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第37話 応援


 和宮国、八百万山の裾、敷地は広いが近所は遠い車移動が基本の田舎のお家に今日もユノはいた。


 自宅のソファーに横になってホットプレートで焼き中の餃子が出来るのを待ちながら、ミランの日誌を読む。

 側には常にゲーム機とトランシーバーもある。


 最近、ミランと連絡をし合うのが当たり前になってしまった。

 毎日、ミラン達の事ばかり考えて過ごす日々だ。


 ミラン達の精神力と行動力に、ユノはとても感心していた。

 ユノは生物学的な親に放置された日々や、山の事件の際に空腹を身に染みて覚えている。


 空腹は続くと思考が少しずつ崩れ、理性的でいるのは難しくなるのだ。

 まともに誰かの言葉に反応するのも蜃気楼の中にいるようで、最終的に思考はただの条件反射になる。


 そんな状況が長い間続いていた彼らの苦痛を考えると、酷く悲しく胸が痛い。

 そして、そんな状況でも精神を保っていた彼らに、とても驚いた。


 ユノは自分の状況からしか判断できないが、3年も気が狂わずにいれるか自信がない。

 あの空腹の中で、こんな風に穏やかな思考をしている人達がいるだなんて奇跡だと思う。


 ユノからしてみれば、百年に1回しか咲かない花を見ているような気持ちだ。

 本能が、その美しい花を愛でたいと思わせる。


 自身の奇妙な能力と何故か繋がった異世界のミラン。

 この支援の始まりは奇跡に対する偽善だ。


 そして、過去の自分への同情心や祖母ならばきっと手を差し伸べただろうという尊敬の念。

 そうした中でミラン達が人として好きだと分かれば、放置は出来ない。


 そもそもで税金問題には悩まされたが、彼らは出来る範囲で負担を減らそうと行動している。

 こうなってくると元々の資金が枯渇する心配も無くなり、あとは彼らの生活が向上する事を応援するばかりだ。



「どうしようかな〜」

 注文以外の買い出しを個人的に増やしていこうか。

 そろそろ冬眠月になるので雪が降ったら、より街へ出かけなくなるだろう。


 ゴロゴロ……。


 ソファー上で寝転がりながら文字を読む。

「へ〜サービスエリアの厨房のゴミ箱の中に大量のミルワームが飼われていたんだ……それは確実に人がいるね」


 終末世界では食糧が何よりも大切だと聞いた。

 すぐ側には山があり水の補給が出来るサービスエリアだったらしい。


 魚の生き餌によく使われるミルワームは穀物系が大好きな生き物だ。

 ミルワームは山の中ではまともに生き残れないが、人が生ゴミを与えれば容易に増えたと思う。

 否、人が人為的に餌を与えなければ生きていないだろう。


 ミルワームの餌は、どうしたのかを考える。

「やっぱ野生の稲とかスダジイかな?」


 山なら稲科やドングリがあるので人間は食べにくいが、ミルワームの餌にはなったんじゃないだろうか。

「芋や栗も採れたりしたのかな……?」


 少なくとも1年目は、ある程度の植物が生きていたと日誌で読んだ。

 魔物との戦いをしなければいけない恐怖はあるとしても、一部の生態系は残っていたと思う。


 そうして魚の餌を増やしたと予想し、生き残りを考える。

「まあ川も泥水らしいけど……あれかな? 鯰とか沢蟹とか……そこら辺の生命体は泥に強いし生き残ってそう。ミルワームは生き餌として最高だし……」


 ユノは温かい時期になると所有している山に祖母と毎回、釣りに行っていた。

 ミルワームも一時期、育てた事がある。


 自身の所有する山なので、カゴ罠を作って川に仕掛けたりもした。

 懐かしい想い出だ。


「鮎、美味しかったなあ……夏になったら皆と鮎釣りも良いな。誘ってみよ」

 ユノはホットプレートの餃子を見る。

 出来上がった分からフード用の紙皿に入れて収納していた。


 昨日は冷凍の肉まんを蒸してミラン達に渡した。

 その時に大袋の冷凍餃子を大量に買っておいたので今日はコツコツと焼き、2人前ずつ用意しているのだ。

「そうだ、ご飯も業務用のが届いて使いたいし使っちゃお!」


 業務用炊飯器はなんと、3升も炊ける。

 普通の炊飯器5合分も一緒に米洗いをして炊いていく。

「後で炊飯器、返してもらえば良いし炊けたら、このまま収納しちゃお」


 ちなみに米は麦を3割混ぜて炊いておいた。

 ビタミンBが摂取できる。

「うーん。この前猪頭で作った出汁を使って、スープも作っておくか……」


 まず量が多いとお湯が沸くのが大変なので、下の3分の1だけ水を入れて沸かしていく。

 お湯のポットも2台沸かす。

 その間に白菜、長葱、椎茸を切り入れる。

「これで煮て……」


 煮立ったら鶏ガラ粉末と猪出汁を濃いめに入れて、砂糖を少し入れる。

 そこにごま油を回し入れてからポットのお湯を入れて味を見ながら調整していく。

