第31話 栽培
ミラン達が暮らす軍事基地、朝。
彼は部下達と朝の訓練を終えて10時に子供達との定期連絡をし情報を少し得る。
植物成長能力をもつリーガルは色々な植物の成長補助はしているが、完全な成長は避けているらしい。
それは完全な成長は体力を大きく削り空腹度を上げてしまうからとのことだ。
『ヒマワリ畑は今は……30ヶ所ぐらいかな? バラバラに作っていて周期的に見回って採取してるんだ』
『飽きてはいるけど調理が楽だよね』
リーガルが作った小規模の畑を説明し、アルトが相槌を打っている。
ヒマワリの種は油無しで焦げないように焼き、殻は歯で噛んで中身を取って、ポリポリ食べるのが定番とアルトは言う。
『僕らの両親はフラワー学園の調理長と副調理長でさ、一緒に逃げた最初の頃は、まだ美味しい食事が作れたんだけどね』
『ママが松の木は食べられるって教えてくれたんだよ!』
アルトと妹のモーツが懐かしむように語っている。
『食べられる花の種類も両親が教えてくれて……』
『バンちゃん達が出してくれたキムチと交換したね!』
『そうそう。最初の頃は物々交換だったよね』
他には菊の花、デンファレ、ウチワサボテン、ヨモギ、春に勝手に生えているツクシやタンポポも食べてきたようだ。
『モッちゃん達が庭に生えてる松の木が食べられるって教えてくれた時は、びっくりしたなー。だって木だよ? 食べられるとか思わないよ』
『あはは』
「松の木か。確かに非常食になるとうちの隊員が教えてくれたな……」
訓練や実戦は何度もしてきたが常に栄養が多い携帯食糧や食堂が用意されていた為に、そういった知識が疎かになっていた。
サバイバル訓練は何度かあり、捕らえた魚、小動物、カエル、ヘビ辺りを焼くか煮て食べることはある。
場合によってはイナゴ、虫の幼虫なども食べた。
だが、それは生きている生物を運よく捕まえた状況なだけで、携帯食糧が基本だ。
下手に生物を食べて腹を壊す方が危険な為に、火通しの重要性を口酸っぱく教官に言われた映像が浮かぶ。
説明時は知識なく食べて、まともに生きれなくなった恐ろしい末路もセットな為に、火を通して食べるのは徹底されていた。
『松の木は多く食べると木を痛めちゃうからさ、能力で補助しても成長はゆっくりだし、3ヶ月に1回ぐらいかな』
『繊維も多いから混ぜ合わせてかさ増し的な感じだよね』
『ママは削ったの片手以上食べちゃダメって言ってたもんね!』
『女子学園があった頃は他の食べれる花や野菜も多かったんだけどね』
『残ってた野菜は根こそぎ大人達が持って行っちゃったもんね……』
どうやら終末の最初の頃は、フラワー女子学園という小学から大学までの女性だけが通う、巨大な学園が避難区域になっていたらしい。
女子学園は善意で他の住民を受け入れたことにより、生まれた派閥争いと、それにより生じた事件、そして植物魔物が重なって避難区域は壊滅した。
『受け入れ過ぎたのも原因だと思う。人が多くなり過ぎて食糧が圧倒的に足りなかったんだ……』
アルトが悲しそうに呟いたのだった。
***
昼食まで時間がある。
ミランが栽培用の種や道具類が置いてある倉庫を覗きに行くと、子供達と部下の妻や恋人がおり、作業分担について話し合っていた。
「じゃあ、ハオちゃんとウーロン君はこの2つを育ててみる?」
「うん! わたしが豆を育てる!」
「ぼくは茸を育てます!」
昔使っていた資料室を使い、豆と茸を育てるらしい。
元資料室の中の書類類は1年前に火種にしてしまった。
今では空っぽな棚があるだけの場所だ。
そこに茸の原木用の棚と水耕栽培用の豆を置き、片側ずつ仲良く使うらしい。
「あ、ミラン隊長!」
「おはようございます!」
「おはよう」
ミランはしゃがみ込み、2人の頭を撫でながら訊く。
「こっちは椎茸らしいが、そっちのは何を育てるんだい?」
「あ、豆もやしです!」
ハオ少女が嬉しそうに答えた。
「豆もやしか。懐かしいな」
ミランは過去の屋台で食べた豆もやしキムチ炒めを思い出す。
もし可能ならキムチが作れないかとは思うが、ミランは作り方を知らないので、調理担当に訊いてみよう。
「椎茸も豆もやしも同じ暗い場所で育てるんです!」
ウーロン少年が持っている付箋だらけのノートを見せてきた。
「それは……」
「ぼくの兄さんが書いていたんです」
そのノートの付箋には項目の名称が書いており、試しにページを開いてみればウーロンが育てようとしている豆についての説明があった。
予想するに終末後、ウーロン兄は植物を育て食糧を増やそうとしていたのではないだろうか。
ウーロン少年は終末前、大学院に通う兄に育てられていたが魔物によって命を落としてしまった。
ウーロン兄と仲が良かったのが、こことは別の軍に所属していたヤムクーで、妹のハオ少女と共に4人で半年間生き抜いていたようだ。
ミラン達調達班と出会ったのは、ヤムクーが敵に苦戦していた時だった。
その頃のヤムクーは一般軍人で、本来、結晶石を吸収していない人間が生き残るのは無謀と言って良い。
しかしヤムクーは、唸る程の武術で魔物を牽制していた。
彼の天才的な戦闘センスで、一般軍人でも、なんとか乗り切って生きていたようだ。
だが限界は来る。
あの日、ハオとウーロンが魔物を避ける為に点けた火の煙を見なければ、出会うことはなかっただろう。
ミラン含む調達班で援護して魔物を倒し、その結果信用され、共に同じ軍事基地で暮らすことになったのだ。
半年間のヤムクーは、魔物を倒しても、結晶石を取る行動は一度もしていなかったらしい。
どうやら拾う作業よりも逃げや警戒を常に優先していたようだ。
戦闘センスを見込んで積極的にヤムクーにも結晶石を吸収させた結果、今は千里眼を持っている。
絵物語にあるような未来予知までは行かずとも、勘が非常に良く元から眼力も高かった為に、監視警護も調達時でも重宝している。
「豆もやしなら育つのが早いんで、ハオちゃんと一緒に早く食卓に並ぶように頑張ります!」
「頑張ります!」
椎茸の原木も比較的早く育つ予定だとユノが言っていた。
食堂に自分達で育てた食材が並ぶのも、そう遠くないかもしれない。
ハオとウーロンと別れ、他のメンバー達にも話を窺うと、サンチュを育てていくと話された。
サンチュは比較的育ちやすいとのことで上手くいけば嬉しい。
他にも水菜やトマトを育ててみるとのこと、上手くいくかは分からないが、液体肥料もあるので可能性は高そうな気がする。
なぜだか分からないが、ユノからもらった物なら上手くいく気がしたのだった。




