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第10話 フラッシュバック

 気分良く街へ出かけて、ユノは久々に病院へ来た。

 現在、結晶石のお陰で身体の調子は良い。

 良すぎるぐらいだ。


 大学病院1室。

 そこで健診を受け終わり、口を開こうとしたが、それよりも先に医師が増えた。

 今後は脚の事で来ない意思を見せる為に来たつもりだったが、担当医以外も含め、治った脚の論議が目の前で始まっている。


 大学病院の医師らはレントゲンを撮り終わった写真を見て、それぞれが意見しユノの脚に触れては痛みがないかを確認した。 

「神経の捻れも……」

「こんなことが起きるとは……」

 ユノは愛想笑いを浮かべながら、次は眼科に行きたいので早く終わらないかと思っている。


「これは奇跡ですよ……ッ!」

「神経系の問題もありましたが、筋肉の流れも綺麗になっていますね」

「半年前のと見比べると明らかに違います」

「道堂さん。今、脚の痺れも痛みも無く健康そのものなんですよね?」

 瞬きもせず顔を近付けて訊かれ、少し引いてしまう。


「ええ。はい。そうですね……」

「何か半年間の中で普段とは違う事はありましたか?」

「良く食べるもの、または減らした食事などは?」

 色々な質問が投げかけられるが、全部曖昧に答えておく。


……──吸収したのは異世界の賢者の石です! なんて言えないし、もう帰りたいなあ……


 チクタク……チクタク……。


 彼らの論議で時計の針が進む。

 長引きだすと、ちょっと眼科に行くのが面倒になってきた。

 急ぎでは無いし、また後日で良い気がする。


「いつぐらいから良くなってきたと感じましたか?」

「うーん……記憶が曖昧で……祖母が亡くなってから家に引きこもりがちで……サブスクで映画やドラマばかり観てましたね」

 適当に言うが誤魔化されない雰囲気だ。

 威圧感が凄い。


 この脚が治ったのは確かに凄い。

 ユノ自身も結晶石に感動して、ずっとミランに感謝している。


 しかしだ。

 他人に長時間、拘束されて聞かれるのは良くない。

 凄かろうが疲れるし、椅子に座っているお尻が痛くなってきた。

 帰りたい。

 切に帰りたい。


「食事はどうです?」

「うーん食事は……一時はあまり食べてなかったんですけど、最近は秋の恵みが美味しいなと思い始めました」

「もしや精神的な要因が……」

「こうなってくると非科学的な要素も考えてしまいますね。道堂さんのお祖母様は、それはもう可愛がってらっしゃいましたし……」

「奇跡を起こしてくれたと?」

「いやいや……流石にそれは……」

「でも、この奇跡は説明が……」



 チクタク……チクタク……。


 時計の針の音が強くなり、医師達の言葉がBGMになってきた。

 頭が揺れる。

 疲れでズキズキしだした頭の中に、ふとした瞬間にフラッシュバックする映像が流れ、少し気持ち悪い。


 姿を見せない父。

 生物学的には父と呼ばれる者。

 あれを唯一覚えているのは、毎回家を去る背中だけだ。

 呼びかけたって振り向きもしない。

 あれは、ただの他人だった。


 まだ親らしい事をしてくれていた母。

 買ってくれた人気の、ぷにぷにシールは心底嬉しかった。

 あの人は表面を取り繕うのが上手い人だったと思う。


 ほんのりと優しかった瞬間が顔を出すけど、ユノを捨てた後は新しい家族を一身に愛しており、自分へ向けられた愛情が浅はかなものだったと気がついた。

