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第23話 すれ違いの狭間


 魔物が砂になり粉塵が舞う世界。

 田舎山の上部にある軍事基地。

 その内側の食堂で落ち込む男がいた。


 本来、食堂に足を踏み入れたら食事を受け取る列に並ぶものだ。

 しかしミランは、受け取らない状態で食堂の定位置となっている席に座って夕日に照らされている。


 淡い赤さがミランの身体半分を照らし椅子に横座りして、ぼんやりしている彼の半分の身体の暗さを際立たせていた。

 何人かの部下は気になって声をかけようか逡巡している。


 軍事基地の副隊長であるアスは遠巻きに隊長であるミランを眺めて、二の足を踏む部下達に気づいた。

 自分の分の料理を家族の元に置いてから、直ぐにミランに近付いて、話しかけることにしたようだ。


 一方、ミランは思考があることに集中し、周りの戸惑いに一切気付いていなかった。

「……」


 ユノに現在の事情の手紙を朝に書いたが、返答が無い。

 昨日は連絡せずに書き置きひとつ残さなかった。

 それがいけなかったのだろう。


 無神経だったと、昨日の寝る前にせめてメモひとつ残せばと思う。

 しかし、今更だ。

 そして周辺魔物の討伐を終えた夕方になった現在も手紙は残っているし、返事は見当たらない。


「ミラ、どうした?」

 親友であるアスの声にピクッと反応し顔を向けるミラン。

「ユノから返事が無くて……」

 情けない声が思わず漏れ出た。


 その言葉に、アスは重要なことだと真剣な声になり訊いた。

「ユノ様から? まさか事故にでも?」

「いや……昨日俺が返事をしなくて、朝に返したんだが……」

 少し固まるアス。

「……まあ、前みたいに通信機があるわけじゃないしな」

「ああ……」

 沈黙。


 アスは柔らかい表情になってミランに言う。

「お互い一日ずつ、自分の時間を持っても良いんじゃないか……?」

 既婚者のアスの瞳が生温かい。

「そ、そう……だよな……ちなみになんだが……」

「おう」


 ミランは唾を飲み込み言う。

「手紙を出して返事が無いのに、また手紙を書くのは変か?」

「あー……ミラ……いや、ミラン。ユノ様の日記は読んだのか?」

「まだ変化は無い……」

 大の大人が、しょんぼりしている。

「じゃあ、ミラの日誌は? 昨日のは書いたのか?」

「あ、書いてないな……」

 アスの言葉にミランは、ユノの反応ばかりを気にしていた事に気がついた。


「じゃあ、先ずは日誌に昨日の忙しさを態とらしくなく書き、今日のも今から書く! 一応言うがロミオメールみたいな雰囲気はダメだぞ」

「ロミオメール……?」

 知らない言葉にミランは戸惑う。


 そのミランの、子犬のような表情にアスは保護者の如く頷いた。

「そうか……じゃあ、今回はオレが監修しても良いか? プライベートな事を見るのは、あんまり良い事じゃないが……」

「頼む。書く……よし、書こう」

 勇気が出たらしい、ミランは日誌を空間から取り出す。

「よしよし、その意気だ」

 丁寧に文章を書いていくミランに、アスはニカッと笑顔になった。


「……どうだろうか?」

 内容を横から眺めていたアスは大きく頷く。

「良い感じだな! ミラは元々の性格からして良い奴だって再認識したわ!」

「え、ありがとう?」

「うんうん」

 食堂で食事も食べずに落ち込んでいたミランの背中を笑いながら叩くアス。

「親友の恋路を、こんなにも応援したくなったのは初めてだわ!」


「こ、いや……俺達は、そういった関係じゃなく……」

 戸惑いながら顔を少し朱くするミラン。

「ブハッ! まあ、どっちでも良いよ。仲良くしろよ! じゃ、飯食おうぜ、飯!」

「ありがとう……」


 日誌を書いた後は食事を終え、予備として(収納してユノに渡すかは別)手紙も書いていると、アスの妻や調理担当の妹まで来て軽いアドバイスを受け、書き切ったのだった。



