第18話 動き出す
貴金属売却から数日。
弁護士は祖母の時の、関係の方に連絡をした。
向こうの都合の良い日に会う予定だ。
税理士は紹介してもらった方の時間が良い日にディスプレイ通話で話す予定で、内情を教えるかは相性次第といったところか。
今は秋ではあるけれど、そろそろ決定しないと自力での申告書になる。
昔から簡易の方はやってきたので、そちらなら出来るが本格的なのは出来ない、とても悩ましい。
「新しい荷物が来るまで待ちかあ……今日はどうしようかなあ……」
現在、ユノは注文した荷物類が届くのを待っている。
長ソファーの上で、ぐで〜っと横になり、天井を眺めてぼーっとする。
「……あ、そういえば新鮮な訳あり蜜柑も届くんだっけ? ビタミンも欲しいし皮も使えるから悪くないよね」
簡易のスポーツドリンクの説明書を用意するのも良いかもしれない。
世間一般でスポドリは、飲む点滴だなんて言葉もあるし、少しは役に立つのではなかろうか。
10分ほどジッとして何となく起き上がると終末世界で苦労している友達、ミランの日誌帳を取り出し、トランシーバーも手に持った。
「今は、なにしてるんだろ……」
話したいけれど、こっちと違い、あちら側は忙しいだろうと思う。
軽い気持ちで連絡して魔物と戦っている最中だったら最悪だ。
「そうだ……こう、文字の通信機能があれば良いなら……」
バッと立ち上がり、押し入れに向かう。
昔祖母と一緒にやっていた通信ゲーム機、これは電波塔というものは必要ない。
同じ通信ゲーム機が存在し、充電と近しい場所で通信ができれば使用可能な携帯玩具だ。
確か玩具のトランシーバーと大して変わらない距離だったと思う。
「充電……充電……あ、予備電源として平たい電池も必要かな? ネット注文しよう」
ポチ……ポチッ。
最近は軽いタッチで買い物をしている。
前に注文したのは、大量に作れる調理機器とか色々だ。
画面を眺めてはカートに入れてクレジットカードではなくプリペイド決済を行う。
とりあえず1千万円入れておいたので、全然尽きる気配が無い。
「あった」
ネットで平たい電池を探して3ダース配達注文する。
食事じゃないし田舎だから、どうかなっと思ったけれど大丈夫みたいだ。
ピンポーン。
「あ、他の荷物かな」
頼んだ注文類が次から次へと来て、一部は今回支払いを行なって、領収書をもらう。
そして、彼の日誌帳に簡易メモを挟んで収納した。
《時間がある時に話しながら、そちらに荷物を渡したいので、ミランさんの好きなタイミングでお電話ください》
「さてと……」
元々、広い倉庫がギッシリミッチリしてきた。
遠い昔は、この広い倉庫で蚕を飼って高級な絹の織物を作っていたらしい。
祖母の祖母ぐらいのご先祖様は、ここから見える山や土地の殆どを持っていたと聞いた。
土地を貸していた時期から安値で売りに出し、今は全盛期の10分の1ぐらいしか土地も山も持っていない。
そもそもで田舎なので、とても安い土地ばかりだ。
ただし猟師の祖母にとっては持っている土地で猟が出来る部分はちょうど良かったみたいだ。
そんなに大きさはないけれど、専用の食肉加工場もある。
今では猟師会の長に光熱費は向こう持ち、年20万円で場所を貸し出していてネット販売用の加工やら包装やらをしているようだ。
パタンッ。
冷凍庫の扉を閉めた。
「……これで、ようやく特別仕様の猪肉の臭み消しの処理が全部できた」
発情期の雄の猪肉は臭みがあるので冷凍を解凍した後、前に成功したヨーグルト漬けにしておいた。
冷蔵庫に今は大量にある。
「これを加工して……大量の豚汁作ろうかな。祭りとかで出す感じの……またはカレー……」
少なくとも汁物は百人分は欲しい。
「炊飯器も業務用注文したし……まあ私が全員分作るとかは……材料全部渡せば良いだけなのは分かってるんだけどね……一応ね……うん」
独り言を呟いていればチャイム。
ピンポーン。
「はーい」
玄関に向かえば知らない車の前に左右刈り上げ短髪の、ちょっと厳つい青年がいた。
どの商品の人だろうか。
「あ、こんにちは。頼まれた電池を届けに来ました」
「あ! 電池! ありがとうございます!」
電池、朝に頼んだばかりの電池だ。
