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第17話 生きてくれ


 カタンッ。ガチャッ。ガコンッ!


 軍事基地。

 前は使っていた通信機類が並ぶ部屋内にて男達は機械を弄っている。


「よし……まあ使ってなかっただけで配線も他の部分も無事だ。掃除さえすれば前と同じく使えるだろうよ。まあ、相手がいればだがなあ……」

 太陽光蓄電とは別にガソリンも手に入り、2年近く動かしていなかった軍用通信機器を起動させた。

「このラジオの放送地と連絡が取れれば生き残りがいるかが分かるんだが……」


 そう呟いた男の言葉に携帯型のラジオに視線が向く。

 そのラジオを使って、見つけた周波数に合わせると繰り返されている声が聴こえる。


『……繰り返します。フラワー地区ライズ通りにて物資の交換を希望します。求めるモノは未開封の缶詰、食べられる食糧、それらを持ち渡した場合、コチラは能力で食糧を10倍にしてお返しします。また傘下に入るならば毎日の食糧支給を行います。繰り返します……』


 食によって心に余裕が生まれた人々は、それぞれ普段とは違う行動をしだした。

 散髪係を名乗り出たり、新たな調達として娯楽的要素を集めることを考えだしたりと、生きる事に前向きだ。

 そんな中で1人が流れているとは思えなかったラジオの周波数を適当に動かし、ひとつの放送を見付けた。


「電力さえあれば仮に全滅していても流れている可能性はあるよな?」

 暗に無人のラジオ放送の可能性を呟くが、実際のところは現場に行かなければ分からない。

「そうだね。ここだって太陽光発電で一応は一部動いていたし……」

「しかし……能力か……」


 3年目にて我らがミラン隊長が特殊な収納能力を手に入れた。

 異世界と繋がった収納空間能力。

 ただの収納能力では無い。

 これは、奇跡の能力だ。


 この奇跡が無い前までは、この放送を聴いても物資を奪う為の嘘だと思いながら、僅かな希望に足を進ませる事になっただろう。

 しかし、今なら希望を感じる特殊能力は、ありえるのではないかと思う。


「ラジオで聴いた雰囲気での内容は、能力者で10倍になるんだろうが……」

「もし、その能力者と協力関係になる事が出来れば僕らも今の食糧がより安定するし、向こうにとっても、この新鮮な食糧類は嬉しいよね?」

「まあ……全てが事実だった場合はな……」


 終末になってからの人間の姿は知っている。

 ここは善人が食い潰されるばかりの世界だ。

 生き残っていること自体が訳ありだと勘ぐらせるのは、仕方ないだろう。


 コンコン。


「入るぞ」

「あ、はいッ!」

 通信室に入ってきたのは、現在基地の副官の1人、アスと同じく副官のベヤルドだ。

 そして、現在の軍事基地のトップとされるミラン隊長が通信室に入り、用意しておいた椅子に腰を下ろした。


「動きそうか?」

 アスが訊けば、機器を点検した2人は頷き言う。

「配線も部品も欠けてはおらず、掃除さえすれば前と同じ状態になると思われます」

「電力は多少食いますが機能としては申し分ないかと……しかし、相手側が応じるかは別の問題です」

「それはそうだな」


 アスは頷き、ミランに目配せをする。

 ミランは先程厨房で用意した沸騰した湯が入った薬缶と、机、湯飲みを出すと全員分の湯を注いだ。

 別個でスプーンを差して、砂糖瓶と塩瓶の2つも置いた。


「先ずはご苦労。水分でも取ってくれ」

「頂きます!」

「ありがたい……」


 それぞれが砂糖湯を口にして気持ちを少し落ち着かせる。

 塩は好みで舐めるようだ。


「フラワー地区に近い駐屯基地の連絡は?」

「繋がりません」

「少し離れていますが、ツリー地区の駐屯基地も10分程かけ続け、反応はありませんでした」

「またフラワー地区の市役所も……我ら軍用とは違い一般部類で通信機類に可能性が高いのは、ここら辺りですが……」

「朗報と言えるか微妙ですが中環地点の電波塔自体は生き残っているようです」

「受け取る相手がいない限り意味は無いですが……」


 ミランは机に広げた地図を眺めながら言う。

「フラワー地区のライズ通り近くには、確か複合施設があったよな?」

「あ、ショッピングモールですね? ええ。一般的なショッピングモールですが……」

「一応、繋がらないか試してみます」

 部下は機器に残っている過去の情報からショッピングモールに連絡を取ろうと試みる。


「……応答は無いですが電波自体は残っています」

 部下の言葉に頷くミラン。