 ***


 ピピピピピ……ッ! カチッ。


 早朝。

 最近電池を入れて使い出した目覚まし時計で目を覚ますミラン。


 起きたミランは収納内を真剣に調べてみた。

 何やら鍋や段ボール、クッキーなどが入っているのが見えた。


 しかしメモや返答は無い。

 一時的に入れているだけかもしれないので触らずに、ユノの日記の更新が無いか調べる。

「……物が増えているなら事件ではない、よな……?」


 それとも手紙が書けない状況、忙しいか周りに人がいるのかもしれない。

「……」

 ちょっと寂しく感じたが頭を振って、ミランは朝の訓練へと向かった。



 パァン! タンッ! ダンッ!


 室内の訓練所で、部下達と能力は一切使わず組手を行う。

 極端に食糧が無かった時期は訓練はなくなっていたが、こうして行えるようになったのは良い変化だ。


「ミラン隊長、現在集まった結晶石は38個です」

「ご苦労。そうだな……半分をユノに渡し、残り半分はこちらで使おうか」

 この基地には能力者が18名、結晶石で体力が僅かに向上した非能力者が45名で残りは民間人がいる。


 今は食事が整い出したので生活も一気に改善されていく最中だ。

 なので、その変化に対して、こちらも向上させていこうと思う。


 結晶石は感覚としては百体以上の魔物を倒すと1個手に入る。

 そして、その結晶石から能力が開花するかは完全に運だ。


 しかし開花した者達の感覚だと10%ほどの確率で手にしている。

 感覚なので世の中には早い者も遅い者もいるだろう。


 ミランは百以上の結晶石を吸収して、スピード能力を手に入れた。

 自分で多くを狩ったし過去にはあった食糧と交換もした結果の数だ。

 終末半年ほどは結晶石の価値が高く、食べ物より価値があるとされていた。


 今では、魔物を倒していれば稀に手に入れて、ちょっと強くなる石ぐらいの感覚だ。

 だが、こうして食糧で人として生きれる意識ができたのなら、新たな開花を探しても良いのではないだろうか。


 まだ結晶石を一度も吸収していない軍人達の身内は多い。

 民間人達に能力開花を目指して吸収を行わせることにした。


 今日は体力低下が目立つ人優先で吸収し、明日以降は手に入れた半分で、吸収していない者達に配っていく予定だ。



 朝の10時が近付いて、水のシャワーで汗を流し通信室へ向かった。


 ツーツーツー……。


 連絡をする約束の時間10時となり、子供達に繋げる。

 直ぐに繋がって待っていてくれた事に、室内一同で安堵感が広がった。

『時間ぴったりだね』

『かかってこなかったら、どうしようって、ちょっと思っちゃった』

「そうか……出てくれて、ありがとう」


 子供達と話すと、フラワー地区のライズ通りからは少し離れた幾つかの場所に暮らしている話が出た。

 今いる雑貨店は、そのひとつらしい。


『なんかさ。モール内には男は住めないんだけど、その周りを固めて暮らしている他から来た大人達が居て……定期的に街を探索しては女性を探しているっぽいんだよね』

「女性を……」


 終末の世になってから人の道徳心は欠如した。

 だが性欲も食糧の無さから無くなって暫く。

 考えてみれば、そのモール近くに住む者達は、比較的食糧を手に入れられているのかもしれない。


 単純に考えれば欲を満たす為に探している。

 しかし、モールを仕切っている者が女性のみを受け入れるとしているならば、食糧との交換条件にし、探している可能性もあるのではないか。

 どちらにせよ胸糞悪い予想だ。


『前は姉さんもいたって話したろ。あの頃は、こちらの人数も10人いて徘徊している他の奴らに襲われるぐらいならって姉さん自らモールの主と交渉してさ、定期的に食糧をくれるようになったんだ。ただ……なんというか……だんだん、余所余所しくなりだして……』

