第12話 アプローチ
久々の病院で今日は精神的に疲れたので、お酒でも飲もうと思う。
シャワシャワシャワ……キュッ。
家に帰ってきてシャワーを浴びた後は台所に向かう。
冷めたうまハンバーガーと、うまチキンバーガーの横に清酒とコーラを置き、飲料をひとつのグラスに混ぜ合わせてから食べていく。
祖母は、これにライムを絞って飲んでいたなと懐かしく思う。
「ばあちゃんに異世界の事を話せたらなあ……脚のこと絶対喜んでくれたろうし……はぁ……会いたいよ、ばあちゃん……」
揺らすグラス内の気泡は少し弱く自分の気力みたいに見えた。
食べ飲み終わって今日の日記帳を取り出して書き、ミランの日誌を読もうとして、何やら洒落た雰囲気の手紙と玩具を発見する。
猫。
桃色猫のトランシーバー。
手紙を読んで少しの思考。
「……か、かわい〜! 猫のトランシーバー? あ〜! なる程、喋れたらか〜! あははは!」
笑いながら長ソファーに寝転がり、早速スイッチを入れて声をかけてみる。
正直、異世界と繋がるとは微塵も思っていない。
「ミランさん、ミランさん。ユノです。道堂ユノにゃんですよ〜!」
『……ユノ?』
「えッ!」
繋がった。
秒どころじゃない、予知能力のようなレベルで繋がった。
酔ってふざけていた気持ちが、スッと冷め、ソファーに正座し背筋を伸ばす。
「み、ミランさん……?」
『ぁあ……良かった。空間からトランシーバーが無くなった気配がしたから電源を入れていたんだ』
「なる程……」
ミランの穏やかで低い声。
耳に心地良い声を聞きながら、内心ユノは自分の行動に酷く羞恥していた。
酒の勢いで判断能力が鈍っていた。
恥ずかしすぎる。
『……まさか本当にトランシーバーで話せるとは……上手くいくものだな』
「で、ですね」
冷や汗が滲む。
『ユノ。今日のハンバーガーも最高に美味かった。基地の者達も大喜びだったよ』
「それは良かったです」
『そうだ。ガソリンも試してみたら問題なく車に使えた。まさか食糧以外に気が付いてくれるとは……本当に本当に感謝する』
恥ずかしさで混乱していたが、ミランに真面目に感謝されると、ユノは意識を頑張って切り替えて言う。
「そちらと近い世界で良かったです。遠出は大変ですからね。あと発電機でしたか? それにも使えるみたいですし、また減ったら買って来ますんで……空のガソリン携行缶を渡してくださいね」
『……助かる。ありがとうユノ』
「ふふ。ミランさんも、トランシーバーありがとうございます」
ミランは最初のユノのおふざけを一言も指摘しない。
多分気にしていないのだろう。
流石、終末世界の大人な男だ。
にゃん言葉など気にしない。
修羅場をくぐり抜けた大人な男は気にしないのだ。
そうに決まってる。
『そうだ。食糧の御礼と資金にならないかと思って集めた物がある。受け取ってくれるか?』
「えッ、昨日もらいましたよ……か、可愛いネックレス……」
ユノは、ちょっと照れた様子で言った。
『ははッ。アレは俺が個人的に渡したかったんだ……今回送ったのは基地全体からと思ってくれ』
「こ、こじんッ? あ、はい! えっと、見てみます!」
衝撃で声が裏返ってしまった。
彼は手紙の時もだが甘いというか心を掴まれそうなる。
恐ろしい人だ。
空間の中に箱と袋があった。
箱が大きいので机の隣に出してみる。
箱上にあった小袋を開けると結晶石が沢山入っていた。
「わあ! 結晶石! この石のおかげで悪かった脚が治ったんです! 嬉しいなあ〜!」
ユノ的に結晶石で左眼視力も上がる予定、打算的だが期待でいっぱいだ。
『ふ……ユノは、こんな風に明るく喋ってくれる子なんだな』
「ひぇッ」
驚愕。
ミランが物凄い甘い声色で言ってきた。
海外の男は一味違うとか、時折SNSで話題になったりするが、異世界の男も一味違うようだ。
「……あ、あ〜! そうでした! サツマイモ!」
『サツマイモ?』
「収納の大きさがあって入れるの後回しにしてたんです。今入れるので、少しお待ちを!」
『そんなに沢山?』
羞恥から部屋を歩き思考を変えながらミランに説明をする。
「今年はね、大豊作らしくて……日持ちもしますし食べれそうなら、また送りますんで言ってくださいね。あ、他の野菜類の方が良いかな? 日持ちしそうなのばかり選んでましたけど栄養偏りますよね? また明日、他のも探してみます!」
『サツマイモもありがたいが、他もありがたい。君の手作りよりも美味いものは無いが、他も腹を満たしてくれて皆の希望になっているんだ』
「おふッ」
息を吐くみたいに甘い事を言ってきて心臓がヤバい。
自分はチョロいのかな。
バタパタッ!
