その1 ウィルの修行
⇒南の魔族の里 実年齢52歳
俺が、この魔族の集落に住みついて三年が過ぎようとしていた。
そして、ウォーゼルとビボウの夫婦も、この集落に引っ越してきた。
彼らは、もうすぐ竜族の繁殖適齢期に入るのだと言う。この集落は魔素が満ちているので、辺鄙な火山の頂に住み続ける必要はない。数年すれば生まれてくるはずの子供たちの為に、森の獲物を狩りやすいこの里に落ち着こうと言うわけだった。
ゼーレを助けて治療院で働き、ゼーレからは剣の教えを受け、師匠からは全属性の魔法を叩き込まれた俺は、ついに光と闇の属性を我が物として、下位の四元素属性も完全に操れるようになった。
最後まで苦手だった闇属性を体得できたのは、ゼーレを助けて魔族を治療した経験が大きい。魔族には闇属性が馴染む。毎日、闇属性の回復系魔法を操るうちに、闇の波動がようやく我が身にも馴染んだのだった。
「これにて賢者の誕生じゃ。」老齢もあって多少の手伝いはするものの、日々を治療院で楽隠居の師匠に、ある日そう宣言された。
「もう儂が教えることは何もない、よく頑張った。この短時間で体得するとは、見事なものじゃ。褒めてやろう。」
「俺が教えた剣術も、既に我がものとしたな。確かにジローはたいした奴だ。」
ゼーレも俺を評価してくれたが、剣術に関しては実はタローの存在によるところが大きいのだ。兄弟子には、船のタローは紹介したが、俺の中のタローの存在は伝えていない。
「ゼーレも、光属性を開花させられれば良かったがのう。」
師匠が残念そうだ。そう、兄弟子は今でも、光属性に馴染めないままだった。
「なあに、そこが私の限界なのでしょう。しかし、魔族の治療には闇属性で対応できますし、四属性も今のままで十分です。」兄弟子は、あくまでも謙虚だった。
◇ ◇ ◇
俺とゼーレ、時にはウォーゼルも誘って、よく魔物討伐に出た。そのうちに、俺たちには仲間が加わった。里長の息子ウィルだ。
ウィルは十五歳になった。華奢で母親に似た美少年だったが、持病を克服してからは体つきがすっかりと逞しくなっていた。
そして魔族の若者らしく、ウィルは魔法剣に鍛錬に余念がない。ちなみに彼は、炎の属性を得意としている。俺の鑑定魔法によれば、魔法剣士Lv.16だ。病弱だった彼だが、その後の鍛錬を頑張った証しと言える。
小さな頃に臥せっていた経験からか、子供や弱者に優しい面もあり、父親にとっても里の将来を任せられる、楽しみな息子に育ったと言うわけである。
ウィルはゼーレを先生と呼ぶが、俺は兄貴と呼ばれている。相変わらず、月に一度の治療ボットで生体年齢を二十歳あたりに維持している俺だから、見た目は確かに彼より五歳年上の兄貴分が相当だった。本当は、この星に降りて三十年以上が過ぎ、俺の実年齢は五十歳過ぎなんだけどね。
ちなみにゼーレ兄は、魔法剣士Lv.45で魔導士Lv.40。この里で、剣技でゼーレに勝てるのは、ウィルの親父くらいなものだ。
今日は、森の奥にあり地下深くに通ずると言われる洞窟の探検に出てきた。
いわゆるダンジョンと呼ばれる場所で、地下には強力な魔物、魔獣が住みついている。遥か昔には、マグマ溜まりに近い地熱の高い深部に、魔人が暮らしていたとも伝えられていた。
ゼーレによれば魔人族は、魔素の衰退で今は姿を消したものの、大昔は魔族が自らの上位種族として、いや神として崇めていたものらしい。外見上も魔族に似て、基本的に人型だが額に小さな角を持つ。そして体つきは、どちらかと言えば華奢で優美だったと言う。
「魔人と言うから、ごつくて狂暴なのかと思ったぞ。」俺がそう言うと、
