第20話 能力者の子供達
山の上部にある軍事基地が白い空に照らされる朝。
ゴンゴンゴンッ!
扉を叩く音がした。
ミランは自室の扉を激しく叩く音で瞼を開け起き上がる。
ガチャッ。
「どうした?」
「ミラン隊長ッ! 生存者と繋がりました!」
「生存者……ッ!」
ミラン達は通信室へ走って向かいながら軽い説明を受ける。
「フラワー地区までの電波塔が機能して、もし電力を自力で持ち生き残っている住民がいるならと思い……既存の番号に順に連絡をしてみたんです。その中で、ひとつの雑貨店舗に繋がりました! 現在、共に夜の見張り番だったトトンが会話をしています!」
「よくやった!」
通信室に入れば、トトンと話す声が流れており、相手は数人の少年、少女のようだ。
『そう。モールに住んでいる彼ら中心でここは回ってるよ』
今話したのは声変わりしている少年。
『最初は僕らも食糧補給が欲しくて傘下に入ろうとしたんだけど、中に住まわせるのは女性限定って言われて……妹だけを入れるなんて怖いから、周辺住みに変わったんだ』
今のは中性的な声色の少年。
『オレの場合は姉さんが入って、たまに食糧を分けてくれてるけど……なんというか……』
声変わりしている少年が言い淀む。
『ねえ。そっちは軍事基地なんだよね? 全員で受け入れてくれる?』
中性的な声の少年が、パッと希望を込めて言った。
『待て、本当か分かんないだろっ!』
しかし直ぐに止める声が聞こえる。
今の子は明らかな子供の声だ。
『そもそも、この地区より先の移動は魔物が多いし、オレ達だけじゃ無理だ……』
「そっちの人数は何人だ?」
ミランがマイクに声を向け話しかける。
『え、新しい声?』
「俺はラムドール・ミラン。ここの軍事基地のまとめ役だ」
『まとめ役?』
『トップって事だよ』
『ミランって呼べば良い?』
「ああ。呼んでくれ。そっちは何て呼べば良い?」
『こっちのまとめ役は現在オレ。前は姉さんだったけど……今は一番年上がオレだから……名前はリーガル』
リーガルは声変わりしていた子だ。
「リーガル達の人数は何人いる?」
『姉さんを含めて5人』
『多い時は10人はいたんだけどね』
『魔物で死んじゃったんだ』
「そこにいるのは4人か? それぞれ、歳と名前を言えるか?」
『オレは19歳かな。誕生日過ぎてたら20歳。さっきも言ったけど、リーガルね』
『僕は15歳。アルト。妹は10歳』
リーガルの後に中性的な声の子が名前を言った。
『はい! モーツだよ! モッちゃんって呼んでも良いよ!』
今の子は4人目で、少女の声と思われる。
『おれは多分、11歳。夏が誕生日だったから……名前はバンだよ』
今喋ったのは警戒を隠していない子だ。
姉はこの場には居ないようだが、5人の生存者がいると認識した。
「教えてくれてありがとう。今から俺達は軍用車を改造し、魔物の攻撃に耐えられるよう改造してから、そちらへ向かう事にする。その際に君達が受け入れを望むなら、俺達が責任を持って連れて帰ろう」
ミランの言葉に子供達から反応が返ってくる。
『良いの? やった〜!』
『こら、大人は嘘を吐くぞ! 簡単に信じんなっ!』
『そもそも食糧は足りるんですか? ここは今のところ水の心配は無いので……』
最もな疑問にミランは丁寧に言葉を返す。
「俺達の軍事基地は山の上部にある。そちらと比べると随分と田舎だが、水には3年間、困った事は一度も無い」
『あ、本当だ。本当の事を言ってるよ』
「……君は能力者か?」
ミランが瞬時に反応すれば、少し戸惑った沈黙があり、バンが呟く。
『おれは相手が嘘を吐いているかいないかを見分けられる……人は小さいの含め嘘を吐くから万能じゃねーけどッ』
「いや、充分だ。それなら俺の言葉を聞いて、信用に足りるか判断してくれ」
『え……良いけど……?』
子供の戸惑いを感じながら、ミランは落ち着いた声で話す。
「よし。先ず俺は空間に収納する能力を持っている」
『あ、本当だ……』
『収納? 食糧があるって事?』
「ああ。食糧がある。俺の持つ空間の中は時間経過をしないらしい。腐ることもない」
『本当だッ! え? じゃあ、おれらが食っても大丈夫な量を持ってる?』
「持っているし現状、こちらは百名は生き残っている」
『本当だ! この人、嘘吐いてない!』
バンが通話の向こうで興奮しだした。
『……その中に女性はいますか? 男だけ?』
「少ないがいる」
『嘘吐いてないよ』
『妹や、リーガル君のお姉さんに酷い事しない……?』
