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その5 魔獣迎撃

黄昏が迫り、野営地を決める一時間ほど前。ボットのタローと相談したゲルタンは、早々とボットにドローンを打ち上げさせた。

今のうちから、迫る魔獣を把握しておこうというのだ。


ドローンが上空20mの高さから赤外線カメラでスキャンを始めると、なるほどこの商隊を追ってくる光点が複数捉えられた。

「やはりな。」バーゼルがつぶやく。「今夜は忙しくなりそうだ。」

今のところ目立つ光点は東側に五つ、少し距離を空けて真後ろから六つ。

光点は大きくはない、おそらく往路に出くわしたハイエナと同程度の大きさの魔獣なのだろう。


ゲルタンは馬車を急がせ、前回野営をした場所まで辿り着くと、今日の拠点作りをした。

周りがぐるりと開けていて、背には川が流れている。魔獣を迎え撃つには、都合の良い地形と言えた。


焚火を熾し、テントを張る。夕食の準備が始まってしばし、「動物の群れの接近を探知、距離500m、光点は六つだ。」ボットからタローの報告があった。

ゲルタンは、ボット表面に展開された地図に目をやった。なるほど光点が六つ。そしてその後ろ、やや東側には別の光点が五つ。真後ろにいた群れが、接近速度を上げたらしい。


「二つの群れと続けて戦うことになる。こちらから仕掛けるぞ。」ゲルタンは静かに両側の騎士に指示を出すと、焚火を背にして、群れが迫る方向にジリジリと進み始める。

紅蓮の魔剣フレイムソードを腰から引き抜くと、魔力を通して刀身をじんわりと赤く励起させた。ジローから贈られた、今や愛用の剣だ。


前方の茂みから、三匹の群れなす狼(フロックウルフ)が飛び出してきた。ゲルタンは、狼に向けて真っ赤に励起させた刀身を横に薙ぎ払う。ヒュンヒュンと刀身から火球が三つ放たれ、それぞれが正確に狼の顔面を直撃した。


次いで、飛ばした火球の後ろから走り込んだゲルタンは、火に打たれてひるむ中央の狼の首を、剣を振りかぶって上から切り落とした。そのまま体を回しながら、今度は左側の狼の首を剣で下から切り上げ、ぐるりと一回転するや右側から飛びかかってきた最後の一匹を剣で薙ぎ払う。その間、三秒足らず。見事な剣の舞である。


両側の騎士も負けてはいない。ゲルタンの左に展開していた騎士は、その槍で狼の胴体を刺し貫き、右にいた騎士は一頭を剣で切り伏せたところだった。


前衛の三人の騎士を突破した最後の一頭が、焚火の傍で夕食の準備をする商人たちに迫った。商人たちを守る最後の砦、テントの前で待機していたバーゼルがクイと鎌首を上げると、突進する狼の直前に白く輝く物理障壁が瞬時に浮かび上がった。


狼は障壁に激突してキャンと悲鳴を上げた。それより早く宙に浮かんだ飛竜は、素早く狼の横に巨体を運ぶと、その筋肉質の胴体で狼を弾き飛ばした。

恐らく叩かれた時点で狼は絶命していただろう。狼の体は数メートル弾き飛ばされ、大木の幹に叩きつけられてドサリと落下した。


「どうれ、儂は早めの夕食と致そうか。」バーゼルは地表をスルスルと這っていき、大木の根元に倒れた魔獣に覆い被さった。


しばらくして、焚火に向けてバーゼルは鷹揚に這い戻ると、何事もなかったように再び警戒態勢に入った。

「ず、随分と、お早いお食事でしたのね。」少し血の気が失せた顔をしたカエデが、気丈にも飛竜に話しかける。飛竜の喉元から先が、少し膨らんでいるのが判る。


「おお、戦場では丸飲みにする。次に備えねばならぬし、腹が減っては戦ができぬからな。」

「美味しいのですか、あれは。」

「ふん、美味とは言えん。だが野趣ある獣を喰らえば、戦う気概が増すというものだ。」

チロチロと舌をのぞかせながら、次の敵に備えて澄んだ目で闇を見据えるバーゼル。

「やはり竜族と私達とは、かけ離れているのだわ。」今更ながらカエデは、竜族の異質さを痛感するのだった。


「右側から五頭、距離200m。」ボットのタローが警告を発した。

「固まっているな、囲い込むぞ。」ゲルタンは両側の二人の騎士に声をかけると、一人正面に立ち塞がった。刀身を輝かせて、気迫で群れの突進を阻もうというのだ。

その間、二人の騎士は大きく左右に展開して、五頭をそれぞれ真横から挟み込む。


「会敵! 今度はハイエナだ。」ゲルタンは、魔獣の群れに向けて紅蓮の魔剣フレイムソードを横一振りした。熱く燃える炎の帯が、魔獣の群れめがけて放たれる。

ゲルタンは炎の到来にひるむハイエナの先頭の一頭めがけて走り込み、剣を一閃させるとそのまま走り抜けた。


炎の帯を投げられ、次の瞬間には大胆にも群れの真ん中を切り抜けられて、ハイエナの群れは混乱状態だ。左側の騎士が、すかさず剣を振るって迫り、目前の一頭を切り捨てる。右側の槍の騎士は、手前のハイエナの首筋を槍の先端で切り裂いていた。


そして、群れを突き抜け振り返ったゲルタンが加勢する間もなく、残りの二頭も次々に二人の騎士に切り伏せられた。

「ふふん、なかなかにやりおる。互いの呼吸も悪くない。」一部始終を眺めていたバーゼルが、とぐろを巻きなおして寛いだ。


「隊長、死骸を片付けますか?」

「いいや、これだけ血の匂いを振り撒いたのだ、その必要もなかろうよ。」

「次に備えて準備をし、腹ごしらえもしてしまおう。」三人の騎士は、焚火の元に戻り、各々が武器の血糊を洗って刃を布で磨き始めた。武器の手入れは武人の基本だ。

手頃な岩に腰をおろし、手入れを終えて剣を収めたゲルタンにカエデが近づいた。


「あなたはとても強いわ、ゲルタン。私たちを守ってくれて有難う。」腰を下ろしたままの獣人を、カエデが後ろから優しく抱きしめた。カエデの柔らかな胸がゲルタンの頬に押し付けられる。

ゲルタンは、しばらくはカエデのなすがままにさせていたが、カエデが腕をほどくと、

「お嬢様、お止めください。御戯れを、」低い声でカエデをたしなめた。


「私達を守ってくれたご褒美。それと、少し気が立っていたみたいだったから、」カエデが気にするふうでもなく、悪戯っぽい笑みを見せた。


 ◇ ◇ ◇


皆で焚火を囲んで、夕食となった。

昼間と同じ、エドナの婆様が持たせてくれた、塩のきいた握り飯。中身は鮭と、昆布の佃煮だ。そして焚火で温めた汁物。

先ほど、既に丸呑みで夕食を済ませていたバーゼルが、食事を取る皆を守る位置にとぐろを巻いて見張りを続けている。


ボットの上面に表示された地図には、今のところこの焚火を目指して近寄る光点はない。

「また現れますかね?」槍の騎士が、誰に言うともなくつぶやいた。

「これだけ匂いを巻き散らかしているのだ、来ない方がおかしい。」ゲルタンは断言した。


皆の食事が済んで、周囲が完全に闇に包まれた頃、「どうやら、主役の登場だな。」バーゼルが鎌首を持ち上げて、遠くの暗闇をじっと睨みつけるようにした。

ボットの地図には、まだ灯っていない何かを、飛竜は感知したようだ。(続く)

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