第26話 炭団
ミランとの会話を終えて、トランシーバーを切ると一気に静けさがやってくる。
耳が音を拾おうとし、山に吹く風が木々の葉を揺らすのを感じた。
ユノは可愛い猫のトランシーバーとゲーム機内の猫を見比べる。
「うーん可愛い……」
軽く写真機能の話をしてみたけれど、ミランは撮るだろうか。
向こうの世界自体も気になる。
逆にユノの世界を写真に取るとしても今は山が周りに広がっていて向こうにとって面白みがあるか分からない。
「……ピザ窯で作っている最中の写真とかとってみる? うーん?」
文通友達から電話が始まりゲーム機でも交流ができるようになった。
とても嬉しい変化だ。
「これで、ミランさんが戦闘中にいきなり着信! みたいな恐ろしいことにはならないはず……!」
ゲーム機は音をゼロにすれば良いだけだし、そもそもで音が鳴るのはミニゲーム機能ぐらいだ。
収納空間から今日も貰った結晶石を取り出す。
軽い感じでミラン達はくれているが、このひと粒で医学の根源を色々と変えてしまいそうなものだ。
正直、ユノが送る物資では足元にも及ばないと感じている。
「……結晶石は寝る時に吸収しようかな」
取り出した結晶石は、なんとなく冷蔵庫へ入れた。
「まだ硬いね」
冷たい冷気の中でドンッと存在感を放つ猪頭2頭分を、指で軽く押してみる。
皮を剥いでいない2頭分の冷凍猪頭は冷蔵庫の中で、ゆっくりと解凍している最中だ。
「猪頭の解凍が出来上がるのは……明日の朝ぐらいかな?」
脳を食べないなら別の解凍方法をするが、明日予定している料理は脳も使う料理にしようと思っている。
「今日は炭団かバイオブリケットを作ろっかな」
炭団は、広義ではバイオブリケットの一種ではある。
ただし使う用途は少し違う。
バイオブリケットは加熱にて即効性がある可燃物、廃棄油や木屑を混ぜたリサイクル品といった認識がある。
なので火付けの時や素早い燃料投下として使う事が多い。
炭団を簡単に説明すると、炭の粉末と水、または糊状の何かしらを混ぜて団子の炭にしたものだ。
なので意味合いとしては粉末状になった炭を新たな塊の炭にするという部分が強い。
使う用途も炭代わりだ。
今回は粉として作った草、落ち葉、小枝を別々に砕き粉末にして、それぞれを団子にする。
そして熱の通り方や、燃焼時間に違いがあるか調べようと思う。
ミランの世界にも送るが炭作りの半分は趣味だ。
どちらにせよ庭に生える草や集まる落ち葉は定期的に処分しなければならず、こうして燃料に出来るならとても良いと思った。
「粉末作りをする前に糊作りしちゃお」
ユノには便利な収納能力がある。
片栗粉を水で溶かし鍋いっぱいの糊を作った後は収納だ。
「これに砂糖を混ぜてきな粉をつけたら大量のデザートになるけど、今日は我慢……」
片栗粉は食べ物なので勿体ないとされ終末側では使いにくいだろう。
ただ、片栗粉の糊で作った炭団はまとまりが良く食べ物を焼く炭として使った時は安全だ。
毒になるところがないので、ミラン達の身体を害することがない。
ガタゴト……ッ。
今日も青々と外が晴れているので、庭に行き、倉庫にしまっていた机と椅子を置いた。
「押し入れに眠っていたヨガマットを……」
ペタンッ。
小さいヨガマットを机の上に乗せた。
程よい弾力があるので今からの作業に丁度良い気がしている。
「炭で汚れるけど使わない方が勿体ないよね」
子供の頃に使っていたヨガマットは小さい。
成長して大きくなったので新しいのを買ってから使っていないヨガマットの使い道が出来て良かった。
手に軍手をはめた後は、古い風呂敷を広げる。
「この風呂敷も久々に使うなあ〜」
祖母が炭団作りの時に使っていた古い風呂敷だ。
ガポンッ! カラカラ……ザラザラ……。
煎餅缶を開けて中に入っていた草で作った草炭を、風呂敷に乗せた。
風呂敷で、その草炭を包み込むと上から麺棒や金づちで軽く叩いていく。
下にヨガマットを敷いているので良いクッションになって、良い感じに潰せていける。
サクッ、ザクッと軽い感覚と潰れていく触感が気持ち良い。
小さい頃はハサミで紙を切る楽しさに気づくと、ついつい紙を沢山切ってしまう時期がある。
あの時の興奮に似た感情が湧き上がり、夢中で炭の粉末を作ってしまった。
フーッと息を吐き汗をタオルで拭う。
「うーん、良い感じにサラサラ〜」
バケツ5個分の炭の粉ができた。
背筋を伸ばしてパキパキ鳴らすと、ヨガマットを片付ける。
次に銀色のボウルと木べらを1本用意した。
「最初は丸くしようかと思ったけどお菓子の型に入れちゃおかな」
銀色の菓子型も用意した後は、ボウルの半分ほど炭粉を入れる。
そして上から熱々の糊片栗粉を垂らした。
「まぜまぜ……」
祖母と過去に作った時は、木べらで混ぜた後、古い耐熱手袋をつけて団子にしていた記憶がある。
糊が熱い内に作ると綺麗にまとまるので、ユノには耐熱手袋を使わせてくれていた。
祖母は厚手のゴム手袋だっただろうか。
「私も大人になったし、ばあちゃんみたいにゴム手袋にしよう」
軍手を外し厚手のゴム手袋を手にはめて、ふと目の前のボウルや菓子型に既視感を感じハッとした。
「もしかして……お菓子作りと同じ感じでいける……?」
まな板代わりにカッターマットを用意した。
打ち粉として片栗粉をまき、上にボウル内の練り炭団を乗せた。
ここまでくると普段と似た感じで難しくない。
「わー! これ楽しいね〜!」
普段はクッキー生地だが今回は炭団生地を菓子型で押していく。
子供達が笑顔になるかもと花型や星型、ハート型、猫型もとってみた。
残った炭団生地は、まとめた後に棒状に伸ばして、カッターマット上で包丁で切っていく。
「あ……乾くまで少し脆いし表面だけピザ窯で温めてみるのは、どうだろう?」
クッキングシート上に型抜きした炭団生地を乗せて、ピザ窯にポンッと入れ込んだ。
「おお……」
少しして取り出すと表面がカサカサして軽い。
「段ボールの上に乗せて外で完全に乾かそ」
土地面積だけは持っているので家のいたるところに段ボールを広げて、型抜きした炭団を乾かしたのだった。




