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第24話 入電


 通話を終えて、ミラン達は何ともいえない気持ちで食堂へ向かった。

「お祖母さんが漬物を残しておいてくれて本当に良かった……早く子供達に会いたいですね」

「ああ……」


 トトンの言葉に頷き、ミランは考える。

「……」

 調理担当に頼んで出来立ての料理を作って収納しておくのが良いだろう。

 温かく、ホクホクで、出来るだけ美味いものを食べて喜んでほしい。


 この基地にも子供は居るが、大人の大半が現役の軍人だ。

 サバイバル知識も一人一人が持っている。


 ここの子供達の場合、護るべき対象としての意識が強い。

 しかし、普段から一人で生きる為の知識は、それぞれの身内が教えている。


 いつ何時、その身内が失われるかわからない為に、誰もが丁寧に子供達に生き残る術を教えているのだ。

 そういった点では、この軍事基地の子供達は、外の子供達と基礎知識量が違う。


 普通の子供達だけが魔物が蔓延る外で生き残るのは非常に難しいと、安易に予測出来る。

 それでも生き抜いてきた外の子供達の生活は、どれほど過酷だったろうか。

 一番歳上のリーガル含め、子供らは徴兵前の未成年達だ。


 成人後の男子に課される約2年の徴兵経験があれば、また違ったかもしれないが、逆にそれで生き残った可能性もある。

 彼らは大人を疑ってはいるが、それは他人に対しての認識のみだろう。


 子供達の擦れて無さを考えると、多分最初にいた10人中、残り5人は大人の義務を果たしたのではないか。

 その中にいたのは彼らの身内か、知り合いか。


 子供達は別々の3組が共同生活を行っている。

 代表のリーガル、不在の姉。

 兄妹の、アルトとモーツ。

 祖母との想い出を話したバン。

 まだまだ事情を聞かないと分からないが、子供らだけでこの終末の世界を生き残れたのは奇跡だ。


 妙な点が多いショッピングモールを支配している者が、フラワー地区を上手く回している可能性はある。

 しかし、子供でも性別が男であれば受け入れないのは不穏だし、内に入れずとも配給の体制を作るわけでもない。

 リーガルの姉も何かが起きたと思われる。

 それも真っ当では無い何かだ。


 ミラン達は魔物を連日倒し洗練された力を持つ者達で、いざとなれば戦える。

 だが人の命が、人同士で脅かされる場合、少々厄介な事になるだろう。



 ざわざわ……ざわざわ……。


「……」

「ミラン隊長! ささ、昼食を腹いっぱい食ってください!」

 食堂へ入って列に並べば、嬉しそうな調理担当に迎え入れられた。

 見れば随分と美味そうな料理が見え、腹が自然と鳴る。


 先ずは、いつもの平たい豆パン。

 次に油で炒められ、麺つゆで味付けされた細切りのサツマイモとポーク缶の塩気が丁度良さそうだ。


 同じくサツマイモだが形を変えて、もうひと品。

 サツマイモ、茹で卵を潰し、ポーク缶と混ぜ合わせ調味料のマヨネーズと胡椒が効いた芋サラダ。

 それに麺つゆで味付けされたツナ缶パスタ、刻み葱入りだ。

 緑の色味が増えるだけで気分が上がる。


 空にした2種類の缶詰内の脂を今回も使い、シンプルな旨味を感じるスープに網焼きで焼かれた筒ネギが沢山入っていた。

 軽く炙られた白ネギは、香りがとても、とても良い。


 こうして何品も食べれる状況は、ユノと能力が繋がったおかげだ。

 毎回心の底から感謝している。


「ミラ、芋サラダを豆パンに挟むと美味いぞー!」

 今回もアスは妻と子供の側で食べながら、前側の席に座ったミランに話しかける。


「おう。日に日に豪華になっている気がするな……」

 勧められた食べ方を真似して食べ、甘じょっぱさと口の中いっぱいを占める幸福感に喉を鳴らして飲み込む。

 やはり、今日も美味い。


「美味い」

「だなッ。ユノ様のお陰様だッ」

「ネギって甘いんだな……」

 スープを飲んで白い焼き葱を食べて感慨深そうに呟いたミラン。