「重いので僕が指定の位置まで運びます。どこが良いですか?」
「あ、では玄関の中へ」
12ダースを3個、思ったより大きい箱だ。
「……?」
よく見たら、10個入りパックが12ダース分入った箱を3箱買っていたらしい。
気が急いで、ちゃんと見てなかった。
買い過ぎではあるが、これから毎日使うのだし良いかと思う。
ゴトッ。
明らかなズッシリ感、激重電池だ。
「わ〜……買うの大変でしたよね?」
「お金はチップ有りで振込んでくれてたし良い仕事ですよ。コレなら料理みたいに冷めるとか無いですし!」
体格の良い爽やかな青年君。
パッと見格闘技とかしてそうな、妙にフィジカルが強そうな人だ。
不良とは違う。
チャラいとも違う。
独特な雰囲気を感じた。
「ありがとう……あ、そうだ。芋とか果物好きですか?」
「え? 好きです」
「直ぐ持ってくるので帰らないで待ってて!」
「あ、はい……警戒心ゼロじゃん……」
青年はキョトンと独り言を思わず呟いた。
本来は田舎に配達を渋る配達員が多い。
今回は料理ではないし知っている山道で、金額がチップ上乗せ価格のラッキーだったために青年は承諾した。
こうしたチップをくれる客は良客なので、客の取り合いなところもある。
「お待たせ〜! これ、サツマイモと蜜柑と林檎。林檎は、ちょい形崩れで蜜柑は熟す前だから日にちおかないと酸っぱいよ。サツマイモはちょうど美味しいから好きに料理して食べてね」
「えッ、くれるんですか?」
「うん! こんな田舎まで荷物、ありがとうね」
「あ……いえ〜! ちょっと待ってね、お姉さん」
青年はもらったサツマイモ、蜜柑、林檎の箱を車のトランクに入れると、すぐにユノの所へ駆け付け名刺を渡す。
「ココに書いてるのが配達用の個人ID。こっちのはプライベート用の。配達以外で困った事があったら、こっちで呼んでよ。仕事としていつでも駆け付けるからさ」
青年は魅力的な笑顔でそう言った。
「え……ありがとうございます! 助かります!」
「こちらこそ、サツマイモとかありがとね〜。今年から配達員に転職したけど光熱費とか弟らの学費、食費やらで、カツカツでさ……腹ペコの毎日だったから助かる」
青年の雰囲気を見ると、その言っている言葉が本当だと感じる。
勘ではあるが腹ペコと聞くと、ちょっとだけ、ほっとけない気がした。
「腹ペコ……あ、お肉いります? ヨーグルト漬けして臭み消ししている最中の訳あり猪肉なんですけど……」
「猪肉!? え、すげッ、もしかして、お姉さんが狩ったの?」
「前に祖母が狩猟した肉なんですけど発情期の雄の猪肉って臭み強くて、今は食べれる形にしようと大量にヨーグルトに浸けてるんです。それで良ければ沢山あるんで好きなだけ持って帰って良いですよ」
「獣臭ってこと? 大丈夫! きゃ〜! 肉食えるとか嬉しすぎッ! 頂きます!」
青年は普段、お客の配達食糧を入れる保温バッグに入るだけフリーザーバッグの肉を詰め込んで、ホクホク笑顔だ。
「お姉さん女神だわ。オレら今月肉食って過ごせるよ。マジでありがとう!」
「食べれないのは辛いですからね……あと、お米と大根、白菜、里芋も入れときますね」
「えッ。マジで、どんだけ優しいん〜? 嬉しすぎる〜! お姉さん。本当、プライベートIDのでいつでも呼んで! 金じゃなくて食糧交換でも良いからさ!」
「うーん。あ、じゃあ私がジビエ獲れた時に、お手伝いとして呼んで良いですか? 肉もその時に渡しますんで……」
「ま、マジ? 呼んで! 呼んでッ! やった〜! 今日来て良かった〜!」
「あはは。じゃあ、ありがとうございました」
「こちらこそッ! ありがとうございました〜!」
青年は鼻歌を鳴らしながら車を運転して去って行った。
「今年から罠猟再開するし助かるな〜」
ユノも機嫌良く玄関に戻ると電池を2箱ほど収納した。
1箱は重いけど、結晶石で体力が最近あるため自分で部屋に運び、中から電池を取り出して通信ゲーム機2つに入れ替えた。
「よしッ。ミランさんから電話きたら説明して使ってもらおう!」
その日、ユノは1人コツコツと肉等の加工を行なって豚汁作りの用意をしていたが、ミランから連絡が来る事は無かった。




