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その4 お土産はマグロ

カエデ嬢の商隊は、港町オタルナイで一泊し、帰路に備えることになった。

夜はまたしても地元の商店が歓迎の夕べを開いてくれ、近隣の海の幸が豊富に振舞われて皆を喜ばせた。

サイズの関係で残念ながら宴に同席できないバーゼルには、彼のために特別に用意された新しい寝藁が敷き詰められた小屋に、新鮮な大きな魚が丸ごと一匹運び込まれた。


翌朝オタルナイを出発した一行は、昨夜の宴に供された料理の話題で盛り上がっていた。

「あの脂の乗った魚の旨かったこと、マグロと言ったか。」そう言って舌なめずりするのは飛竜のバーゼルだ。

「大きな魚でのう。一度に食べきれるものかと思ったが、あまりの旨さに気がつけばペロリと平らげておった。」カカカといかにも楽しそうに笑う。


「私は、あの寿司というものに驚かされました。」と、話を繋ぐのはゲルタンだ。

「酢を利かせた飯の上に生魚の切片を乗せ、職人が掌で丸めて出してくれるのですが、」

「ほう。」と、バーゼルが興味を引かれた様子だ。

「これが口に中でほろりと崩れて、魚と飯の旨さが相まった味わいといったら、」


「ほうほう、人族はなかなか手の込んだ事をする。」

「バーゼル様に差し上げるには、両手で丸めても小さすぎますわね。」そう応じたカエデ嬢は、今日はバーゼルの首に腰かけている。


飛竜に跨るゲルタンに軽く腕を添えてもらい、ゲルタンの前で横座りしている格好になる。

道行で飛竜様ともお話がしたい、とカエデが望み、カエデ程度の重さは問題ないとバーゼルが請け負ったので、こんな形になった。


飛竜は魔力を使って飛ぶ。今は、竜は地上からは人の半分ほどの高さに浮かんおり、馬車の速度に合わせて揺れもせず滑るように進んでいるのだから、危険はないのだ。

飛竜と話がしたい、と言ったカエデだが、狙いは勿論ゲルタンの傍にいられる事だ。逞しい腕に背を支えられながら、「ここは私の特別席ね。」カエデは至福の時を味わっていた。


途中で一泊の野営をして、二日目の昼過ぎには海辺の村ハルウシまで戻ってきた。

空の荷馬車には、エドナ商会がカエデ商隊の為に用意していた魚介の干物や塩蔵した海藻などが積み込まれた。


通りに面した店の前のイスとテーブルには、エドナの爺様と婆様、息子のヨアキム。対するカエデ一行との話題は、海産物の保存方法だった。

「生魚を、新鮮なまま運ぶ方法はないものかしら。」とカエデ嬢が思い付いてつぶやく。

「飛竜様もゲルタンも、港町で食べた生魚をすっかり気に入ってしまったの。」

「ほう、そうでしたか。お二人とも、これまでは海には縁がなかったご様子じゃな。」


漁には詳しいエドナ爺様が、身を乗り出して説明を始めた。

「魚を釣りあげたら、まずはその場で血抜きをする。」

「鰓などで血管を切り、そのまま海水に漬けておけばよいのじゃ。」

「そして、生で食う場合はその日のうちに内臓を外し、三枚に卸す。」

「涼しい季節でも、できれば翌日までは置きとうはないのう。」婆様が頷いた。

「悪うなった生魚に当たると、体中に蕁麻疹が出るぞえ。」


「冬の寒い時期には、切り身を凍らせておいて食べることもあるな。」

「凍らせても味が落ちない魚もあるのじゃ、例えばサケやマグロじゃな。」

「ほう、それは良い事を聞いた。」バーゼルが俄然食いついてきた。二日前に食べたマグロの味を思い出したようだ。


「そうよ! 飛竜様なら全ての魔法に通じているのだから、お魚を凍らせることができるのかしら?ゲルタンも、少しは魔法が使えるわよね。」カエデが問いかけたが、

「いや、私が使えるのは生活魔法の程度でな。火の属性ならば得意だが、氷となると水と風の属性を同時に操らねばならぬので、私には難しい。」ゲルタンが申し訳なさそうだ。


「私ならば、魔獣を凍らせるのも簡単だな。勿論大きさによるが。」いまや並走するボットからいくらでも魔素を吸い上げる事ができるバーゼルは、そう請け負った。

「おお、流石は飛竜様じゃ!」

「溶けかかったら、また何度か凍り付かせることで、お魚を生のまま腐らせずに私達の里まで運べるのじゃないかしら。」


「ならば、馬車とは言わず直接あのボットに運ばせたらどうじゃ。」

「真っ直ぐに宙を飛んで行けば、ここからサホロの里まで半日もかかるまいて。」

「これは、いろいろと工夫できそうですな。」ヨアキムも目が輝いている。商売の匂いを嗅ぎつけたらしい。


翌朝、カエデ一行が出発するときには、エドナ商会の手で早朝に港に上がった新鮮な魚が、各種取り揃えられていた。

血抜きをしたマグロが数本。木枠に入れた魚ごと、飛竜はいとも簡単に凍らせて見せた。


「飛竜様、半分は私がいただいて、残りの半分はお孫さんのお土産にして。」カエデが太っ腹なところを見せた。

「おお、良いのか。これは有難い。孫らもさぞ喜ぶだろう。」バーゼルは嬉しそうだ。

小型の魚や、その切り身は、そのまま凍らせたもの、樹皮に巻いて周囲を氷で固めたものなど、この際だ、いろいろと試してみることにした。


そして、サホロまでヨアキムが一緒に付いてくることになった。

「生魚の流通となれば、我がエドナ商会の荷ですから、是非サホロの民の評価を見届けたいものです。薬草の取り扱いに関しても、薬師殿とも相談しておきたい。」と言うわけだった。


 ◇ ◇ ◇


一行の馬車は、魚介の干物や塩蔵した海藻に、バーゼルが凍らせた生魚の荷を加え、ハルウシの村を出発した。

今日はヨアキムがいる。カエデは飛竜の特別席を泣く泣く諦めて、馬車に乗り込むとヨアキムとの仕事の話に集中することにした。


相変わらず、陽の高いうちは魔物も現れない。

道行は順調に思えたのだが、歩みを止めて皆で昼食を取ったときに、ゲルタンがカエデに心配事を伝えてきた。

「どうも、魚の干物の匂いが気になります。」


この馬車は、匂いを振りまいているのだそうな。バーゼルと彼にしか分からない事だろう。魔物をおびき寄せているようなものだ、ゲルタンは言う。

なるほど、聞いたことがある。海辺の村から干し魚を運ぶ馬車は、魔獣に襲われやすいと。

今夜の野営は、要注意らしかった。(続く)

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