「実はオレさ。昔は葱が苦手だったんだよなあ……今食うと、めちゃくちゃ美味くてびっくりだわ」

 アスの言葉に頷く。

「向こうの食材の新鮮さもあるが、栄養を求めて味覚も変わったのかもな……」

「確かに昔は、全然食いたくなかったもんが今じゃ食いたくて仕方ねーときあるもんな……」

「わかる」

 ミランも菓子類を昔は好まなかったが、今では脳の奥深くまで『美味い食べ物』と染み込んでいる。


「オレ、桃とか食べにくいし……過去は全然好きじゃなかったのに、今じゃあの時に食った味が忘れられねーの」

「ああ……」

 ミランは深く同意した。


「あ、そうだ。ユノ様と連絡は、とれたか?」

「……まだだ」

 一気に暗い雰囲気になるミラン。

「まあ。悩んでても腹は減るッ! とりあえず冷める前に食い切ってから連絡について考えようぜ!」

「……そうだな」


 目の前にあるのは、全部ユノがくれた大切な食糧だ。

 無駄にするなんてあり得ない。

 ミランは息を吸い込むと、一欠片も残すことなく全てを綺麗に食べ切った。



 ことんッ。


 温かな湯気が立つ湯呑が置かれる。

「ほら砂糖湯でも飲んで皆で考えようぜ」

「すまん……」

 アスに言われてミランはコクンと頷き、温かな砂糖湯を口にした。


 ミランが文通相手と連絡が取れない状況は昨日のことがあり、周りに情報は広がっていた。

 ミラン自身も特には隠していない。


 相手が自分達を助けてくれている救世主であることも含め、周りは興味津々だ。

 アスとミランのやりとりを少し遠巻きに見守っていた。


 そんな彼らにアスは視線をぐるりと向けて声を出す。

「皆、全員の知恵を使って考えるぞ! 脳筋だらけでも、ひとつぐらい良いの出るだろ!」

 アスの呼びかけに周りは待ってましたとばかりに頷いて、腕を組んだり己の顎を撫でたりして悩みだした。


「うーん、今日もこちら側の日誌はしっかりと書き込んで、状況をさり気なく説明をするのと……」

「臭い台詞は駄目ですよ。ポエミーは論外です!」

 ポエミーとはポエムを語る者。

 どうやら、ロミオメールは、ポエミー系らしいと気が付くミラン。


「ミラン隊長が、そんなアホ事するわけねーだろッ!」

「あてッ」

 部下の信頼を裏切らない為にも、ポエムは絶対にしないでおこうとミランは思った。


「ミラン隊長、日誌とユノ様の日記を交換して読む以外は、手紙のみのやり取りなんですか? ユノ様の世界側が平和なら他に何かないですかね?」

「……実は」

 周りに言われて、ミランはそっと子供向けのトランシーバーを取り出した。


 ユノとお揃いの品。

 桃色猫の可愛いトランシーバー。

 体格の良い男が持つには、少々滑稽な見た目になる。


「可愛いっすね」

 部下達は微笑ましい表情をした。

「……」

 ミランは少し恥ずかしそうだ。

「コレで今から連絡するのは駄目なのか?」

 アスの言葉にミランは少し口籠り言う。


「手紙が来ていた初日にしなかったんだ……気まずい……」

「なんだなんだ。こんなナイーブな男がオレ達の隊長なのか〜?」

 アスが呆れた雰囲気で言い。

 ミランは瞼を瞑って眉間にシワを寄せる。

「……嫌われたくないんだ」

 思わず情けない声が出てしまった。


「ミラン隊長」

 ふと、食堂に残る面々の中に混ざって話を聞いていた調理担当の妹が言う。


「それ、そもそも好かれてるから出る言葉でしょ? こんだけ、いーっぱい良くしてくれてる相手に嫌われたくない気持ちも分かるけどさ。正直、連絡来ると思ってた日に連絡来なくて先延ばししてたらウザいよ」

「うわッ、あほッ! 妹が、すみませんッ!」

 兄に抱きしめられる形で口を抑えられ妹は嫌そうな顔をした。


「ン……いや、その通りだ……本当に……ありがとう……」

 青い顔になったミランに、部下の何人かはソワソワしている。


 その時だ。

 トランシーバーからノイズ混じりの音が鳴ったのだった。



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