「それなら一度、調査隊を組み調べに行くのも視野に入れるか……」

 地図の道を指でなぞりながら少し考える。


「幸い今は、軍用車も使えるから簡易電波機も運べる。向こうとは連絡は取れずとも、俺達自身が取れるだけでも違うだろう」

 ミランの言葉にアスも頷く。

「歩きでフラワー地区となると遠いが、軍用車で進むとなれば小物の魔物ぐらいなら無視できる。いざとなれば、休息も車で出来るしな」


 コトンッ。


 湯飲みを置いた音。

「だが……相手によっては手こずるだろう。それと、弱小側から嫌がり離れる形にした方がスムーズだ。軍用車の改造を提案する」

 ずっと黙っていたベヤルドが今回初めて意見を出した。


 ミランは同意で頷く。

「よし。軍用車3台を改造し、長期の調査隊用にしよう。ベヤルド、改造の方を任せられるか?」

 ベヤルドは静かに頷いた。


 流れるラジオ放送。

 内容が本物だと仮定するならば、ミラン達が鯖の缶詰を渡した場合、10倍にして返すと考えられる能力。

 それはコピー能力や、増幅能力が妥当な線か。

 それらの能力者が存在する可能性は動く価値がある。

 それが僅かな望みであろうともだ。


「……」

 一番良い結果は、この能力が真実で協力関係になる事だが、そう上手くいくとは思えない。


 マシな結果は、もう全滅している事。

 予想している結果は、単純に物資を奪う生き残りが存在する事。

 最も最悪なのは人を集め、ソレを食糧にしている事。


 3年目となれば倫理観が終わっている可能性はある。

 ミラン達の基地は常々、新鮮な水が手に入る為に飢餓の傾向は緩やかだったと思われる。


 今では絶対にありえない思考だが、他がどうかは分からない。

 人は砂にならない肉であるのだから……──



 ザッ、ザッ、ザリッ。


 軍事基地周辺。

 山の中。


「オレらは、お前と女神が居れば、まあ生きてはいけるわけだけど……」

 粉塵舞う山内を歩いていたアスが呟き、ミランがマスクの下の口を開く。

「彼女に甘え寄生している状況から少しでも変われる可能性があるなら、動いてみるべきだ」


 ミランとアスは共に基地の周辺を見回り、近付く大型の魔物はいないか目を光らせながら話していた。

 普段は探索しない場所も含め見回り、細かく大小関係なく魔物を倒している。


 ミラン達以外は4名ずつで組み、普段は見逃すダンゴムシ型の魔物も討伐しているようだ。

『2-H完了』

「了解、こちら3-Aに入る」

『了解』

 それぞれ軍用のトランシーバーで連絡し合い、見落としを減らしながら討伐を行っている。


 軍用車が改造出来次第、収納能力を持つミラン含めて調査に向う事になるため、山を先に調べ魔物の討伐を出来るだけ行う事になった。

「女神ユノ様の事は誰もが愛しいが、いつ途切れてしまうか分からねえ。ミラが死んでも、ユノ様がお亡くなりになっても、または送る気が無くなっても……オレらは、また絶望の日々に元通り」

 アスが軽口で重い言葉を言う。

 分かってはいるが、口に出さない不安な予測だ。


「……与えられたモノに感謝し、2度目の奇跡に期待する事なく、改善策を探さなければ終わるのみ」

 ミランがアスに淡々と言葉を返す。

「わかってる。わかってる。期待しすぎちゃいけねえ……だけどな、ミラン」

 アスの足が止まり、ミランは顔を傾けゴーグル下の視線をアスに向けた。

 アスは粉塵の中で良く通る声を出す。


「いざとなったらオレが盾になる。お前は絶対に生き残れ。そして妻と子供を生かしてくれ」

 その言葉にミランは眉をひそめ。

「……縁起でも無い事を言わないでくれよ」

 アスは軽く顔を左右に振り言う。


「お前が生きてなきゃ駄目なんだ。例えユノ様が補給を止めても、その収納の中には、ある程度貯める事が出来る。オレは妻と子供、そして、お前さえ生きていれば良い。クズと呼ばれようと、それは絶対だ」

「……俺に期待し過ぎだ」


「力があろうと飯がなきゃ誰も生き残れない。それをオレ達はこの3年間で痛いほど学んだ。そして、ミラ、お前はいつでも、オレの子供を優先してくれた。オレにとって信用足りる男は、お前だけだ」

「やめろ。愛の告白は自分の家族にしてくれ」

 ミランが、パッパッと手を振ると、アスは巨体から笑い声を漏らし言う。


「オレの壮大な愛は食いもんの為だよ! ガハハハッ!」

 ミランは軽く肩を竦め、また討伐の為に歩き出すのだった。


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