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その2 魔石、命の石

この船一隻に二十人だと? 狭すぎないか? まあ魔人は小柄で華奢だと聞いたけどな。

「格好いい船だな、魔法で動くのか、これ?」ウィルが興味深々で、船のあちこちを見て、触りまくっている。確かに男の子が好きそうな乗り物だ。


「はい、主として風魔法で駆動されますが、内部には各元素属性に対応した設備があり、快適な乗り心地です。」「速度を上げたいときは、闇属性での加速もできるのですぞ。」ほう、四元素属性を闇属性で加速するだと? これは俺の知らない技法だな。


「魔素が枯渇しつつあった五百年前とやらでも、この船は飛べたのか?」ゼーレが、俺も聞きたかった事を質問してくれた。


「はい、まだ魔石に魔素を貯めておくことはできましたので、」ホムはそう言うと、倉庫の奥を指し示した。そこには、明らかに大量生産されたらしき、同じ形をした灰黒色の楕円体が無数に、しかも整然と積みあげられていた。一個が、ちょうど人がようやく両手で持てるほどの大きさだ。


これを見た飛竜の夫婦が、俄然色めき立った。「これは命の石ではないのか?」

ホムは、不思議そうに飛竜の夫婦を見上げる。「おや、飛竜のお二人は、この石をお持ちでないのですかな?」


「見たことはある。先祖から代々に伝えられる貴重なものだ。もちろん私たちは持っていない。」

「そうでしたか。これは昔、魔素に(かげ)りが見えてきた時代に、魔人が開発して、竜族にも友情の証しとして広く差し上げたと聞いておりました。」


「どうぞ、お持ちください。一つで事足(ことた)りると思います。」

「それは有難い、お言葉に甘えてさっそくいただこう。」そう言うや、二頭の飛竜はそれぞれ石に手を伸ばした。


ウォーゼルが、大きな口を開けて、石を飲み込もうとする。

「おいおい、ちょっと待て!」俺は、この急展開についていけない。ゼーレもウィル、も同様にポカンとして飛竜を見ている。


 ◇ ◇ ◇


「ああ済まん、ジローよ。つい嬉しくて、取り乱してしまったな。」ウォーゼルは、片手に球体を握ったままで、その場所でとぐろを巻き直した。何だか、珠を握った竜の姿はしっくりくるな。


「この石はな、先ほどホム殿は魔石と称したが、我らには『命の石』として言い伝えられるものでな。」

「先祖代々、親から子へ伝わる秘宝なのです。」そう言ったビボウは、もう石を飲み下したらしい。あの石は、図体が大きな飛竜にとっても、決して小さくはない。いったい竜の体の何処に納まるのだろう。溶けてなくなるとでもいうのだろうか。まさかな。


「普通は第一子と第二子に受け継がれるが、それは親が死んでからの話だ。事故死などで失われるものもあり、時代と共にその数は減っていったと聞かされている。実際に、私の両親もこの石は受け継いではいない。」


「私のところも、そうよ。」

「この魔石には、魔素の濃い場所では魔素を吸収して溜め込み、魔素の薄い場所ではそれを放出する機能があるのです。魔人の偉業の一つですな。」ホムが自慢げに説明してくれた。

なるほど、トラップ型の蓄魔素ユニットと言うわけか。ふーむ、魔素って貯めておけるのね。


「これを飲んだ竜は、魔素が薄い地域でも長い距離を飛べるし、魔素の濃い場所で一晩休みしさえすれば、竜も、この石の力もまた回復していると言うわけだ。」ウォーゼルが説明を続ける。

「私たちにとっては、まさに『命の石』なの。存命の長老たちには、この石を持っているものが多いのは確かね。」ビボウが大きく頷いた。


「確かに、すごい発明だが、」俺が言葉を続ける前に、ウィルが話を引き取った。

「そんな石の塊を飲んで、大丈夫なのかよ。」だよな、俺もそう思った。ウィルの疑問はもっともだ。


「心配ない。我らの体には、生まれた時からこの石が収まる場所があるのだよ。何故かは知らんがな。」

えっ! そんな事は、あり得ないだろう。

生き物の体の中に、こんなに大きな人工物を受け入れる都合の良い器官が、あらかじめ用意されているはずがない。とすれば、これはもしかしたら、


「魔人族が、竜族の遺伝子を操作したんだな? ホム。」

「はい、そう聞いております。竜族が魔人族からの友情を受け入れたのですな。」

「どうして魔人は、自分たちの体も変えようとしなかったのだ?」

「魔人は、竜よりもっと多くの魔素を必要とします。そして、魔石はこれ以上の小型化ができなかったと聞いております。」なるほど、魔人にとっては魔石を体に組み込めず、そして魔素の枯渇は如何ともし難い状況に追い込まれたのだろう。


「友たる竜をその魔法技術で延命させることには成功したが、自分たちは運命を受け入れたと言うわけか。魔人は、我ら魔族が神と仰ぐに足る、崇高(すうこう)な種族であったのだな。」ゼーレが感銘を受けた様子だ。


「そんなぁ。友達を助けて、自分が死んじまうなんて悲しすぎるだろ。なあジローの兄貴、あの子らは何とか助けてやろうぜ。」感受性の強い年頃のウィルは、半泣きだった。

「ああ、そうだな。こうなれば俺たちは全力で、魔人の生き残りを探そう。」


俺の横に浮かんだままのボットから、タローの声が流れた。

「ホム殿、ここにある魔石は、もらっても良いものなのか?」

「ああ、そうでしたな、貴方なら魔素を生み出せる。魔素を充填して有効活用していただけるのなら、どうぞお持ちください。」


「私は縁あって、この星の竜族は上位種を含めてすべて把握しているのだ。今の話では、先祖代々に魔石を受け継いでいない個体も多いのだろう。ここにある魔石は、おそらく全ての竜に配っても、その数倍はありそうだ。」


「魔石なら、ここ以外にも保管場所がありますぞ。」

「それは素晴らしい。命の石は、我ら竜族にとって魔人の大いなる遺産となるぞ!」そう言うと、ウォーゼルは手に持った石をごくりと飲み下して、満足げに舌なめずりをした。

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