第25話 さらなる物資
瞼を閉じ苦悶していたミランは、ハッとして瞼を開けた。
「ユノ!!」
ミランが声を張り上げたため、食堂の面々は息を呑み、視線が一斉に向く。
ミランは、そんな状態を気にする事なくトランシーバーのスイッチを入れた。
『ミランさん? 今お話し大丈夫ですか? 忙しければまた後で……』
「大丈夫だ。ユノ、無事なのか?」
『あはは。ご心配おかけしました。お互い、ちょっと忙しくて確認のタイミングがズレちゃいましたね』
ユノから聞こえる朗らかな声色に食堂の面々は興味深そうに聞き入る。
この声の相手が彼らに食糧を大量にくれた別世界の相手なのだろう。
「ユノ様……」
「……ッ」
思わず名前を呟いた1人の口を塞ぐ周りの面々。
今は誰もミランとユノの会話を邪魔したくないのだ。
『お時間大丈夫でしたら、このままお話し続けますね』
「ああ。いくらでも……」
周りがギョッとする。
普段から真顔が多く、笑っても僅かな男が見るからに優しい表情になり、声も甘い。
『そちらに食糧の補充をしたいので……空いてる倉庫に移動してもらえますか?』
「ああ。了解した」
直ぐに立ち上がり歩き出すミラン。
何人かは無言で顔を見合わせ、付いていこうと静かに音を立てず動く。
「いつも本当に助かってるよ」
『あはは! ミランさんは充分な資金をくれましたし、それに私の足を治してくれましたから……本当にありがとうございます。毎日足の痺れが無くて痛くなくて自由に動けるなんて、もう一生無いと思ってましたから……』
「ユノ……」
2人の会話を真剣に聞きながら食糧物資の補充の整頓を建前上は行う為に続く部下達。
実際は2人の行く末が気になって仕方がない。
邪魔をしないようにそれぞれは動き、その動きは静かで、日々魔物と戦った上での洗練された賜物だ。
ス……ッ。ス……ッ。
部下達が後ろから奇妙な行動をしている中で、ミランとユノはトランシーバーで会話を続けている。
『あ、そうだ。竹炭……炭なんですが、ちょっと、生えすぎる竹で作ってみたんです。試しに使ってみませんか』
ユノの言葉にミランは空間にある箱に集中した。
多分だが、それだ。
「……空間の中に入っている箱のかな?」
『そうです、そうです。この後は炭団……バイオブリケットの方が近いかな? なんというか炭団子みたいなのを作ろうと思っているんです。良ければ、それも後日送りますね』
「それはとてもありがたい。だが、ユノに負担がかかり過ぎないだろうか? こちらも枯れた木を集めて炭作りは何度かしてはいるから……良ければ、その竹自体を送ってくれたら嬉しい」
『あ、それなら! 竹は外に晒しているものなので……食糧を渡した後に多分別の場所ですかね? 竹を置いて良い場所があれば……』
「なにから何まで気を使ってくれて、ありがとう。ユノ、倉庫に着いたよ」
ガラガラ……ッ!
倉庫に辿り着きミランは扉を開けた。
『ありがとうございます。種類としては、野菜、果物、卵、小麦粉、乾麺、缶詰、大量の調味料……それなりに、いっぱいあります』
「またもそんなに……順番は気にしなくて良い。広い場所に出して分別を各自していく。こちらには体力が有り余って足腰を鍛えたい者ばかりだからな」
ミランは、チラッと後ろに静かに付いてきている仲間達を一瞥した。
視線が向いて、彼らはへらりとした笑顔を見せた。
作業への同意だ。
普通に重労働となる内容だが、前まで飴玉ひとつ見つける為に街中を彷徨い、細かく探し回っていた状況と雲泥の差だ。
目の前に置かれるのは食糧の山。
それは彼らにとって宝の山なのだ。
全員が喜びと共に、やる気しかない。
どう考えたって今までの中での最高の仕事だ。
『大丈夫そうです? じゃあ、先ずは缶詰から行きますか!』
「おう」
ミランが能力に集中し収納空間の内側に缶詰の箱が大量に入ってきたのを感じる。
すぐ倉庫に缶詰が入った大量の箱を放出した。
「おお……ッ!」
「すげぇ……ッ!」
興奮で思わず声を出してしまい慌てて自分の口を塞ぐ部下達。
『次は米や小麦粉、あと追加の豆粉です。片栗粉もありますよ』
「助かる」
直ぐにミランの収納能力の内側に入り込んだ物資を感じ放出する。
大量の米袋、小麦粉、豆粉、片栗粉等が山となった。
「うおッ米ッ」
「シ……ッ!」
白米の多さに周囲でガッツポーズが起きたが、できるだけ無言を保っている。
『次に野菜です。先ずは硬めのサツマイモ、里芋、人参から……』
「よしきた」
これまた倉庫内で山積みになっていく。
ドサッ! ドサッ! ドサッ!
