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第30話 猪グラタン


 驚いたことに、アラタカは10万を全部綺麗に使い切って買物をしてくれていた。

 足が出た数百円は自分の財布から現金で払ったらしい。

「余ったお釣りは、アラタカさんので良かったのに……」


 配達を頼む余白部分で、10万円中、差額2万は本人の取り分可としておいた。

 しかし、アラタカは電子で渡した分を全額使い切って自分の懐に入れずに、むしろ出して来てくれたのだ。

「ユノさん、優しすぎるというか、あまりにも良客すぎて逆に怖いです!」

「ええ……」


 会話を緩くしながら、アラタカが買ってきてくれたチーズの袋を開けた。

 今開けたのは業務用のピザチーズだ。

「サツマイモと茸……これは肉団子? 美味そう」

「これは、猪の頬肉と耳、鼻をこねこねして表面を1回フライパンで焼いた肉団子です」


 今アルミ鍋の底には蒸したサツマイモと茸、猪肉の肉団子が並べてある。

 肉団子は頬肉をミンチにして、耳と鼻を包丁で粗めに刻み、黒コショウと塩、砂糖少しで味付けしたものだ。

 それをひと口サイズの団子にして焼いて、サツマイモらの上に並べた後にチーズをパラパラ振りかけた。

「この時点で美味い……絶対に美味い……」

「ふふ……」


 それまた上に炒めた茸をたっぷりと乗せる。

「すっごい腹が鳴る……」

「出来上がったら遠慮せずに食べてくださいね」

「ユノさん……」

 アラタカが子犬みたいなキラキラした目を向けてきた。

 大きな人なので全然子犬ではないのだけれども、子犬っぽいのだ。


 料理類を覗き込むアラタカは、鍋の桃色のソースを見る。

「このめちゃくちゃ良い匂いがするのは……スープ?」

「グラタン用のソースです」


 アラタカが見ている桃色のソースは、いくつか混ざっている。

 先ずは猪頭を圧力鍋で野菜と煮た後にサラシで濾して出たホロホロ肉と溶けた繊維野菜(茶パックのは抜いてある)。

 スープの方は別の料理で使う。

 今は、このソースに入れる残り具材のペーストだ。


 溶けた具材を軽くフライパンで炒め、水分を飛ばした。

 そして猪脳みそのペーストとトマト缶を合わせたところに入れて黒胡椒、塩、少しの砂糖で味付けし、もったりしたグラタンソースとなっている。


「アルミ鍋の高さがあるので断層にしていこうと思います」

「断層?」

 アルミ鍋に入れた具材上に桃色ソースをたらりとかける。

「そして、この上にマカロニを入れます」

「おお……って炊飯器!?」


 ユノは炊飯器を開けると中で炊いていたマカロニを取り出して、アルミ鍋の具材として足した。

「マカロニって炊飯器でも出来るのか……へえ〜!」

「コンロ少ない時は時短になりますよ。炭水化物が足りなかったらフライパンでリゾット作るでも良いですし」

「リゾット? 作ったことないや」

「なんちゃってリゾットで良ければ後で作りますか? アラタカさんの胃袋に入ればですけど……」

「入ります!」

「じゃあグラタンと一緒にリゾットも作りますね〜」


 マカロニ上にソースをかけて、蒸し芋を並べ肉団子を並べ、チーズをパラパラ。

 さらに茸を乗せてソースをかけて、これでもかとピザチーズを上にかける。

「このアルミ鍋は蓋付きなので、この4個をピザ窯に入れて蒸し焼きにするんです」

「すご~!」


 あとはカミヤが来るタイミングを考えながら先にサラダも作ろう。

「あ……サラダに果物入れようと思うんですけど食べれますかね?」

「サラダに果物……あ! 給食で食ったことあるよ! 林檎が入ってた気がする」

「ふむふむ」


 アラタカにもサラダ作りを一緒にしてもらうことにした。

 先ずは手をしっかりと洗ってから、大根とキャベツをスライス器で細くしてもらう。

 感覚は千切りキャベツの状態が大根にも行われ、ボウルに山盛りになった。