 リーガルが喋った後にアルトが言う。


『僕は正直さ、あそこ変な感じがして好きじゃないんだ。食糧はそのコピー能力とやらで、あるみたいだけどさ……変なんだよな。女性だけって話したけど、あれ規定があって40歳以下の女性なんだよね』

「年齢制限があるのか……」

『うん。あと、なんか……30歳以上は面接があるって聞いた』

「面接……」


『あーでも、使える能力を持っていれば40歳以上でも可だとかも言ってたよな』

『うん。そうそう、1人だけ例外で男性も入れたって話も聞いたよね』

「1人だけ例外? その条件は知っているかい?」


『どうも医者だったみたいです』

 リーガルが発言し、ミランが一旦、受け止める。

「医者か……」

 確かにある程度の物資がある場所なら、医者の存在は貴重だろう。

 男でも受け入れられたのは納得出来る。


『ねーねー。甘いお菓子もあるのー?』

『モーちゃん……』

「砂糖や果物の缶詰はある。サツマイモも使い方で菓子パンのようなモノは作れるから、それで良ければある」

『やったー! 早く食べたーい!』

『甘いものも良いけど、おれ辛いの食べたいな……キムチとかさ保存食だし残ってないの?』


 モーツが生き生きと喋った後に沈黙していたバンが呟き、ミランは考える。

「そうだな……唐辛子はあるし……キムチは今の所は無いが似たモノは作れるかもしれない……か。いや、すまん。俺は、あまり料理に詳しくない。辛い料理なら出来るとは思うが、それで良いか?」

『うん! いいよ! おれ、婆ちゃんが漬けたキムチで作るキムチ鍋が大好物で……あ〜、まあ、うん。早く食べたいな……』

 バンのテンションが下がった。


『オレ達、バンのおばあさんが残してくれていた漬物にも随分と助けられたんです。生前……終末前ですね。大きな樽に漬けておいてくれた漬物がいくつも土の中に埋められてて……』

 リーガルが呟き。

『……おれの婆ちゃんは色んなキムチを最低でも3年は土中のオンギで漬けるんだ』

 バンがまた喋りだし、アルトがしみじみ言う。


『あのムグンジは本当に美味かった……』

『だろ? まあ、勿体ないし最初に浅い1年もの、2年ものって食べて3年もの……最後の5年ものは別格だったよな! 結婚式の時だけ出すんだぜ、あれ!』

『家宝ものだよな』

 リーガルも同意して言い。


『そう! まあ……ちょっと前に全部無くなっちゃったけど……』

『本当にバンのお陰で、オレ達は花やヒマワリの種ばっかり食べずにすんだよ』

『残り汁も調味料代わりになったもんね』


 古漬けキムチの話を聞いて自然と腹が減ってくるミラン達。

 ミランは、ユノとの連絡のすれ違いから無心になれる訓練ばかりをしていたが、やはり食べ物を想像すると腹は減る。


『調味料代わりがある時は、タンポポとかキク花茹でて食べて……でも無いとキツいよね』

『デンファレはシャキシャキして無味だけど味が無いのもキツいし……』

『油あれば、キク花の丸揚げしたかったな』

『菜の花種とかヒマワリ種で油作れないか試したけど、なんか上手くいかなかったよね』

『ちょびっとだもんねー』

『ヒマワリの種は美味しいけど殻を一々取って食いにくいし、早く口いっぱいサツマイモ食べたいな……』

 会話をしている子供達の言葉に真剣な声を出すミラン。


「約束する。必ず腹いっぱい食わせると」

『あはッ本当だ……うん、期待してるよミランさん』

 人の嘘が能力で分かるバンが嬉しそうに答えたのだった。

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