのは3升分の炊きたて米(5合の予備あり)、業務用寸胴鍋に入ったスープ、1人2人前の焼き餃子、薬缶の温かい麦茶、ゴマ団子。

 それに人数分の箸と器だ。

「「「うおおおおおおお!?」」」


「マジかッ! 昨日の写真の?」

「ユノ様〜!」

「どんだけ〜!?」

 皆、ユノに祈りや愛の言葉、投げキッスを投げると好きに器にご飯を盛ってバクバクと食べていく。


「美味すぎる……ッ!」

「この遠征組に入れて良かった〜!」

「わかる。大当たりだよなッ!」


 各自、ブロック上や店舗から持ってきたベンチに座ったり、改造車の内側や尻部分に腰掛けたりしている。

 そして米&餃子&スープを口にしていく。


「デザートのゴマ団子まで用意してくれて……」

「そうだ。遠出したんですし……帰りに貴金属店行って前みたいに貴金属類取って帰りませんか?」

「うんうん。ユノ様に御礼したいよな!」


 善意で言う彼らは知らない。

 ユノが税金問題で頭を悩ませている事を全く知らない。


 気付かず一同が良い意見だと頷く。

「アクセサリー系も良いと思ったんですけど、やっぱり金銭になるのは貴金属なんでしょうね」

「前まで意味のない過去の価値になってたもんなあ」


「このゴマ団子1個の価値に勝る金は無いッ!」

「こしあんだ……うまぁ……ッ♡」

 熱いお茶とゴマ団子を食べ終わり、全部空っぽになった鍋や炊飯器を眺める男達。


「もしかしてさ……明日も差し入れあったりすんのかな……」

「こらッ、期待しすぎるなって……」

「そうそう! ユノ様に迷惑かけちゃ駄目だしな!」

 口ではそう言いつつ、期待に満ちた表情の男達。


 カタンッ。


 ゴーグルとマスクを付け直したミランが立ち上がり、空の業務用寸胴鍋を手にした。

「トイレの洗面所で洗うぞ」


「あ、おれ行きます!」

 グリットが業務用炊飯器と家庭用炊飯器の内釜を重ねて立ち上がる。(3升用と5合用)

「僕も行きます!」

 トトンも空の器と箸を集めだす。


「……わかっているとは思うが今の奇跡に溺れるなよ」

 ミランの低い言葉に食の余韻に浸っていた男達の背がグンッと伸びた。


「ヤムクーはプレハブで見張りを、アスは見回りの方を頼む」

「はい! 了解です!」

「おう。任せとけッ!」


 ジャーーーキュッ。


 食器などは必ず洗ってからユノに返すことを心がけてはいるが、空気中に漂う砂は拭い切れない。

「……」

 洗い終わり、ミランは鍋を収納した。


「リーガルって子が植物を育てる能力者なんだっけ?」

「うん。生きている植物限定らしいけど凄いよね」

 グリットとトトンは話しながら、手元の食器類を洗っている。


「そんな奇跡の能力持ってたら崇められてもおかしくないのにな」

「宝の持ち腐れ状態だなって僕も思った」

 グリットの言葉にトトンは頷いた。


「あ〜……コピーだか増殖だかの能力者がいるモールか。あれの方が多種多様な食糧を増やせるから埋もれてんのかねぇ……」

「最初は僕らも、そこと同盟結べたらなって思ってはいたけどね」

 初期段階の思考を、ぼんやりとミランは思い出す。


 確かに同盟が結べたら良いが、不自由しておらず、交渉が決裂する可能性はある。

 もしもの場合は、リーガルの姉を奪う形になる為、現在の懸念要素だ。


「まあハーレム王者って奴だろうし、あんま刺激せずに、お姉さんを奪還しないとな」

「やっぱり、それだよね……」

 ハーレム王者、知らない単語にミランの視線が向く。


「とは言って男拒否の中で、医者の男だけ許可したって事は、まあ大体そうだよな」

「うん……能力は確かに当たりだろうけど、僕はフラワー地区じゃ無くて本当に良かったって思うよ……」

「おれも彼女を連れてきたのがミラン隊長の軍で良かったわ……」

 2人は共通して思うものがあるらしく、頷きあっている。


 2人に少しの沈黙がおき、ミランは気になっていた言葉を訊いてみた。

「……ハーレム王者ってのは何なんだ?」


「え? あ……あ〜……その、男のロマン系の小説や絵物語で出てくる単語……いや、あんま出ては来ないか。読者である第三者からの指摘みたいな……」

 グリットが苦笑いで言う。


「その……男性1人がチート……えーっと、世界で唯一の素晴らしい力を手に入れて……天下を取るにあたり周りを女性で固めてハーレムを起こす現象……その状態をハーレム王者と総称するんです」

 トトンが頑張って説明した。


 ミランは思い当たる映像にハッとする。

「……紛争地帯でイカれたテロリストが自身の勢力を広げる中でする嫁攫いの行為が……? まさか……そういった言葉になっていたのか……」


 ミランの戸惑いの呟きに、グリットもトトンも映像を思い浮かべたようだ。

「おお……言われてみれば確かに……?」

「現実で言葉にするとエグいですね」

「ちなみに、これの男女逆転パターンは逆ハーレム王女って呼ばれてます」

「逆なのか……?」


 ミランの不思議そうな問いかけに、グリットとトトンの思考が少し止まり、喋りだす。

「言われてみれば何で逆……?」

「多分……男側から始まった言葉だからじゃないかな?」

「あ〜それだ」


「逆ハーレム王女……」

 ミランは呟いて少し眉をひそめたのだった。


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