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その3 最初の仕事

「我が子らが、共に伝説の竜騎士とは。ジロー殿、これほど誇らしいことはない。」ゲルトは、興奮を隠さず俺に話しかけてきた。


しばし歓談の後、ゲルタンをとりあえず俺たちの里に招くことにした。これから商隊護衛ユニットの編成の具体化を急がねばならない。

里までの帰路、バーゼルはゲルタンを乗せて飛びたいと言ってくれた。ゲルタンとしても願うところだ。


「首のこの辺りに腰を下ろして、両足で両肩の付け根を踏み、両手を伸ばして角を握るか、或いはたてがみに手を巻きつけるのも良いかもしれません。」

カレンが兄のゲルタンに、飛竜への跨り方を教えている。


カレンもビボウに乗ったので、里に戻る搭載艇の中は俺一人だ。

獣人を乗せた二頭の飛竜は、ゆったりと空を楽しんでいる。速度を合わせて、俺は搭載艇で二人と二頭を追いかける。ゲルタンは飛竜の騎乗は初めての経験ながら、もうすっかり馴染んだ様子でいるな。獣人族の卓越した運動能力の為せる業だ。


「バーゼルは経験豊富な大人の竜だ。うまくゲルタンをリードしてくれるだろう。」タローが話しかけてきた。

「竜騎士か、これから大いに活躍してくれそうだな。」

「そうだ。お前とカレンの子らも、やがてウォーゼルとビボウの子らに跨って、続々と竜騎士デビューをすることになるのだろうな。」


治療院に戻れば、サナエとクレアが宴会の準備をしてくれていた。今夜は、騎士団の連中も呼んで、商隊護衛の結成を祝うのだ。

飛竜と獣人族と人族の騎士団、俺の嫁達と治療院や学校の関係者も集まって、夜遅くまで食べて飲んで歌って、俺たちはこの集いを大いに楽しんだのだった。


酔いつぶれたものから眠りにつき、翌日の朝には皆で温泉に入り汗を流して、この楽しくも記憶に残すべき護衛隊結成会は終わった。


 ◇ ◇ ◇


竜騎士を含むユニットによる、最初の商隊護衛の日がきた。

この新しい試みに、商人たちの期待は高まっていた。


「私たち商人あきんどは、本来は納品までを立会うべきなのよ。人任せにしたくはないの。」そう弁舌をふるうのは、この里では周辺村落と最大の取引を誇る商家、サワダ家の長女カエデ嬢だ。商家の娘として、幼いころから商いを仕込まれたカエデ嬢は二十代の半ば。決意を秘めたまなざし、明るく活発なその身には、商人のオーラが輝いている。


父親譲りの商才を今こそ発揮すべく、彼女はこの機会に海辺の里との交易を広げたいと意気込んでいるらしい。

今回もゲルタンが護衛隊長を務めると聞いて、真っ先に同行したいと手を上げたそうな。


「相手先の信用を得て、要望を次の商談につなげるのは、商売の基本だわ。」

「新たな商売の情報を得るには、自らが最前線に立つ必要があるのよ。」カエデ嬢はゲルタンをつかまえて、商人道を力説している。強面のゲルタン兄もタジタジだな。


「いやあ、ジローよ。人族の女性というものは、(たくま)しいものだ。」

「まあ、彼女は珍しい部類だけどね。」

「物事をはっきりと口に出すのが好ましい。我らの里にはいない凛々(りり)しき女性だ。」


出発準備が整った頃、カレンが双子を連れて見送りに来た。

子らはそろそろ一歳、もう二人とも独り歩きができるのだから、獣人族の身体能力はたいしたものだ。二か月前に生まれたサナエの子は、まだつかまり立ちだというのに。


「兄上、共に出撃したかったのですが、残念です。」

「お前の分まで活躍して見せるから、まあ任せておけ。」

この兄妹を見つけて、カエデ嬢が駆け寄ってきた。

「カレンさん、お久しぶり。」二人は知り合いか? まあ、もはやカレンを知らない村人はいないかも知れないが。


カエデ嬢は、子供らの前にしゃがみ込み、順番に頭を撫ぜている。

「カレンさんの子供、可愛いわぁ。」頬ずりまでしている。綺麗なお姉ちゃんに可愛がられて、俺の子達も喜んでいるからいいけど、少しベタベタしすぎ。


「ねえカレンさん、私も獣人の夫を持てば、こんな可愛い子供を授かるのかしら?」

カエデ嬢はカレンにそう問いかけたが、スイと目を流してその後ろにいるゲルタンを熱く見つめた。


あれっ、これはもしかして、

ゲルタンは気付かなかった様子だが、兄貴、このお嬢さんに見初められてンじゃねーの。


少し年上のはずだが、頼りになる姉御肌のカエデ嬢は、昔の俺の仲間のオルを思い出す。

武芸一筋、イケメンだが朴訥(ぼくとつ)なゲルタン兄とこのカエデ嬢、案外と似合いのカップルかも知れないぞ。


さて、今回の目玉企画、探査ボットの登場だ。

馬車を引かせるパワーを考慮して、中型の探査ボットを選んでみた。横に寝かせると、幅1m×高さ1mで、長さは1.4mの灰色の長方体だ。外気圏に配置している大型ボットを中継してタローとの通信機能を有し、必要なら細かな作業ができるマニピュレーターを二対展開できる。火器は搭載していないが、推進力の重力波を集束して放てば、大型の魔獣とて吹っ飛ばすこともできるだろう。


動力は、搭載艇の250分の1ほどの融合炉。まあ十分なパワーだ。

大気中の水素を取り込む永久駆動だし、魔素を生み出す事も出来る。もっとも魔素を振りまいて魔獣を呼び寄せても困るので、夜は魔素生成をほどほどにして、ボットの周りでバーゼルとゲルタンに休んでもらい、魔素を浴びてもらえばよかろうと思う。


「馬がいらないなんて。しかも、この牽引費用も護衛代金に含まれているなんて、私たち商人にとっては画期的だわ。」カエデ嬢は、これで固定客第一号になってくれそうだな。


馬車には、商売のネタになる荷物。今回はこの村周辺で採れた新鮮な野菜と果物が主体だ。それに、お嬢様と部下の男女が一名ずつ。それに騎士団から二名の護衛騎士、これも男女一名ずつだ。二人とも弓を使うし、剣の腕前もたつと聞いている。

これを、馬車を牽くボットの前方を、場合によっては上空からゲルタンを乗せたバーゼル、つまり竜騎士ユニットが見守ることになる。


「気をつけて行くんだぞ。」

「商売の成功を!」

馬車の一行は、サホロ村の皆の見送りを受けて、村の北門から旅立って行った。ここから北にある海辺の村ハルウシ、そしてその先の港町オタルナイまで、片道三泊四日の旅路が待っている。

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