その2 魔人号
タローは、ホムから譲られた魔石を、この星の竜族に配布してくれた。
やがて全ての現役の竜族が『命の石』を飲み、彼らの行動範囲は大きく広がった。
竜達は、かつての魔人からの友情に応えようと、喜んで魔人捜索に協力することを約束してくれた。
なかなか有望な情報はもたらされなかったものの、これだけの竜族が情報を集めてくれるのだ。俺は、必ずや成果があるとホムを励まし続けた。
そして、悲しい別れもあった。
話は、俺たちが魔人の里から戻った翌日に遡る。
賢者の師匠が寝込んでしまったのだ。キュベレが現れた時にすかさず通信を切ったので、苦手な女神を避けたのだと俺は思い込んでいたのだが、どうやら数日前から体調に異変を覚えていたらしい。
「キュベレの課題をこなすには、ここから北の人族の集落を拠点とするが良い。」
「その手前にある火山には、この辺りで最大の魔族の王国がある。麓には獣人族も集落を成しておるのじゃ。」
衰え伏した師匠は、ゼーレと俺に看取られて生涯を終えた。
◇ ◇ ◇
俺は、師匠の最後の言葉に従って、ここから北の山と、大きな湖と、もう一つの山を越えた人族の集落を調べ始めた。なるほど広大で将来性のある土地柄だ。南西に背負った山から流れ出した川が作る扇状地の始点にあって、肥沃で広大な平野がその向こうに広がり、その先には海が侵入して湾を作っている。
山にあるという魔族の王国とやらも、上空からおおよその場所が判明した。探査ボットを数機降ろして徹底的に調べれば良かったのかもしれないが、なかなかの規模なので諦めた。
まずは人族の集落に溶け込むことを優先すべきと、俺は判断したのだ。接点はいずれ見つかるだろう。女神と約束したスケジュール感では、まだまだ時間があるからだ。
ある日、旅立つ準備を始めた俺のところに、ウィルが訪ねてきた。
「ジローの兄貴、俺とホム爺で船を改造したんだぜ。見てくれよ。」連れていかれた里長宅の中庭、置いてある魔動機は、なるほど微妙に形が変わっていた。
「名付けて『魔人号』だぜ!」
「坊ちゃんが、もっと早く飛びたいと言うものですから、風魔法ユニットを増設しました。」
「武器にもなるんだぜ。」ウィルは勇んで説明を続けるが、ホム爺は苦笑いだ。
「本来は魔人が乗る風雅な乗り物。たとえ攻撃を受けたところで、魔人が魔力を揮えば相手を簡単に一掃できるのです。野暮な武装は似合わないと申し上げたのですが、」
「でもさ、ホム爺は魔法を使えないだろ。俺だって魔人に比べたら魔法は貧弱だからな。」
「ホムは、こんな細工も出来るのか。」
「おや、ジロー。私はそもそも、里全体の施設を維持管理するために創造された、洗練された高度な合成生命体なのですよ。この程度の改造は、簡単な事です。」
そう言えば、円盤型の両脇の下に何かが追加されているみたいだな。
「他の魔動機から取り外した風魔法ユニットでして、両脇に二つ、つまり速力は三倍になりました。闇属性で推進すれば六倍、そんなに急いで何処に行くと申し上げたのですが。」
「どうだ、兄貴。早いだろ。兄貴の船とも勝負できるぜ。」
確かこの魔動機は、標準航行で時速10kmだったな。六倍と言えば時速60kmか。俺の船は、大気圏内では余計な衝撃波を出したくないので、時速1,000kmくらいに抑えてタローが動かしていたはずだから、ウィルよ、全然早くないぞ。
「このユニットはさ、ほらここの接合部で本体に取り付けたんだ。」
「これを切り離し、質量弾として相手に打ち出す。名付けて『接合打撃』だ。」
「ウィルよ、加速しても一機だと時速20kmだろ、秒速だと5.6m。そんなに遅けりゃ、簡単に相手が避けるだろうが。」
「いやいや、ユニット自体は軽いので固有速度はその倍以上に達します。そもそも打ちだす本体の速度も乗ってまいりますので、静止する敵には相対速度100kmも可能ですぞ!」
何だよ、ホムも結構ノリノリじゃないか。
時速100kmでも、秒速28mか。弓矢より遅いと思うが、言わずにおこう。
「もう一つ、とっておきのがあるぜ。」ウィルが指さす先には、機体正面にV字の何かが取り付けられている。「あそこに火魔法ユニットを並べて貼り付けた。格好いいだろ。」
「何だ? 炎で攻撃するのか?」
「その通り、火魔法を得意とする俺を象徴する武器だぜ。竜の吐息にヒントを得て、広範囲に炎を吹きだす。」
「その名も『吐息の炎』です!」パチパチとホムが拍手した。
この二人いいコンビだ。
優雅な生き物だった魔人が創造した、洗練された高度な合成生命体は、戦闘に関してはちょっとばかりズレてるな。と、俺は感じた次第だ。(続く)