 最後に10個分の溶き卵を沸騰している中に入れて、ひと混ぜしてから火を切り蓋を閉め20秒待った。


 カポッ。


 蓋を開けると黄色い花が咲いた卵スープの出来上がりだ。

 これも業務用寸胴鍋ごと収納した。


 ゲーム機を見ると言葉が返ってきている。

「高速道路で廃棄された車や魔物の処理が約1日1回で、明後日にはフラワー地区に到着予定ね……それなら……」


 ネットの弁当店を調べ注文を行う。

 注文は丼チェーン店の松君店だ。


「カツ丼は冷めても美味しいし勝負に勝つ! って感じで良いかな!」

 明日の夕方に大盛り30人前を取りに行く。

 子供達や謎のキャンピングカーの人の分も一応足して、自分が食べる分も注文しておいた。



 ブロロロ……。


 次の日、丼チェーンの松君店に車で到着して、収納ボックスを3つ持って向かう。

「すみませーん。予約していた道堂です」

「あ! ミチドウさま! お待ちしておりました!」

「備考に書いた通りビニール袋は入りません。この収納ボックスに入れていきますね」

「助かります!」


 お店の店員と共に下から大盛りのカツ丼を入れていく。

 そして最初から30人分の割り箸、おしぼり、生姜の小パックをビニール袋に、まとめてくれていたのを渡される。


「あ、お車まで一緒に!」

「助かります」

 店員が2人出てきてくれて1人、ボックスを持って車へ。

 挨拶して別れ、すぐに1個以外のカツ丼の収納を終えた。


「せっかく街に出たし甘味やさんに行こうかな」

 チェーン店のケーキ屋に行き、明らかに美味しそうなクッキーを大量に選んでいく。


 ユノの栄養重視の糠クッキーと違う、長年研究されたプロのクッキーは、それはもう美味しいだろう。

 自分自身も食べるのが楽しみだ。


 ふと美味しそうなシュークリームが目に止まった。

「あの……こちらのシュークリームって、どれぐらい買っても良いですか?」


 店員に声をかけると、キョトンとした顔を向けられる。

「どれぐらい……あッ! 全部、大丈夫ですよ!」


 店員がユノがカゴに入れた、大量のクッキーを見て勢い良く言ってくれたので、ユノは頷き言う。

「じゃあ、このクッキーとシュークリーム全部ください」

「ありがとうございます!」


 シュークリームは1個だけ車の中で食べてみる。

 生クリームとカスタードのダブルクリームで、とても美味しい。

 脳が【ハッピー!!】とユノに力強く言い放った気がした。


 残りは収納し、次にドーナツ店に向かう。

 やはり皆大好きなチェーン店、ハッピードーナツちゃんは外せない。


 現在は人が少ない時間帯なので、テーブルで珈琲を飲んでいる人が1人いるのみだ。

「……すみませーん。今、ここにあるドーナツって、どれぐらい買っても許されますか?」


 店員に訊ねると不思議そうな顔になりハッとする。

「え……? あ! 大量に購入をされるんですか?」

「そうです。そうです」

「そうですね……もうすぐ新しいドーナツと入れ替えるので……店長〜!」


 話した結果、5分の4までなら良しとしてくれたので、値段は気にしないので店に残したいのだけ外してもらう。

 そして、それ以外を紙の箱に入れてもらって支払いをした。


「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ……できたてじゃなくて良かったんですか?」

「はい。大丈夫です。どのタイミングでも美味しいですから」


 一緒に車まで運んでもらい、お店を後にした。

「子供達は甘いものが食べたいって言ってたらしいから、これだけあれば皆で食べて喜んでくれるかな?」

 ドーナツも全部収納する。


「……アイス、いや、うーん。あと何が良いだろう? スーパーにも寄ろうかな」

 目に付いた昔ながらのスーパーに入ると、いきなり堂々としたポップを発見した。


 【パチモンきゃんでぃ賞味期限は今日まで! 助けてください!】

 下を見れば棒に丸い飴が付いていてシンプル包装がされている。

 商品名は別にパチモンきゃんでぃではないみたいだ。


「飴ちゃん? うーん……水飴でないか普通の飴っぽいね」

 品出し中の店員に聞く。


「すみませーん。そこの今日までの飴って幾つまで買っても良いですか?」

「えッ!? もちろん、全部です!」

 凄い前のめりで目を見開いて言われた。


「おお……あ、じゃあ全部買います」

「ありがとうございます!」

 自分で持っていこうとしたけれど店員が自らレジまで持って行ってくれた。

「全部で2651円です」

「やす……これで、お願いします」


 賞味期限は今日までだけれど、棒付きキャンディが241個手に入る。

 子供達が喜ぶと良いなと、ユノは思ったのだった。


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