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その2 支援の相談

カレンの父上と兄上を前に、俺は突然ひらめいた。

「父上、本日は何の土産もお持ちしませんでしたが、宜しければ如何(いかが)でしょう。」

俺はスマホを取り出し、五次元ポケットアプリを展開した。


俺の前にフォルダがずらずらと投影される。ゲルト親子は呆気に取られて、これを見ている。

「片手剣フォルダ」の中から、一本取り出す。俺が愛用の剣と同型だ、実は予備を数本持っているのだ。

「私の剣と同じものです。風属性に相性が良いのです。お使いいただければ光栄です。」

これを、親父殿に差し上げることにした。今の剣からは+5と言ったところか。


俺は、もう一本を取り出して、「これは兄上に。」

これも、かつて魔人のホムンクルスがドロップした紅蓮の魔剣(フレイムソード)だ。俺の剣と同様に、やはり南の魔族の鍛冶屋で打ち直してある。火属性専用なので俺には使いにくかったが、兄貴殿にはちょうど良かろう。これも今より+5くらいだな。


戸惑うゲルト親子に、カレンが言う。「父上、兄上、私は王族に買われてこの家から出た身ですが、この剣は旦那様からの結納の品と思って、お受け取り下さい。」

親父殿は何か言いたげだったが、その言葉を飲み込んで、「婿殿、有難く頂戴しよう。」

兄貴殿も、「大切に使わせていただこう。」と言ってくれた。


 ◇ ◇ ◇


これから族長会議があると言うゲルト親子と別れ、俺達は獣人族の里を後にした。

可愛い孫らを見守るために、ゲルトの家にもボットを置いてきたことは、言うまでもない。

「これで父上にも、カレンの子供をいつでも見てもらえるな。」

「旦那様、ご配慮いただいて感謝します。」


「カレンは王族に買われたと言ったか?」

「はい、母に先立たれ双子を抱えて困窮した父を、魔王様が助けて下さったのです。」

「優秀な獣人族を魔族が抱える際に、支度金を渡して買い取る形にする習慣があるのです。」クレアが説明してくれた。なるほど、奴隷とかじゃあないのね。


「カレンは、同い年の遊び相手として、私のところに参りました。私たちは一緒に育った仲なのです。」

「里から離れて一人寂しがる私を、姫様は毎日抱いて寝てくださいました。」

ふーん、それって単に暖かかったからじゃねーの。カレンは抱き心地がいいからな。ペット枠だったのかな? まあ、これは言わない方が良さそうだ。


「それにしても、お前の里は、」

「はい、貧しい里なのです。お恥ずかしい限りです。」

いやいや、貧しいことは恥ずかしいことではないぞ。だが、確かに質素な暮らしぶりだ。それを言うなら宗主たる魔族でさえも、そしてその王族でさえも決して豊かな生活には見えなかった。


「クレア、魔族は人族に比べて、その、何と言うか、」

「人族に迫害された長い歴史があるのです。狭い耕作地、狩猟や山野草の収穫に頼らざるを得ない地域に、私たちは追いやられて生きてきたのです。」


なるほど、そうか。それで人族との間に深い溝があるのだ。まあ、魔族も獣人族も、俺から見ればちょっと戦闘狂で、癖の強い印象はあったが、決して悪い奴等ではないと感じた。怖いのは王妃様だけだし。


「カレン、兄弟はあの双子の兄上だけなのか?」

「はい、母が早くに亡くなり、父は、その後は独身のままです。私は王家に引き取られましたので、兄弟は兄だけです。」


「お前の種族は多産だと聞いたぞ?」

「はい、両親が健全であれば、我ら獣人の夫婦は子が数人を数えるのが普通です。」

「生まれた者の数からいえば、半数以上が寿命の前に亡くなるのは、魔族と同様ですね。」と、とんでもない発言をしたのはクレアだ。


えっ、なにそれ! 半分以上とはタダゴトではないぞ。

「獣人族が魔獣との戦いで命を落とすのも日常茶飯事なのです。」カレンが続けた。

何だそれ!そんなに危険な生活環境なわけ?


うーむ、今までは気にも留めなかったが、愛する嫁達の実家がそんな状況にあるとすれば、(めと)った婿としては、何か行動を起こすべきだな。

しかもキュベレからは、やがては魔族の後見人になれと言われている。その意味では、幸いにしてこの嫁達は貴重な情報源だ。本気で取り組む時期が来たのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


村に戻った俺は、自室に三人の嫁を呼んで、状況を整理することにした。

タローも壁に呼んだ。俺の頭の中でいつも聞いているんだけど、皆には姿が見えたほうがいいよね。


サナエは、仕事の空き時間に、ボットを経由した画像で俺達を見ていたそうだ。

「ジロー先生って、ものすごく強いのね。私、ビックリしちゃってさ、」そう言えば、サナエが俺の戦いを見るのは、初めてだったな。サナエにとって、俺は治療士で学校の先生なのだ。

「あの強いジロー先生に、クレアとカレンが惚れ込んだわけなのね。納得したわ。」


「クレアのお父様、渋くて素敵だった。お母様は、とても美しくていらっしゃるのね。」

そうです、美人で、そして獰猛(どうもう)です。俺は貞操(ていそう)の危機でした。

「カレンのお父様、お兄様も、カレンと同じで脳筋だけど、素敵!」えーと、それは褒めているのかな?

「ただ、魔族もそして獣人族もとても質素な生活ぶりに、驚いたわ。」そう、それが今日皆さんに集まってもらった理由です。


「カレン、獣人族の子供たちが育たない理由は何だ?」

「病気でしょうか。」

「どんな症状が多いんだ?」

「熱が出て衰弱したり、心の臓が止まったりですね。」


つまり感染症による肺炎だな。それなら、俺が面倒を見ているこの村の人族と変わらない。

感染症ならば、その原因にもよるが、対症療法によってある程度は抑え込める。伝染性のものであれば、隔離や消毒の概念も重要だ。

そして乳幼児の心疾患は、先天的なものが多い。しかし軽症であれば、過去に俺の治癒魔法で対処ができた例もある。


この星の人類は遺伝子が多様だから、先天的な奇形も多いようだ。生まれてすぐに亡くなる乳児の死因には、先天的な異常や悪性新生物が多く、これは人族でも魔族でも獣人族でも変わりがないのだろう。残念ながら、長く生きられない運命を背負った子供達は、少なからずいるものだ。


「カレン、里には回復術師はいないのか?」

「おりますが初歩の回復術が使える程度で、しかも魔力では魔族に数段劣ります。」

「魔族の治療師が出張ることはたまにあるわね。それと薬は、ある程度出回っているはずね。森で薬草が採れるのだから。」とクレア。


まあ、回復魔法は対症療法に過ぎないので、原因を取り除かなければ治療効果がない場合も多いだろう。

「そもそも最近では魔素が減っているから、汲み上げ能力が低い者のなかには、治療ばかりではなく生活魔法全般にも支障が出てきているのです。」


「獣人族が、強力な魔獣に不覚を取るのも、魔素が充足していないせいもあります。」

ふーむ、魔素を求めて火山の麓に移り住んだ魔族だが、火口から噴出する魔素そのものが減ってきているのだな。


「あっ、そう言えば!」俺としたことが、大切な事を忘れていた。

「魔素なら増やせるンだぞ、足りていないのなら増やしてやろうか?」(続く)

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