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第29話 カミヤ


 ザッ、ザッ、パキッ。


 青空の下、慣れた山道を歩きながら、今日も自分が仕掛けた罠を確認する。

 確認した結果、今日は狸が引っかかっていたぐらいで、収穫無しだ。


 赤髪の彼女は狸を無理やり罠の檻から出して背筋を伸ばし、山に声を上げた。

「は〜! タヌキっ、全然逃げない〜っ!」



 鹿用に仕掛けた罠檻の蓋が完全に開いていても『タヌキはもうだめです……』そんな雰囲気で丸くなっていて外から木で檻をカンカン鳴らした。

 しかし、『もう終わりだ……』そんな哀愁を出すだけで動かず逃げない狸。


 全く中から出なかったので罠檻を傾けて無理やり地面へと出した。

 狸は、ゆっくりと檻から滑り落ちて、べしゃっと地面の落葉に埋まり、そして絶望感を見せている。


「いや、逃げれるからね。もう自由、ちょっと前から自由だけど、より自由、はい、飛び立とうね〜」

 罠の設置を直しながら狸にそう声をかけたが『終わりだ……』と固まっている狸。

「はぁ……」


 彼女は仕方が無さそうに落葉が積もっている場所を見てかき集め、狸の横にバサッと落とした。

 狸は『え?』という顔をして彼女を見上げる。

「はーい移動しまーす」


 狸は大量の落葉をクッションに横にグイグイ押されて、ヨロヨロ進んでいく。

 40センチも押され続けて狸はようやくヨタヨタと自分で歩き出した。


「うん。行ってよし!」

 狸は1メートル進んで振り返り『本当に行けと?』そんな反応を見せたが特に捕まる雰囲気でないと分かると、ゆっくりと木々の中に紛れて行った。


「ううう、この狸の話をしたすぎる……はぁ……ユノと話せたらなあ……」

 そう呟いて背筋をもう一度伸ばし、軽いストレッチをしていれば、ふと煙が見えた。

「え?」


 ユノから出入りの許可をもらっている八百万山内を歩き、煙の方向を確かめる。

「ユノユノの家の方じゃん……」


 彼女は直ぐに猟師仲間に電話をかけた。

「あ、フシドリです。はい。今日も猟に出てるんですけど、なんだかユノちゃん家の方から煙が見えて……」

 フシドリがそう電話相手に言うと向こうは煙の色を訊いてきた。


 肉眼で見る限り薄めの白色だ。

 なので、そう伝える。

「え? あ……竹炭を……あ〜……じゃあ、そっか……えっと、ユノちゃんって会った感じどうでした……?」


 フシドリは息をほーっと吐いてから、猟師仲間にユノの様子を訊いてみた。

「糠の蒸しパンと糠クッキー? へえ……ピザ窯で……これは食べに行くしかないですね。ええ、ええ。大親友のカミヤちゃんが食べたいんですから、迎え入れてもらおうと思います」


 フシドリは電話を切ると、ユノが描いた愛すべき彼女の祖母の似顔絵アイコンを押し文面を考える。

「そうだね……ユノユノのご飯が久々に食べたいとか……ピザ窯を使った料理を……ていうか他から情報集める私ってキモい? やばっ」


 『ユノの方から煙が上がっているの見えたけど火事ではない?』そう、確認の連絡をチャットに貼り付けた。

 山を下山しながら何度もチャットに既読が付かないか、チラチラ確認していれば返答が来た。


 『今は竹炭を作っていて、その煙だと思います。今からチーズが届いたら猪グラタンも作る予定で……』そう文章が流れ、涎を垂らした熊のスタンプを押す。

 『今日、猟の後に予定ありますか? 2人は初対面になってしまうのですが、もし良ければ3人で食べたりしませんか?』そう誘いの文章。

「グラタン……! 予定はない! 行きまーすと……!」


 全力で行く気合いとスタンプを連投して、軽く獲物を探しながら下山を続ける。

 何も獲物に出会わなければ、1時間半ぐらいでユノの家まで行ける筈だ。


「グラタン! グラタン!」

 山を歩きながら、元気良くグラタンに想いを寄せる彼女に近付く影。

 その影は彼女の歩みを邪魔しないように歩きながら声をかけた。


「カミヤ様、今日は夕方に一族の定期食事会が……」

 その言葉に山を眺めながら言葉を返す。


「そうねえ。気乗りしないって連絡してくれる?」

 彼女の護衛は、少し困った表情になりながらも通信機で『欠席』の連絡をしたのだった。



 ***


 コトンッ。


 切ったサツマイモを入れていた蒸し器を机に置き蓋を開けると白い湯気がフワッと広がった。

 弱火でじっくりと蒸したので蜜が出ていて美味しそうだ。


「バーベキュー用のアルミがあって良かった……」

 ネットで耐熱皿を調べたらピザ窯では温度が高すぎる為に割れる確率が高いと出た。


 代わりにプラスチックが付いていないフライパン等で熱する事が可能ともあったが、作る量に対して数が足りない。

 なのでバーベキューで使える使い捨ての厚手アルミ鍋を出した。


 四角い深皿の方もあったが、こっちの方がミラン達に送った時に蓋を閉めた状態で渡せるので良いと思う。

 ついでにスープも、土鍋じゃなくこれで量産していくのも良いんじゃないだろうか。


 この厚手のアルミ鍋の底には蒸したサツマイモ、そして塩とオリーブオイルで炒めた茸を入れる。

 茸は朝に届いたばかりの椎茸、舞茸、エリンギだ。

 食感が楽しくなるように、あえて手で大きめに千切ったり割いたりしてフライパン山盛り3回分を炒めた。

「あとはアラタカさんが来たら、チーズを入れて……多分、カミヤ先輩が猟の罠確認を終える頃には出来るかな?」


 ピンポーン!


 そう呟いていれば玄関のチャイムが鳴って玄関に向かう。

 扉を開ければサングラスをしたフィジカルが強そうなアラタカが笑顔でいた。

「こんにちはユノさん! お届けに来ました!」

「わー! 助かります!」


 アラタカは開けた玄関から鼻を軽く上げて、サングラス下の瞼を瞑る。

「なんだか……すげー良い香りしますね……」

 そう彼は呟きながら腹を大きく鳴らした。


「今はグラタンの準備してて……」

「グラタン……! オシャレ料理だ……」

 アラタカはサングラスを取って再度、空気を吸い込んだ。

「あはは」

 ユノはにっこりと微笑む。


「この後、私の友達のカミヤ先輩という方が来られるんですが……初対面同士で大丈夫そうなら一緒に食べますか?」

「食べます! あ、でもカミヤさんは、オレ大丈夫かな?」

 アラタカは少し心配そうに呟いた。


「さっき、チャットで聞いてみたら承諾して……あ、その……最初からアラタカさんも一緒に食べないかなって思って、数に入れちゃってました……」

 ユノが少し照れながら言うとアラタカは自分の口元を軽く押さえて、乙女風にはわわとしてコクコク頷く。


「いつでも数に入れてください……大歓迎です……っ!」

「ふふ」

「へへ……」

 なんとなく穏やかな空気が流れ、そのままユノはサンダルを履いて玄関から出る。

 アラタカも持ってきた荷物を見せる為に自分の車へ向かったのだった。



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