 その間にユノは林檎はイチョウ切り、蜜柑は粒で、そしてもらった柿を薄切りにする。

 アラタカに買ってきてもらったチーズ内にモッツァレラチーズがあったので、そちらも切っておく。

「ナッツあったかな……あ、あったあった」


 未開封のカシューナッツの袋を見つけた。

 生前の祖母のつまみだ。

 賞味期限は大丈夫だったので開けて金槌で砕いた。


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。

 オリーブオイル、柚子搾り汁、黒胡椒、塩を混ぜ合わせ、具材のボウルにかけ入れていた手を止めて、ユノは玄関に向かう。


 ガラッ。


「ユノユノ〜!」

「カミヤ先輩……!」

 玄関が開くと同時に抱きつかれた。

 ラフなジャージ姿のカミヤはすっぴんで髪が少し濡れている。

 どうやらシャワーを浴びて着替えてから来てくれたらしい。


「良い匂いすぎる〜!」

「グラタンは中身の具材は完成しているので今からピザ窯に入れたら焼き上がります」

「できたて食べれるってこと? 最高じゃん〜!」

 カミヤにギュウギュウされながら、ユノは軽く抱きしめ返し庭に彼女の車と護衛が2人いるのが見えた。


「あ……護衛の方も一緒に食事にしませんか?」

 護衛2人は軽く顔を見合わせて、チラッとカミヤを窺う。

「ユノちゃんが良いって言ってるし、頂いたらどうかしら?」

「「いただきます」」

 予定より2人増えて5人で食事が決定した。



 ***


 今日は雨が降る予報はない。

 炭団作りで庭に出していた机周りに椅子を運び並べてもらう。

 カミヤの護衛2人がしてくれた。


 その間にユノはピザ窯に向かう。

 炭作りの下側に燃料を足して上の窯にアルミ鍋をアラタカと一緒に置いて蓋をした。

「アラタカさん、軽く小箒で机の塵を落としてから台拭きで机を拭いてもらえますか?」

「任せて〜!」


 カミヤは車に持ってきたらしいクーラーボックスを取りに行った。

 ユノは台所に戻ると猪タンを2本分焼肉用に切っていく。

 グラタンのお供に焼いたのを出そうと思ったのだ。


 取皿、箸、フォーク、スプーン、サラダ入りボウル、トング、コップなどの用意を他の人達に任せて、なんちゃってチーズリゾットも作ることにした。

 ピザ窯でも作れるが今は使っているので、電気コンロで作ることにする。


 フライパンに生米と先程作った猪頭のスープを入れて強火でグツグツ煮込む、ボコボコして水分が減る度にスープを足す。

 時折、米の柔らかさを確認しながら3回めの水分が減ったところで、弱火にしてチーズをたっぷり入れて黒胡椒を削り入れたら、なんちゃってリゾットの完成だ。


 リゾットだけで食べるなら、もっと具材を入れるが今回はグラタンのお供なので大きく省略した。

「おわ〜、もうできたの?」

「あ、アラタカさん。料理類を持って行くの手伝ってもらって良いですか?」

「もちっ!」


 リゾットはフライパンごと持って行き、大きな取り分け用スプーンも合わせる。

 ピザ窯の中のグラタンは1回蓋を取って粉チーズをたっぷりかけて少しだけ焼く。

 そして取り出して1個を机に3個は、机が狭くなるからと台所に持って行った。

 実際は見えない所でユノが収納しただけだが。


 その間に空いたピザ窯内に厚手の四角いアルミ皿と、その上に網を置き、さらに厚切り猪タンを並べてもらった。

「比較的すぐに火が通ると思うんで、乾杯しますか!」


 カミヤがクーラーボックスから、クラフトビール、ワインボトル、シャンパン、レモン炭酸、オレンジジュースを取り出して、それぞれがグラスに注ぐ。

 護衛とアラタカはジュースや炭酸にして、カミヤとユノはお酒を飲むことになった。


 カキーンッ。


 乾杯をして水分を飲み込む。

 ユノは冷えたシャンパンの美味しさに、ちょっと震えた。

 昔からカミヤが持ってくるお酒は特別製なので、ちょっと良いのかと思うぐらい美味しい。


 その後は食事をしながら雑談だ。

