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その4 最後の障壁

三十六階層に降りたら、また石畳が広がっていた。

「受信感度が強まった。近づいているようだな。」タローが伝えてきた。

「ボットとの通信が、更に強くなったみたいだ。」俺は、そう二人に伝えた。


「ゴールが近づいているのかも知れん。気を引き締めていくぞ。」ゼーレがそう言って、剣の柄を握りしめた。達人ゼーレをも飲み込もうとする緊迫感が、周囲を支配している。


前方に人型の大きな影が見える。ゆっくりと近づいてくるその影は、ますます大きさと高さを増してきた。太い刀身の両手持ちの剣を、無造作に構えている。この魔物は何だ? 人型だが、何層か前に戦った暴君熊にも劣らないほどの巨大さだ。


大剣を鈍色に励起させるとブンと横に薙ぎ払ってきた。こいつも魔法剣か。闇属性で剣速を早めているようだが、それほどでもない剣速で避けるのは容易い。


ゼーレが、その振り下ろされた腕を上から切りつけた。腕はさくりと切り離されて、ぐずぐずと砂のように崩れた。と思いきや、ザザアと音を立てて舞い上がり、切断された腕の断面に殺到する。たちまちのうちに腕が再生した。


「魔法を撃ってみる。下がってくれ。」俺はそう言うと、水の波動に風の波動を組み合わせて魔物に打ちつけた。水に叩かれ、次いで風に冷やされた魔物は、パキパキと音を立てて足元から凍り付き、大きな氷柱となった。

しかし、効果はなかった。内部から熱を発したものか、魔物はゆっくりと溶け始めると、何事もなかったようにまた動き始める。


「相手は体全体が土属性のようだ、風はどうだ。」ゼーレが叫んだ。土の対抗属性は、なるほど風だ。俺は風属性の高等魔法、雷撃を叩き込んでみた。激しくスパークする落雷が魔物の頭上にドドンと落ちて、地面を揺らした。俺の渾身の雷撃魔法だ。


魔物の体から湯気が立ち上って、動きを止めることができた。キナ臭い匂いが立ち込める。

だがしかし、やはり効果はないようだ。立ち止まってしばし、また何事もなかったように魔物は動き出して、大剣を振るって向かってくる。


こうなれば、「タロー、頼む!」

俺たちの頭上に浮かんだ小型ボットから、重力子砲が魔物に向けて放たれた。本来はボットを浮かべておくための推進用の重力波を、収束して攻撃に転用するものだ。光速で飛来する究極の衝撃波に、耐えられるものはいない。


ボッと白い煙が浮かんで、魔物の巨体の中央に大きな穴が開いた。二発目では頭が無くなった。たちまち消し飛んだのだ。しかし、吹き飛んだ砂粒はまたも音を立てて渦を巻き、徐々に舞い戻って巨体を再び構築したではないか。


大きな魔物は、口らしきものを開きキアアと声を上げると、その姿が見えなくなった。

すると、何と!剣を装備した骸骨兵たちが現れて、俺たちは周囲をグルリと取り囲まれてしまった。


これは、あの魔物がアンデッドを召喚したのか。

この骸骨たちは、どうやらこのダンジョンで命を落とした者達の、成れの果てなのだろう。自分は姿を消しておいて、いやらしい攻撃をする奴だ。


ゼーレが叫んだ。「ウィル、こいつはお伽噺のゴーレムかも知れんぞ。」

何の事だ! 俺は魔族の言い伝えなど知らないぞ。

ウィルは俺に向かって懸命に叫んできた。「ジローの兄貴、俺たちの昔話なんだよ。」


「魔人は、最後の守り神として、土を光で練ると主人の命令だけを聞くゴーレムを作りました。」

「ゴーレムは自らの姿を隠し、死者の霊を呼ぶことができました。」

「そして死者の霊は光に照らされるまで、ゴーレムは闇に照らされるまで、戦いを続けて魔人を敵から守りました。っていう話だ。」

「これは、俺たちの里に伝わる、誰でも知っている話なんだよ!」


「ジロー、光属性の回復魔法を広範囲に打て!」ゼーレが叫んだ。ええっ、アンデッドを回復してどうするんだよ! 俺は躊躇した。

「いいから、やってみろ! 光属性だぞ!」

分かったよ! 敵が元気になっても知らないぞ。広域回復魔法(ワイドエリアヒール)


ごっそりと魔素を持っていかれたが、見ると周りの骸骨たちが、たちまちグズグズと崩れて消えてしまった。何だ? どうした? 上手く行ったのか?


