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その3 ビジネスモデル

「魔素を増やしてやろうか?」

たった今、嫁達の実家に置いてきたボットの融合炉の、プラズマ制御ルーチンを操作するだけのことだ。

「そんな事ができるのですか? いったいどうやって?」クレアが食いついてきた。

この深刻な事態に、俺は気付かなかった自分を大いに責めた。前例があったと言うのに。


「うん、実はボットの融合炉をいじると魔素が生成するんだ。その代わり、エネルギーの変換効率が悪くなるけど、まあ支障が出るほどのものではない。今日、置いてきた小型のボットで、火山一つくらいの魔素を供給できるぞ。」

「それは一度きりなのですか?」

「いや、融合炉の運転は無限に続くから、魔素の供給も限りはないよ。」

「どのくらいの範囲に届くのでしょう?」

「以前、ウォーゼル達で調べたときには、発生源のボットから半径10kmだったかな。」

「竜とは違って魔族の魔素消費量は小さいから、もっと届くかもね。」

「直径20km、魔族の里の全体に届きますね。」クレアは目を輝かせた。


そうと決まれば、善は急げだ。

俺はクレアとカレンに、ボットを通じて実家への連絡を頼んだ。

魔王様もゲルトの親父も、共に半信半疑で受け取ったようだが、増やせるものなら増やしてくれとの返事だった。


早速タローに頼んで、ボットの融合炉の制御ルーチンを上書きしてもらった。これで明日の朝に目覚めれば、魔族の里も獣人族の里でもその効果を実感してもらえることだろう。

ただ、放出された魔素を求めて、魔獣が寄って来る可能性がある。クレアとカレンには、このことも伝えてくれと念を押しておく必要があるな。


「食料も足りてないんじゃないか。例えば穀物とか。」

「肉は獣を狩って確保しますが、我らは穀物をあまり好みませんし。」

あれっ? 近所の子供らに剣の稽古をつけてやった後、大飯をかっ食らってるのは誰だよ。

「まあ、貴女がそれを言いますか、カレン。」ほら、クレアにも突っ込まれた。


「そ、それは、サナエのご飯が美味しいから。」まあ、そう言う事にしておくか。

「多分、これまでの生活習慣に過ぎないわよ、カレン。穀物の取り過ぎはいけないけど、糖質は体のエネルギーの根本よ。」おっ、栄養学のサナエ先生の登場だ。


「ジロー先生、私が思うにカレンの里には、そしてクレアの王国もだけど、公衆衛生と栄養学に基づいた食生活の改善、そして病人や怪我人に対処するための、この治療院のような組織が必要だと思うの。」うん、このことであった。


「公衆衛生と栄養学は学びで解決できるけど、治療院は具体的にそこに存在しなければならないわ。」

「王国には、治療院のような場所はあるのですが、とても旦那様のような医学の知識の持ち主はおりません。」クレアもうなずいている。

「治療院の分院を作りましょうよ!」サナエは鼻息も荒く意気込んだ。


「私がボットを介して常駐すればどうだ?」ここで、タローが提案してきた。

「問診と、ある程度の対症療法ならば、私がボットで対応できる。手に負えない患者には、医者であるジロー達がリモート対応すればよいだろう。」なるほど、それは良い考えだ。


「ここにあるお薬を、カレンの里までボットで届けてもらう事もできるわね。初期対応が早ければ、重症化を抑えられる。毎回、私達がその場にいなくとも、飛んでいかなくとも良さそうよね。」