「しない。本人たちの恋愛云々は構わないが、それ以外は俺が許さない」
『嘘は言ってないよ』
『……もう一つ質問です』
「どうぞ」
『貴方は生きている植物を持っていますか?』
「生きている……? 収穫はされているがサツマイモは、あのまま植えても実ると考えれば生きているか……」
予想外の質問でミランは、パッと思い付いた内容を呟いた。
『あ、本当ッ! 本当だッ!』
『サツマイモ食べたい……』
「出会った時に直ぐに食べれるモノを渡すと約束する」
『本当だ……サツマイモが食べれる!』
『やったー!』
『んん、そう……分かりました。貴方は信用出来そうです。迎えに来てくれるみたいだし貴方の気が変わらないように、オレの能力も教えておきます』
少年、リーガルも能力者のようだ。
結晶石を吸収しても低確率な中、2人もいるのは驚いた。
リーガルは一度息を吸うと能力を口にした。
『植物成長……オレは、生きている植物であれば能力で成長させる事が可能です』
それを聞いていた軍の通信室内の面々の目が見開く。
「素晴らしい能力だ。それで3年間生き残れたのか……」
『ええ。ただし成長させるだけなので生きている植物が無くなれば無能になります。ここはフラワー地区。花が多いので食べれる花を成長させたり種を食べていました』
『ヒマワリの種、飽きた〜』
『食えるけど調味料無いとキク花とか苦いんだよなあ……』
『塩があれば……』
「成長は出来ないが缶詰、砂糖、塩等の調味料もある」
無味は辛い。
その事が分かるので、すぐにミランは資産となる食糧の一部を教えた。
『本当だ! お腹減った……』
『どれぐらいで来れそうですか?』
子供達が完全に乗り気になったのを感じる。
「現在、改造車の構想が出来たばかりだ。急いでも、そちらに到着は2週間はかかると思ってほしい」
すぐに行くつもりだが、現実はそれなりに時間がかかる。
『2週間……遅くとも1ヶ月と考えれば良いですか?』
ガッカリさせない為の配慮だったが子供達、特に年長者のリーガルは背景をしっかりと考えられるタイプのようだ。
「ああ。1ヶ月前には会える筈だ」
『分かりました。その間に姉を取り戻します』
その言葉にミランの眉が動いた。
「いや……簡単に引き抜けるなら良いが、無理そうなら俺達がショッピングモールの代表者と話をつける。無理はさせたくない。間で刺激せず現状維持で……いざとなったら、お姉さんは俺達が攫う」
この部分は大人としての倫理観だ。
こんな終末世界になってしまったが、子供は本来年長者が支え見守るのが義務。
そういった精神理念が、子供の生き残りという存在に対して動いた。
『……んん、分かりました。ではオレ達は現状維持を保ちます』
カタンッ。
「割り込んでごめんね。切る前に……僕は最初に話していたトトン。安心出来るよう定期的に此方から電話をしようと思うんだけど、いつ頃が良いとかあるかな?」
トトンの声を聞いて、少しの間の後にリーガルが言う。
『日付は分からなくなったけど時間は……そっちは9時半?』
「同じ9時半だよ」
『じゃあ朝に連絡を取ろう。毎朝、10時。良いかな?』
「よしきた。それじゃあミラン隊長に戻るね」
『隊長……』
『なんか響きカッコ良い……』
『んん。ミラン隊長さん?』
「さっきの呼び方で良いよ。君らは傘下じゃない。俺達と同盟を組み、その能力を活かしてもらうつもりだ」
『本当だよ』
バンが呟いた。
『アハハ。分かった。ミラン。貴方の能力も魅力的だ。是非、協力し合おう』
その言葉にリーガルが明るい声を出した。
「よし。最後に良いか」
『どうぞ』
「絶対に生き残ってくれ」
『は……目の前にサツマイモが迫って死ねるわけがない!』
『1ヶ月……1ヶ月……』
『甘い焼き芋……』
『蒸し芋……』
プツン……ッ。
最後は少しの雑談を交え、通信が終わる。
「子供らが生きてるって知ると何か……涙出てきました……」
トトンが目元を拭う。
「お前は新婚だが、任務の際はどうする?」
「もちろん行きますよ。僕は水能力持ちで、唯一役に立てるのは、泊まりの任務ですからね」
「助かるよ」
近くで黙って聞いていたベヤルドが椅子から立ち上がり、全体に聞こえるハッキリとした声で言う。
「改造の方は一週間以内で終わらせる」
ベヤルドの言葉に面々は頷く。
「早くに出来るのはありがたいが、休息は取ってくれよ」
「ああ」
ベヤルドは真剣な表情で改造へ向かったのだった。