すると、キアアと声がして、姿を消していたゴーレムの巨体が再び姿を現した。

「今度は、闇属性の回復魔法を集中して放て! 俺も打ち込む!」再びゼーレの指示が飛んできた。


俺はダメもとで、乏しい魔素をかき集めると、闇属性の波動を鈍色にびいろの波にして巨体に打ち込んだ。極大回復魔法(マクシマムヒール)


これで俺の魔素はほぼ尽きた。上空のボットから急いで魔素を汲み上げる必要がある。俺は次に備えようとしたが、どうやらその必要はなさそうだった。

ゴーレムとやらは、形を失って土の塊に姿を変えていた。そして、ゆっくりと地面に吸い込まれていくと、後には両手持ちの大剣が残されていた。


「これも、ドロップアイテムってことだよな。」俺は、その大剣を持ち上げてみた。ずっしりと重いが、闇の波動を流してみると軽くなったのが分かる。

これなら俺でも何とか扱えそうだ。ここから戻ったら、両手剣も試してみるか。ストレージに収納したのは、言うまでもない。


周りを見渡すと、崩れて消えた骸骨兵たちの剣や鎧も、石畳の上に残されていた。もう敵は出てこないようだ。ウィルと俺は、値打ちのありそうなものを片っ端から集めてきて、ストレージに放り込む。村に帰れば、俺たちには一財産が転がり込むだろう。これは大金持ち確定だな。


先ほどの三十五階層が、ホムンクルスの人型戦闘による対魔獣バリア。そしてこの三十六階層のゴーレムは、光と闇の相反する力を駆使する者がそれぞれ少なくとも一人ずつ、或いは賢者でなければクリアできないトラップだった。

この二つの障壁を通過できた者は、魔人の里を訪れる資格があると言うわけか。


 ◇ ◇ ◇


一本道が、遠くまで伸びていた。きっとあの先には階段があるな。

そこを降りれば魔人の里か? と考えた俺は、考えが甘かったようだ。

「何かいるぞ。光を反射している。」ゼーレの眼が、障害物を捉えた。


「ああ、見えた。ここにきて、まさかのスライムかよ。」ウィルが毒づいたが、ふと何かに気がつくと、驚き呆れた顔でしげしげとゼーレを振り返った。

「ゼーレ先生、あいつの魔素。」

「ああ、物凄いな。これでは迂闊には近付けん。」


魔素に敏感な魔族だけではない。普段なら魔素の存在を感知できない人族の俺にも、その圧倒的な波動が伝わってくる気がした。

階段の手前に、鉄色の巨大なスライムが、金属光沢を放ちながらプルプルしている。

極めて濃度の高い膨大な魔素が、あの金属光沢を持つスライムの内部で沸騰しているらしい。そして、俺の鑑定魔法では、Lv.100という信じられない数字が出た。


と、相手から、俺たちが走査スキャンされたのが感じられた。ゼーレも波動に気がついたらしく、驚いた顔で俺を見た。

「ああ、こいつ。俺の鑑定魔法に、鑑定魔法を返してきやがった。」

「何だって! 同じ魔法を返してくるのかよ。で兄貴、あのスライムのレベルはいくつだったんだ?」

「聞いて驚け、Lv.100だ。」

ウィルは絶句して、顔が真っ白になった。


「何もしてこないな。」ゼーレは、慎重に様子を窺っている。

「だけど、こちらから魔法を投げれば、絶対に同じ魔法で攻撃してくるぜ。」相手の迫力に、ウィルも腰が引けている。

「ああ、俺もそう思うよ。」これが最後にして最大の障壁と言うわけか。

やっぱり、異世界物はダンジョンですよね。

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