倉庫の中央に大量の荷物が積まれ、すでに倉庫の3分の1が埋まった。
「ユノのお陰で食堂の料理の種類が更に豊富になるよ。ありがとう」
『えへへ……あ、それと、そっちには水があるって教えてくれたので椎茸の原木を用意してみました』
「茸を自分達でか……子供らが喜ぶ。ありがとう」
『そんなに多くは無いですが20本程です。水を霧吹きで程良く与えて育ててみてください。あ、霧吹き用のも一緒です』
「気がきくね」
『んんッ。そ、そうだ……水での栽培が可能ならと思って種と液体肥料なども用意してみたんです』
「種と……ユノの世界の野菜か……それに肥料もとなれば……」
ミランは少し考える。
終末になっても農家は必死の思いで作物を育て研究所も方法を模索していた。
その中で水耕栽培の話も最初の頃はあったと思う。
最初の1ヶ月内の、遠い記憶ではあるが。
これだけ粉塵が多い今では難しい話となったが考えてみれば、ここには水はある。
他の地域よりも生き残れた理由の水。
終末1年目、誰もが考えた自給自足のための栽培。
多くの者が種を取り、何とかこの軍事基地でも手に入れはした。
しかし、どの野菜も上手く実らず、大抵が失敗し種の方が先に尽きてしまったのだ。
連絡を取り合い見付ける事が出来た生きている植物を育てる事が出来る少年リーガル。
彼が上手く育てているのはヒマワリで、他にも食用の花を育てている話はあった。
推測するに子供達には野菜の種が手に入らなかったのだろう。
そのような奇跡の力があろうとも、取り合いの中で元となる種が無ければ上手くいかない。
そんな喉から手が出る程に素晴らしい能力者であろうとも、コピーか増幅か、何かしらの能力者であるモール主は受け入れなかった。
否、信用できず言わなかったが正しいか。
多分、リーガルの姉も秘密にしているからこそ無事なのだ。
リーガルの能力を知った時、モール主がどう出るか。
現在の推測はふたつ。
取り入れるか、主を脅かす者とし処分するか。
「……」
紛争地帯で何度か目にした人の欲を知っている。
実際に起きた事件でもそうだ。
女性達を攫い。
隔離した空間で無理やり自分達の嫁とする行為。
そんな悍ましい行為が、食糧があったあの頃にも存在したのだ。
特殊な能力者が力を手に入れ、権力を持った時どうするか。
考えたくは無いが、どことなく推測できる。
推測、できてしまう。
ミランは整頓をする面々に目配せをすると倉庫を後にした。
今、向かっているのは植物を育てる事を楽しんでいる子供達に明け渡した倉庫だ。
あそこに一時的に炭や竹も置こう。
ミランはユノに話しかけながら、のんびりと進む。
「素晴らしい数々を、ありがとう。助かるよ」
『あはは……あッ! そうでしたッ! ミランさんに渡したいモノもありまして……収納空間の中にゲーム機が入っているの分かりますか?』
「ん? あ、ああ……あった」
集中すると収納の空間内に携帯ゲーム機を見付けた。
『それ。祖母と昔使ってた通信機みたいなもので……字が選択できてペンでも書けますし声でも文字を入力できるんです』
手元に出した携帯ゲーム機を、マジマジと眺める。
通信機器は色々と触り学習してきたが、ゲーム機を触るのは初めてだ。
『充電も出来ますし足りなければ予備の電池を使ってください』
電池も収納内にあるようだ。
『トランシーバーと同じ理屈なら私達限定ですが……字面の交流が出来るはずです』
「そうか……確かにそうだ。ありがとう」
立ち止まり、廊下の壁に背を預け携帯ゲーム機の電源を入れてみる。
パッ!
ディスプレイが明るくなりシンプルな文字項目『通信を開始!』を触ってみれば画面が切替わった。
画面を見て説明を眺めると、この四角い枠線の中に書いた文字や絵が送信できるらしい。
文字を【ユノ】と書いてみる。
『あ……ユノって通知がきました。ふふ……』
書いて直ぐだ。
これならリアルタイムで軽い置き手紙が行える。
ミランが通信機を眺めていれば新しい通知。
通知内には【ミラン】顔を緩ませながら文字以外も出来そうだと、ためしに絵を描いてみる。
笑顔な猫の絵をひとつ。
『あれ可愛い! あはは! ミランさんて、お茶目なんですね!』
「ンン……た、楽しいなこれ」
『ふふ。ですよね? あ、写真機能もあるんですよ。良かったら使ってみてくださいね』
「写真機能……」
たどり着いた倉庫に段ボールに入った竹炭、竹、椎茸の原木、水耕栽培のキット、種、肥料などを出していく。
今は側にいないが、椎茸の原木と水耕栽培に喜ぶ子供達の顔が浮かんで、ミランは自然と口端が上がった。
『そうそう。作ってあるピザもどきや、鍋などのスープは好きなタイミングで食べてください。基地の皆さんで食べても良いし外に出た時に食べるでも良いですし……』
「ありがとうユノ。こちら側からは少ないが結晶石を受け取ってほしい」
ユノは貴金属類を少しだけ出してから、ずっと収納しているようなので今回は結晶石を勧めておいた。
『わぁ~! 嬉しいです!』
「喜んでもらえて嬉しい……ンン……ユノ、その君が難しければ強要はしないんだが……」
『はい?』
「名前……俺のことは、さんを付けずに読んでも大丈夫だ」
『あ、つい……癖ではあるんですけど……ううん……言えそうな日が来たら言いますね!』
世の中には敬語を使った方が楽なタイプはいくらでもいる。
ユノも、そのタイプなのだろう。
もう少しだけ、もう少しだけと会話を続けたくて話していたが、ユノの方から終わりを切り出してきた。
『それじゃあ、そろそろ……また話しましょうね!』
「あ、ああ……話そう。ンン……ユノ、お気を付けて」
『はい! ミランさんも、どうかご無事で!』
プツン……。
トランシーバーでの通話が終わり、ミランはもの寂しさに、無音になった機器を撫でたのだった。