 もう二度と会いたくない。


 生物学的な親が離婚して、ユノは邪魔者となった。

 唯一ユノを愛してくれたのは祖母だ。

 ユノの大好きなおばあちゃん。

 誰よりも格好良くて最高なユノのおばあちゃん。


 親がユノを捨てると、大して話したことのない同級生の男子3人が弄りだす。

 意味が分からなくて無視をしていたら、気付くと攻撃的な虐めへと変わっていった。


 親の見栄っ張りで通っていた名門の学校で、元々は友達が存在してたと思うけど、途中から忘れてしまった。

 同級生の虐めが強烈で、スッポリと頭から抜け落ちたのだと思う。


 中心的な虐めは3人だったけれど、気付くとクラス中の笑い者で、煙たい存在となっていた。

 軽い虐めはゴミを投げられて当てるゲームをされ、鏡などで太陽の光を集めて眼球に当てられる。

 鞄の中や個人ロッカーにゴミや使用済みのボロ雑巾が入れられ、ユノが掃除した場所をわざと汚してサボっていたと立場を悪くする。


 品性が悪い。

 品性が悪い子供だと先生にも注意されて、頭の中が縮む。

 そんな感覚が、何時も、いつも起きていた。


 プチリ……プチリ……。


 頭の何かが千切れる度に自分が自分で無くなっていく。

 学校で上手く喋れなくなった頃、3人のゲームで蹴り飛ばされて、階段から落ちそうになり上級生が助けてくれた。

 彼女はあの学校内で唯一、ユノの事を心配してくれる人で、その時から少しずつだけれど思考が戻りだしたと思う。

 彼女はユノの恩人だ。


 上級生の彼女と会う休み時間は虐めが起きない。

 下級生はいくら親の資金的な部分が強くても、上級生は苦手なようだった。


 善人はいる。

 どんな場所でも見逃さなければ、きっと善人はいるのだろう。



 ドッ! ガゴンッ! ズザザザザザザッ! ドスンッ!


 世界が汚い絵の具のように、ぐるぐると回って、転がっていった。


 山。

 子供達の情緒を育てる為にと学校が用意した山登りのイベント。

 美しい景色を皆で見る為に、子供にとって過酷な山を登らせる碌でも無いイベント。


 猟師の祖母と暮らしているので、山登りは子供の中ではマシな方だったと思う。

 仲良くない同級生達と美しい景色を見るなんてイベントは、ちっとも楽しくも美しくもないけれど。


 ひゅー……ひゅー……。


 自分の喉奥から息が零れ出て半分の視界の先、遠くで大嫌いな3人が何かを喚き去っていく。

 またゲームをしたのだろう。

 先輩がいない今がチャンスだと思って遊んだつもりだったのだろう。


 プチリ……プチリ……ブチリッ!


……──ふざけるな……ッ! ふざけるなッ! 何がゲームだッ! いつも、いつも、いつもッ! オマエらなんて大嫌いだッ! 私の方が大嫌いだッ!


 頭が熱くて怒りは不思議と痛みを消して、祖母に学んだ山での遭難時の行動を動く部分でなんとか行う。

 子供ながらに自分の命が危うい事を感じていた。

 必死に必死に生きる為の行動をした。

 それは怒りと悔しさからで、身体が熱くてたまらなかった。


「…………──ッ」

 ウトウトと何度目かの眠りから目覚めると遠くから声が聴こえる気がした。

 幻聴かどうかなんて考えずに、祖母に持たされていた緊急ホイッスルを口に咥える。


「……ふっ、ぅ」

 上手く鳴らない。

 身体が酷く震えている。

 それでも何度も何度も喉が枯れても構わず吹き続ける。


 ザッ!


