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第21話 栄養素


 ここは山々に囲まれた田舎。

 一番近いご近所は、車に乗ってから出会える距離感の田舎。

 そんな田舎に今日も荷物を乗せたトラックがやってきて倉庫に搬入してくれている。


 ブロロロロ……。


「ありがとうございます」

 和宮国、八百万山の裾、敷地は広いが近所は遠く、車移動が基本の田舎の一軒家で今日も色々な荷物を受け取る。


「これなら大量に作れちゃうなあ〜」

 新しい寸胴鍋だけじゃなく保温用の鍋や調子にのって、おでん用のも注文した。

 これまた後日に届く予定だ。


「業務用冷凍庫も増やしちゃった……」

 倉庫内の壁際に置いてもらった業務用冷凍庫に電源を入れる。

 急速の方ではないので、じっくりと冷えていく。

「向こうに生肉送りたいけど冷凍庫とか、どんな感じだろう……」


 前にガソリンと発電機は送ったが、そこの詳しい内容は聞いていない。

 また、ミランと話せたら聞いてみたいものだ。


「あとは……ネットオークションに初めて参加したけど、落とせるかな〜」

 スマートフォンの明かりを点けてネットオークションのサイトを開く。


 中古の鉄板、たこ焼き型鉄板、鯛焼き型鉄板、ちびカステラ鉄板など、それぞれ売りに出されているのに参加している。


 新品を買おうと思えば買えるが、こういった鉄板は中古の方が鉄臭さが消えて美味しく焼ける。

 なので、あえて使い込まれ手入れがされているであろう鉄板を探し購入することにしたのだ。

 前にミランに話した粉ものを楽しんでもらいたいし、百人皆で囲みながら食べてくれたら楽しいと思う。


 これとは別にバーベキューコンロも10セット注文しておいた。

 鉄板とは違い全部新品だ。

 これは今日か明日には届くと思われる。


 頭の中に映像が浮かぶ。

 顔も知らない人達だけれど大人や子供達がいて、庭にバーベキューコンロや鉄板を置いて上に肉、野菜、焼きそば、お好み焼きを焼いている姿。

 たこ焼きもユノが描いた説明書を眺めながらコロコロ回していき最初は、ちょっと失敗しながらも作っていくのだ。


 笑顔で鯛焼きを頬張る子供達まで想像してハッとした。

 その鉄板を温める燃料は、どうしているだろうか。


「あわ……いまさらだけど炭とかもいるかな? 食べ物ばっかりで、そこら辺を考えてなかった……」

 砂に埋もれていく終末世界。

 3年目となると、どこまで埋まっているのだろうか。


「木々は採れはするのかな……? うーん。久々に炭作りしてみようかな」

 荷物が届くのを待っている間にできることがしたい。


 ユノは庭に出て新鮮な空気を大きく吸い込んだ。

 水っぽくて気持ち良い。


 自身の所有地の八百万山を見上げた。

 神聖な空気をもつ良い山だ。

「ばあちゃんが昔していたのは……えーっと、木炭、竹炭、あと落ち葉とか草とか細い木々から作る粉状の炭……」


 基本的に使うのは大きな木炭、竹炭だが粉末の炭も炭団たどんというものが作れる。

 炭団とは粉末状の炭と水、片栗粉(繋ぎになるもの)などを混ぜ合わせ団子にしたもので乾かすと新たな炭になって便利なのだ。


「試しに、ばあちゃんが昔手作りしたピザ窯使おうかな」

 祖母が昔作ったピザ窯は今は倉庫の奥の隅にあるので、並べた食糧荷物の合間をぬって近付き、ピザ窯を一度収納した。


 今持っているユノの山は竹林がないのだが、過去に売った他のところにはあったはずだ。

 猟師会に電話をかけて、余っている竹はないか聞いてみる。


「あ、ありがとうございます……! え? 頭ですか……発情期のでは……ない……なら欲しいです! あはは……そうですよね~」

 冬の薪用に乾かしている竹が大量にあるので届けてくれることになった。


「猪頭は骨が多いけど肉取ったあとは焼いて出汁用にしてみようかな……ちょうど良いからピザ窯で……」

 それと共に余っている冷凍の猪頭もくれることになった。

 もらえる猪頭は発情期のではない。

 もしそうだったら、カレーか生姜煮込みばかりになってしまう。


 炭は冬眠月に使いはするが、今は昔みたいに暖炉や囲炉裏を使う家は少ない。

 特に竹は異常に増えていく中で、切っては溜まっていく一方のようだ。


 大量に切って並べておくのも場所を取る。

 我が和宮国では自身が所有する山に竹が生えて増えすぎていく場合、個人の采配で切った後に燃やすことは可能だ。

 しかし竹は水分を多く含む為に乾かす期間は、どちらにせよ必要で場所をとる。


 80センチ以下に切ってごみ収集所に持って行くことも出来るが、それなりに費用が必要なので燃やすか朽ちるかを待つ所有者は多いようだ。

 ユノが大量に竹炭を作りたいとの話に大喜びで今すぐ持ってきてくれる。

 持ち運ぶのも大変なので自分から行こうとしたが断られてしまった。


 細々とした部分含み、金銭を払おうと提案したが、手作りお菓子と交換になったので今から作ろうと思う。