「猪グラタン、底まで肉団子入ってますんで食べ応えありますよ」

「いただきます」

「カミヤ様、少しお待ちください」


 慣れたもので護衛が味見を先にしてからカミヤは猪グラタンを口にした。

「ん〜! 熱くてクリーミーで美味しい〜!」

 カミヤは頬を染めて喜びながら咀嚼し、グラスに注いだシャンパンを、まるで水みたいに一気に飲み込んだ。

「うんまいッ! あ〜! この味なら清酒も合ったわね~! 持ってくれば良かった〜!」


「お肉焼けたかな……」

 ユノは楽しそうなカミヤを横目にピザ窯から猪タンを確認する。

 厚切りなので、もう少しだろうか。


「サラダもさっぱりしてて最高! 私、ユノの料理が大好き!」

「いやあ……本当に美味しいですね……」

「猪肉初めて食べました。この肉団子がそうなんですよね? 凄い……」

 護衛の2人もレモン炭酸と一緒に猪グラタンを食べていて嬉しそうだ。


「女の子の手料理……この前のもらった肉も最高だけど最高です……」

 アラタカが感慨深そうに頷いている。


 アルミ皿の位置を変えながら様子を何度か見て猪タンを取り出した。

 別のアルミ皿に上の中身を入れて皆が集まっている机に置く。

「リゾットのお供にどうぞ」

「助かる〜!」


 ユノはカミヤの全力で喜んでくれる姿が大好きだ。

 ユノはニコニコしながら猪頭の肉が取れた骨をピザ窯に入れてから、自分も席につく。

「いただきまーす」

 ユノも猪グラタンを口にした。


 上から下までの層が厚いので、全部を口にするのは難しいが最初のひと口は猪脳の濃厚なクリーミーさとトマトの酸味、猪肉のホロホロや野菜のペースト食感が面白くチーズも良い感じだ。

「あふッ、ほぁッ」


 難点なのは出来立てで熱すぎるところだろうか。

 ユノはシャンパンを飲み終わっていたグラスにオレンジジュースを入れて飲み干した。


 厚切り猪タンは旨味が強くて食感も良い。

 ジビエは焼き立てじゃないと固くなりがちだが、濃厚な旨味が出やすいので、これに魅了された人は虜になってしまう。

 もちろん市販の脂身が多い柔らかな肉も美味しいが、野性味は癖になる旨味なのだ。


 なんちゃってリゾットとの相性も良くて安心する。

 サラダを食べてみれば果物と野菜のバランスが良い。

 ただ、猪タン以外の料理はチーズ入りなので、濃厚さで時間経過と共に胃もたれするかもしれない。


「美味すぎて……弟達にも食わせてえ……」

 ユノが茸、芋、コリコリ食感の肉団子を食べていたら、アラタカが小さな声でそう呟いていた。


 アラタカを見れば誰かに話しかけた雰囲気ではなく料理と向き合っている様子だ。

「そうだ。アラタカってユノといつの間に仲良くなったの?」

 カミヤが白ワインを飲みながら、そうアラタカに訊ねた。


「え? あ、オレ? ですか……えーっと、配達の仕事でごひいきしてもらってます……」

 カミヤに声をかけられてハッとした表情になったアラタカが自身のことを軽く説明した。

「ふぅ〜ん?」


 ガタンッ!


 カミヤは椅子から立ち上がり、ユノに真剣な表情を向ける。

「ユノユノ!」

「は、はい!」

「私以外と仲良くするのは良いけど、ちゃんと構ってくれないと寂しくて押しかけるからねっ!」

「わ……うん!」


「ひえ〜……ド直球……」

 アラタカが乙女みたいに、肩を跳ねさせた。

「お嬢ってユノさんのこと好きすぎない?」

「カミヤ様は、ユノさん以外のお友達がいませんから……」

「考えてみるとそっか……」

「カミヤ様は文武両道、多才であり、優秀すぎて嫉妬する者も多いですし……」

「あ〜確かにねー」

 そのアラタカの横では護衛が食事をしながら小声でそんな会話をしている。


 酔ったカミヤがユノの隣に座って肩を組み、絡み酒をされながら、夕方まで楽しく過ごしたのだった。


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