「彼らは魔法に精通している。そして知力は高く、腕力は必要ないのだよ。」
なるほど、そうしたものか。ゼーレの説明に、俺は大いに納得した。
ダンジョンの入口まで来た。
大きな洞窟だ。ゼーレと俺とウィルが横一列に並んでも、余裕をもって進める広さがある。内部には狭い場所もあるようだが、たいていは天井の高い大広間と言った様子で、何と洞窟内にもかかわらず地下深くに降りても上から陽光が降り注いでいるのだとか。
これも、魔人族の失われた技術と言うわけだ。恐らくは、地熱を何らかの方法で光に変換して洞窟内を満たしているらしい。
今日の我々の陣形は、前衛は冒険者として修行中のウィル、これを補助するゼーレのツートップ。
俺もゼーレ譲りの魔法剣で前衛に立つ事ができるし、攻撃魔法から支援魔法まで全てをこなせるオールラウンダーだが、今回は後ろのポジションにいた。
そして頭上には、見張りと休憩時の魔素供給を兼ねた小型ボットを伴っている。ただ、洞窟の奥に進めば、タローとの通信が途切れる恐れがある。頭の中のタローの子機を使って、俺がボットを操作しなければならないな。慣れない作業なので、これは少し面倒だ。
「せっかくのダンジョン探査を見せられなくて、済まないな。」
「なーに、後からボットの録画で楽しませてもらおう。気をつけて行ってこい。」そう言って、タローは俺たちを送り出してくれたのだ。
このチームならば、ダンジョンの序盤から中盤まではサクサクと進めるだろう。
俺たちは、できるだけウィルを前面に出して、経験を積ませることを目的にしていた。
「まったく、雑魚ばっかりだぜ。」生意気にそう言って剣を振っていたウィルも、ダンジョンの十階層を抜ける頃には、口数が少なくなってきた。
スライムから始まり、虫系、両生類に爬虫類、小さめの哺乳類と、出てくる魔物も進化の系統樹を進んできていた。
そして二十階層を過ぎた頃には、流石のウィルも肩で息をしていた。たった今倒した角兎の群れLv.12は、それなりに手強かったのだ。
兎は、俺の五次元ポケットの食肉素材フォルダーに収納した。先ほどから、里で食用になるカエルやヘビを、いくつか入れ始めている。
「そろそろ休憩をとろう。」俺はそう言って、焚火をおこして軽食の準備を始めた。
二十五階層以後は、冒険者のソロ探索は禁止されている。
これは、魔族の集落のおきてなのだ。
それ以降は、出てくる魔物が格段に強くなる。魔物の進化も進んで、レベルの高い中型から大型の哺乳類が登場するし、魔素が淀んだエリアには厄介なアンデッド系の魔物が武装して現れるという噂もあった。過去に洞窟内で倒れた冒険者の、成れの果てらしい。
敵の物理攻撃が強力になってきて、ソロでは不覚を取る場面もあるし、魔法を撃ってくる奴らもいるから、油断ができないのだ。
しかし、ダンジョンに潜る醍醐味もここからだ。
食べれば美味と言われる魔獣も多くなる。最深部に潜む二足歩行の魔物の中には、失われた太古の技術で作られた魔人の武器や防具を装備するものがいると伝えられていた。
こいつらは、ダンジョン深くに今も眠るという魔人集落の廃墟から、得物を拝借してくるとの噂だ。一説には、太古の昔、魔人族が彼らに装備を与えて、警護のために使役したとも言われている。
こいつらを倒すと、その装備が手に入る。いわゆるドロップアイテムという奴だ。
太古に魔人の作った剣や防具は、古びていても村の鍛冶屋で修繕すれば立派に使える場合がある。中には、業物と呼ばれるレア装備だってあるのだ。(続く)