「そうだ……ビタミンBが多いから良いなって思った糠クッキーを作ろうかな。でもあれか、柔らかい方が良いかな……」


 米を購入した際に精米も頼んだため、糠も一緒にもらって、現在大量にある。

 糠を送っても喜んでもらえるか分からず、どうしようかと調べたら混ぜて食べる方法が色々と出てきた。


 その結果、ビタミンBがとても高いと知りクッキーなどお菓子を作ってから送りたいと思ったのだ。

 ビタミンBはCと並んで、とても重要な栄養素なために気づけて良かったと思う。


 ミラン達のところは水はあったおかげで重要な水分の確保は出来ている。

 そのために次に必要なのは塩だった。


 人は早い段階で塩が無くなると非常に危険な身体異常が起こる。

 塩は摂り過ぎも危険だが、摂らなすぎると人間として生きることが非常に難しくなってしまうのだ。


 例をあげるなら、水が飲めようと脱水症状、意識障害、筋肉の痙攣などが起こる。

 夏の熱中症状態が平常気温でも常に起きていると考えると早いだろうか。

 どう考えたって辛い。


 そんな状態が塩を失ってから、きっと続いていたことだろう。

 少しずつ摂取して、3年間よく耐えたとは思うが、考えるだけで悲しくなった。


 次に有名なのが壊血病だ。

 ちゃんと野菜や果物などをバランスよく摂取していればならないが、不足すると現代の人でも起きる病気なので怖い。

 身体中で異変が起きて徐々に動けなくなるのはビタミンBも似たようなもので、こちらの名前は脚気という病気になってしまう。


 ならないためには、どちらのビタミンもバランス良く摂取しないといけない。

 極端な肌荒れや爪の変形、歯茎からの血、複数の口内炎、治りの遅さ、酷い症状では身体の柔らかい部分の壊死などが起きる。


 人間の食事からの栄養摂取は効き目が早いところが素晴らしいので、もし起きるならば、豊かな国には置いてあるマルチビタミンを毎日ひと粒飲むだけで予防が出来る。

 しかし終末世界では、それは叶わない。


 マルチビタミン自体は収納して送っているが、空腹を埋めなければ根本的な栄養素が全然足りないので沢山食べて欲しい。

「ビタミンCは柿、蜜柑、林檎を食べてもらうとして、Bはどうしようかと思ってたから、ちょうど良かった〜」


 今は糠入り蒸しパンを作っている。

 作り方は前と同じだが材料の中身に入れる糠はフライパンで軽く炒めてから3割ほど入れている。

 それと今回は豆乳も入れてみた。


 主役はホットケーキミックスなので、不味くはならないと思う。

 ホットケーキミックスは全ての菓子を美味しくしてくれる魔法の粉なのだ。


 糠入り蒸しパンが蒸し器で温められている間に、庭で竹炭作りに良さそうな場所を探す。

「ここらへんなら火花散っても火事にはならないかな……でも落ち葉集めと草抜きはした方が良さそうだね」


 少しの間庭を片付けてから蒸しパンに戻ってきて綺麗にした手で、自分の味見用をかじってみた。

「お、焼いたからかな? ちょっと香ばしい風味があって良い感じだね」


 ピンポーン。


「はーい!」

 玄関を出たら軽トラックに大量の竹が積まれている姿が3台もあった。


「え! さ、3台!?」

「話したらコイツらも来やがってよ〜」

「いや〜竹の処理も大変でさ」

「後ろから猪頭とか持ってくる車もくるぞ〜」

「おお……ありがとうございます!」


 買ったばかりの業務用冷凍庫が猪頭で埋まった。

 また猪頭の隙間には鹿頭が挟まっている。

 時折、鳩と鴨もギュッと入り込んでいる。

 まるで猟奇コレクターみたいになってしまった。


「鹿頭と鳩、鴨肉もありがとうございます……え? 柿もこんなに……!」

「ひとつ食べたのは甘柿だったがなあ。渋柿混ざってる可能性もあるから気をつけてな」

「ありがとうございます」


 庭で実った柿も持ってきてくれた。

 柿はビタミンCが豊富なので、とても助かる。

 柿のゼリーを作るのも良いかもしれない。

 あとは自分で食べるのも良い。

 柿は生ハムとチーズと合わせて食べると、最高に美味しいのだ。


「糠入り? 牛乳の代わりに豆乳をね〜」

 蒸しパンを猟師会の4人に渡した。


「米を買ったついでに糠をいっぱいもらったので……栄養高いですし何か作れないかなって思いまして……」

「ほーか、ほーか」

「ユノちゃんが元気になれるなら嬉しいよ」

「じいちゃんらの健康気遣ってくれたんやな……嬉しいね〜」

「香ばしい感じが美味いなあ」

「じじは好きだぞ」


「……ボランティアを始めたとは耳には入っとったけど……ふむ」

 じいちゃんズの1人が真剣そうな瞳をユノに向けて訊いてくれる。

「もし少しでも不安な要素があれば相談するんやぞ……騙されとった時は、じいちゃんらの出番やからな」

「そうだぞ」

「任せろな」


「ありがとう……じいちゃん達……」

 ユノは心配してくれたことに照れながら頷き感謝したのだった。


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