「まあ! そんな施設なら私の里にも欲しいです。」クレアも目を輝かせている。

「クレアも、カレンも、今の話をボットで父上に相談してくれないか?」


「でも旦那様、ボットは沢山あるのですか?」

「ああ、あのタイプの小型探査ボットなら搭載艇に全部で20機積んであった。この村の警備に貸し出したりしているが、まだ残っていたはずだ。」

「あと9機あるぞ。」タローが補足してくれた。


「簡単な施術を行うには、二対のマニピュレータを持つ中型探査ボットのほうが向いているかも知れないな。」医者が常駐しない無人の治療院なら、なおさらだ。

「中型ボットなら、竜族に貸し出した残りが7機あるな。」再び、タローが教えてくれた。


「では、獣人族の回復術師のところには中型ボットを、魔族の治療士には小型のボットを送ってはどうだろう。クレアとカレンで調整してみてくれ。」

「はい、判りました。」


「栄養不良もあると思うの。カレンの里には、人族から食糧支援してあげればどうかしら?」サナエが次のアイデアを出した。

「人族からの施し物など、我らのプライドが許しません!」カレンは、思いのほか強い抵抗を示した。ですよねー。


「恵んであげる、ではなくて、例えば労働の対価として渡す、とかな。」と俺。

壁のタローが言った。「獣人族で評価されるべきは、やはり体力や戦闘力だろう。」

「それを生かすとすれば、肉体労働か、カレンのように剣技の講師、或いは要人警護などだろうな。」


「護衛! それだ!」周辺の村との交易に、商人は馬車を使うのだが、荒野では獣に出くわすときがある。最近では盗賊も出ると聞く。

「獣人族で護衛集団を作り、馬車を守らせる仕事を作ればどうだ。」

「これなら、人族の側から対価を払えるだろ。」


「人族のために働けと言うのですか?」

「いや、そんな一方的な話じゃないさ。獣人族は対価を得る。お互い得をするんだよ。」タローよ、グッドなアイデアだぜ!


早速タローには、その場で村の門を守っているハンネス兵曹長に繋いでもらった。

しばらくして、兵曹長が映し出された。「はい、ジロー先生。何か御用ですかな。」

俺が獣人族の護衛の話を持ち掛けると、兵曹長は少し考えて「なるほど」と頷いた。


「実は我々騎士団にも商隊護衛の依頼は多いのですが、全てに対応できているわけではないのです。」

「カレン殿のようなお強い方々が護衛についてくれれば、商人も心強いことでしょう。」実は、兵曹長は数日前にカレンとの模擬戦で、獣人族の技量を思い知ったばかりだ。カレンの弟子になりたいと言っている兵曹長の部下も、大勢いると聞いていた。

学校では子供たちに武技を教え始めたし、カレンのお陰で、この村での獣人族の評価は変わりつつある。


「この現場から戻ったら、騎士団本部に話を上げてみます。少し時間をください。」兵曹長が請け合ってくれたのが、有難かった。

「今度、具体的な打ち合わせをさせてくれ。」そう言って俺は通話を切った。これは、上手く運びそうな予感がしてきたぞ。


「旦那様、商人の馬車の護衛となりますと、数日を要する場合もあるでしょうか?」カレンは何やら心配気だ。

「私たち獣人族は、宗主族ほど魔素には依存しておりませんが、」言いたいことに気がついたクレアが、その後を引き取って言った。「確かに、平野で数日過ごすことになれば、魔素が補給できない場合もありそうですね。」

「我々は、強敵には剣や爪に魔法を乗せて戦います。この切り札が使えなくなると、万が一の時の戦力低下は否めません。」なるほど、確かにそうだ。


「それなら、ボットを連れていけばいい。」

「俺の船のボットは、まだ少し残っている。実はかなり昔から竜族に貸し出して、喜ばれているのさ。竜族とは10年以上の付き合いになる。」


クレアは思い当たったようだ。「だから、ウォーゼルやビボウの家族も、ここで生きて子を成す事ができるのですね。」

「まあ、実はそういう事だ。温泉からも魔素は出ているが、実は納屋に置いてある搭載艇の融合炉から、大量の魔素が放出されているんだよ。」


「貸し出せるボットの数に限りはあるけれど、商隊護衛には連絡用も兼ねてボットを連れていけば、魔族も獣人族も、何なら竜族だって、日々の魔素を補給しながら同行することができるはずさ。」


そうだ! 商隊を護衛する獣人族。いつでもボットで通信可能な遠征ユニットを組織して商隊護衛を請け負うのは、新しいビジネスモデルになるんじゃなかろうか。

「カレン、この話も兄上とも相談して前に進めてみないか?」

「はい、旦那様。」

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