「おいッ! いたぞー! ユノちゃんがいたぞーーー!」

 誰かの大声。

 崖の上ら辺、誰かが叫んでいて、私は名前を呼ばれ急に安心すると、また深い眠りについたのだった………──



「道堂さん?」

「え?」

 ハッとして前を見れば医者達の顔。

 近い、近い。

 あと怖いので瞬きぐらいしてほしい。


「大丈夫ですか?」

「顔色が悪いですね」

「あはは……久々に外に出て疲れたみたいです」

 時計をチラリと見る。

 中々に良い時間だ。


「すみません。そろそろ……お暇しても良いでしょうか? 夕食の買い出しをしたいので……」

「そんなぁ……」

 残念そうだけど、もう3時間は経っている。

 勘弁してほしい。


「せめて、もう何回かの検診を……」

「冬眠月でも構いませんので……!」

 ユノの周りで大人達が、わちゃわちゃしている。

「あはは。それは休んで欲しいです。それでは失礼します」


 13月の冬眠期まで仕事する和宮国の人達は他国から仕事中毒の国だと思われているらしい。

 私もそう思う。


 我が国の古き良き風習は13月の猫の月。

 その月は仕事を丸々休み、温かい所で丸くなって家で過ごす事なのに、もっと猫神様を見習って自分を労ってほしいな。


 祖母も、動物が眠る冬眠期まで狩りはしないで良いと、緊急事態以外は銃を休めていたのを思い出す。

 猟銃の手入れをしていた祖母が懐かしい。


 彼らに名残惜しそうにされる。

 曖昧に聞いていたが、通院は再発の可能性もあるため、行うべきのようだ。

 ユノ判断で、もう通わなくても良いだなんて簡単なものではなかった。


 車の事もそれとなく訊くと『今まで改造車で慣れ親しんだ運転歴』や『新しいのに変える不安』があるのなら、現在の車を変える方が危険なので現状維持で良いと言われた。

 余程の何かがあれば変わるための更新を受ける可能性もあるが現状維持の方が高いようだ。


 詳しいことを教えてもらい頭を下げる。

 ただし、もう少し観察し動けると確信すると、国からの右脚の援助金は切られることになるようだ。


 また加害者に要求する月々の通院費は変わらず行える。

「何かあれば、僕に連絡をしてほしい」

 今回初めて見た方に名刺を渡され、大学病院を後にした。



 ブロロロロ……。


 当時ユノを山で突き落とした3人は、周りにバレて叱られるのが嫌で、その事を話さなかった。

 ユノは山の中で行方不明となり、捜索が行われ、5度の夜を過ごした。


 ユノの右眼には木が刺さり視界が曖昧で、右脚は酷く熱く、身動きが全く取れない状態だった。

 それでも祖母から学んでいたサバイバルの知識があったので持ってきていた携帯食糧を食べる。

 水を少しずつ飲み、服は厚着にして上にサバイバルシートをかぶり、緊急ホイッスルを時折強く吹いては救助を待った。


 ユノを見付けてくれたのは祖母達も含む、猟師会の者達で総出で猟犬も使い、探し出してくれたのだ。

 そうでなければユノは衰弱死していた事だろう。


 しかし時間が経ちすぎていた為に傷付いた右眼は壊死し、右脚は奇妙な方向に捻れ、早期発見であればどちらも回復の見込みがあったが、治るチャンスを失った。


 ユノは自分を突き落とした3人を話し、それを知った祖母は怒髪天となり訴える事を決めた。

 メディアにて猟師会が遭難者を救ったとの話題もあり、最初は否認していた3人の両親達は、加害者の中心人物を代表として、示談が行われる。


 賠償金は3人の加害者を合わせ中心人物が特に多く、全部で5千万。

 治療費は毎月の通院や経過で都度払うという形となる。

 最初は治療費含め2千万での話だったがメディアも騒ぎ、少年院の話が出て、その形で手討ちとなった。


 一部の周りからは祖母は金の亡者と騒がれたが『孫をこんな目に合わせたんだ……老い先短い私が復讐でお前ら全員に同じ思いをさせ、地獄に道連れにしなかったことを感謝しておけッ!!』話を聞きに来たメディアにそう鋭く答えたらしい。

 大好きな祖母はパワフルだ。

 おばあちゃん大好き。



 キキーッ。バタンッ。


 車を止めて駐車場で下りる。

 大学病院で疲れたので夕食作りが微妙だと思った私は、ファーストフード店へ向かった。

 ガラガラの人の居ない店に入ってハンバーガーやチキンバーガーは大量に買うことが可能か聞いてみる。


「うまチキンバーガーやうまハンバーガーを200個とか購入可能ですか? 味は他のでも良くて数が欲しいんです……」

「少々、お待ちください」

 少しして店長らしき人がカウンターに戻って来た。


「在庫を確認した所、うまハンバーガーは200以上可能で、うまチキンバーガーは50個、うま魚バーガーも50個いけます」

「それじゃあ今から予約で、うまハンバーガー200、チキン20、魚20を買っても良いですか。冷めても良いので出来たら電話で呼び出しをしていただく感じで……」

「今の時間帯なら流れも静かなのでいけます!」

 予約と聞いてか少し緊張気味だった店長の顔が安堵に変わる。


「ありがとうございます。ハンバーガーはビニール内に重ねてまとめ入れで大丈夫なので……よろしくお願いします」

 先に代金を払って電話番号を渡し、別の買い物をしにホームセンターに向う事にした。


 ホームセンターで金属製のガソリン用タンクを10個購入する。

 ガソリンスタンドへ行って、田舎の農業用の機械に入れる分として購入上限の200リットルを買った。


 終末世界では3年も経つと、もうガソリンは無いか、あっても腐ってほぼ使えなくなっているらしい。

 軍用車は残っているみたいなので、ガソリンさえ渡せば今回みたいな調達時に徒歩という労力が減らせるのではと思った。


 頼まれた訳ではなく、日誌を読んで勝手に判断しただけだ。


 プルルルル……。


「あ、準備出来ましたか。ご苦労おかけします。今から取りに行きます」

 電話が来たので了承し、今回もガソリン携行缶は車に積んだ後に、軽い手紙を添えて直ぐに収納した。


 ガサッ。


「わ〜助かります!」

 一度紙包装され、ビニール袋に大量に入ったハンバーガー達はズッシリとしている。


 量が多かったので、店長も一緒に車まで運んでくれた。

「無茶を言って、すみませんでした」

「いえいえ! 今日はお客さん少なくて売上低かったんで良かったです!」

「そう言っていただき、ありがとうございます」


 お別れして自分の分のを1個ずつ取り出して残りは収納した。

 軍事基地の人達が1人2個は食べれる筈だ。


「久々に食べると美味しい〜」

 行儀悪く車でうま魚バーガーを食べてユノは帰宅したのだった。


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