「しゅ、収納ッ!」
家の倉庫にサンダル履いて飛び出して全部収納していく。
『来たのを感じた。直ぐに食堂に居る調理担当に教えるよ。ありがとうユノ』
「こちらこそ! 結晶石、ありがとうございます!」
テンションが上がって、自分の声が大きくなっているのを感じた。
此処が田舎で良かった。
ご近所が車で行く距離感なので、誰にもテンパった声は聞かれていない。
否、ミランには聞かれている。
『結晶石の下の箱も見てほしい。もし価値が無ければ他の物も探す。資金になりそうなら、より探し出そう』
「資金……?」
パタパタ……ギシッ。カポンッ!
パタパタ歩いて家の中に戻り開け忘れていた箱の蓋を軽い音と共に開ける。
ギラギラ! ギンギラギン!
眩しい。
「……」
閉める。
「え? 今、金? 銀も……? ん?」
何か、似た何かを見たらしい。
『銀と金は、そちらで資金になるだろうか?』
「わ……わ……なり、ますね……?」
『良かった。今はユノの所も夜かい?』
「夜でございます」
『じゃあ時間も一緒なのかもしれないな。話していると延々と話したい欲が生まれる。今夜はこれぐらいにしておこう、また明日』
「あ、はい……明日……」
『おやすみユノ』
「おやすみなさい……良い夢を……」
『ああ。良い夢が見れそうだ』
プツ。
ミランの声とか雰囲気とかで立ちくらみするのに、目の前の物理的なモノにも立ちくらみを感じる。
「……ほ、本物?」
もう一度蓋を開ける。
尋常じゃない量のインゴット。
「……え? 本物?」
じ〜〜〜……ッ!
じっくり見てもインゴット。
角度を変えて見てもインゴット。
銀と金のインゴット。
震える手で一枚を持ってみて重い。
戻す。
蓋を閉め収納。
「……どうしよう」
むやみやたらと部屋をウロウロ、再度放出、もう一度蓋を開け中を見る。
時間差で変わるタイプのインゴットでは無いらしい。
よくよく考えてみたら収納空間の中は時間が停止する。
参った。
どうしたら良いのか。
「そんな大海賊じゃないんだから……急に億万長者とか……この家大好きですし……置いとくの怖すぎる……」
ブツブツ呟いて、とりあえず食糧の資金源は必要だと思い一番薄板の色違いで5枚ずつを出して蓋を閉め収納した。
「これぐらいなら……? わからないけど……」
深呼吸。
通信機のディスプレイに指を滑らせネットで貴金属店を検索する。
「明日は……別のホームセンターに行って金属製タンク、発電機買って……ガソリンも入れて送って……肉を買おう」
フーッと息を吐いてから思い出した結晶石を出して手の平に乗せて少しずつ吸収していく。
現実逃避だ。
これも別世界の品物ではあるが。
全部吸収し終わって歯磨きをしベッドに横になる。
数を気にせず吸収しすぎた所為か、ちょっと身体が熱い。
「空間……もう少し広くなったら良いな……」
熱すぎて眠気が強く、身体が動かないので収納空間の確認が出来ず、ユノは深い眠りに落ちたのだった。




