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その1 剣談義

さーて、気を取り直してカレンの里に向かおう。

魔族の集落は山の麓に近いが、獣人族の里は山の中腹にあるらしい。カレンに案内させて、里の上空まで搭載艇で飛んできた。


「木々が邪魔で、降りられそうなところがないな。」

「少し離れたあの岩場なら大丈夫だろう。そこから歩いてくれ。念の為、ボットを先導させよう。」とタローが言った。


搭載艇から出て、俺達はカレンの案内で木々の間を歩きだした。けもの道のような細く踏み固められた跡が続いている。

「何者か!」突然、前方の木々の間から声がして、手槍がカレンの足元に飛んできた。

カレンに並んで先導していたボットが、収束させた重力子ビームで瞬時に手槍を跳ね飛ばした。しかし、これは威嚇だな、当てるつもりはなかったようだ。

そもそも、子を両手に抱きかかえた女に槍を投げつけるとは、怪しからん話だが。


「ゲルトが娘、カレン。この里の者だ。」カレンが声高に名乗ると、獣人の男が一人、ひらりと目の前に降り立った。

「カレン殿か。王家に認められ出世されたと聞いたが。」

「そなたはエイム、久しいな。」


「そこにおわすは、(われ)が仕える姫君クレア様。失礼の無いように。」エイムと呼ばれた男は、クレアの前で跪いた。カレンと同じ虎模様だが、やや体色が濃いかな。

子を抱いたままのクレアは、尊大に男を見下ろすと軽く頷いて見せた。おお姫様モードだ。


「父上はご在宅だろうか?」

「今夜に族長会議があります故、今はご在宅かと。」

「分かった、ではこのまま向かわせてもらおう。」エイムは、余計な事は言わず、手槍を拾うとまた木の上に消えて行った。


何だか俺だけ蚊帳かやそとだな。「カレン、あれは何だ?」

「はい、里の見張りなのです。主要な道には配置されておりまして。主として魔獣警戒の任に当たります。」なるほどね。


少し歩くと、質素な家が見えてきた。木造で茅葺の屋根だ。カレンは戸口に立つと、「父上、カレンでございます。」と大声で呼びかけた。

やがて扉が開くと、体格の良い男が二人出てきた。


まずはカレンが「姫様のお成りです。」と告げた。

クレアが一歩前に出て「久しぶりですね、ゲルト。」と声をかける。ゲルトともう一人の男は、すかさず跪いた。おお、クレア姫。また姫様オーラが全開です。


カレンが続ける。

「父上、今日は我が主人の許しを得て、子らをお見せするべく参上した次第です。」

今度は俺が一歩前に進み出て、「お初にお目にかかります、お父上。カレンを娶らせていただきましたジローと申します。」と挨拶した。


「そなたが人族の賢者殿か。儂はこの獣人の里の族長の一人、ゲルトと申す。」

「先ほど、王都から連絡があり、かの護国卿キラ侯爵様を下したと聞いた。我が娘の婿として、誠に晴れがましいことだ。」一応は、褒めてくれたみたいだな。


最後にカレンが、もう一人の男を紹介してくれた。「旦那様、そしてこちらが私の双子の兄ゲルタンでございます。」

「父上、そして兄上、ご挨拶がここまで遅くなり、申し訳ありませんでした。早く孫の顔をお見せしたかったのですが。」

「同行する私の子の首が座るのを、カレンに待ってもらっていたのです。」我が子を抱いたクレアが言ってくれた。うん、ナイスなフォローを有難う、姫様。


「父上、せっかく初孫を連れて参りました。見てやって下さいませ。」カレンは、そう言うと虎柄のチビ共二人に言った。「あなたたちのお爺様ですよ。」

突然、ゲルトの顔が笑い崩れた。もうニコニコの、孫溺愛モードに突入だ。二人を抱きしめ、頭を撫でながら「何と可愛い子じゃ。この世のものとも思えぬな。」

ああ、またしても爺バカの誕生に立ち会ってしまった。


 ◇ ◇ ◇


家の中に入れてもらい、皆でしばし歓談となった。

家の中も質素だ。あまり家具は置かれていない。なんだかスッキリしすぎている気がする。獣人族はミニマリストなんだな、多分。


カレンが俺の目線の動きを捉えて言った。

「物がないでしょう。獣人族の家は、どこもこんなものです。」

「必要最小限と言うヤツだな。君の種族は質実剛健がモットーなんだろう。」

「まあ、それもありますが、単に我らは貧しいのです。」


「私のように宗主たる魔族の下で働く事ができれば、それなりの生活もできるのですが、この里では僅かな農耕と狩猟、山野草の収穫くらいしか収入源がありません。」

なるほど、そうなのね。人族に追われた結果なのかな、あとで詳しく教えてもらうことにしよう。


壁に目をやると、ゲルトとゲルタンのものと思われる、片手剣と盾が架けられていた。

素朴な作りだが、よく手入れされている。

壁の剣に目を止めた俺を見て、ゲルトが言った。

「賢者殿の腰にあるのも片手剣ですな。」おっ剣談義を振ってきたか。ゲルト親子も剣技にはこだわりがあるらしいからな。


「はい、私は、今はこの片手剣を愛用しています。昔は両手剣も使ったのですが、カレンの域には達せませんでした。」これは世辞(せじ)ではない、本当の事だ。

「ちょっと失礼して、」そう断ってから、俺は剣をゆっくりと抜いて刀身を見せた。

「おお、これは見事な。」ゲルト親子が称賛の声を上げた。


そうでしょ、そこそこ業物なのだ、この剣。

昔ダンジョンで手に入れた魔人の剣を、南の魔族の里で(こしら)え直してもらったものだ。調子に乗った俺は、剣に得意の風属性を通した。刀身が青白く励起して、ひゅるひゅると風をまとい始める。


ゲルトがやおら立ち上がって、壁の剣を取った。

「婿殿が、風属性がお得意とは奇遇ですな。」ゲルトはそう言って刀身を(さら)すと、それは俺の剣と同じように輝いて、風を巻き始めた。

「儂も婿殿と同じく、風を得意としておりましてな。」おおこれは、きっとなかなか強いな、この親父。そして、俺を婿殿と呼んでくれたか。風属性を得意とするもの同士、今後とも仲良くしたいものだ。


するとゲルタンも立ち上がって、「俺は火属性がしっくりくる。」壁にあるもう一つの剣を抜き払うと、刀身を真っ赤に輝かせた。おお、すごい迫力。この兄貴殿も強者(つわもの)だ。

「父上も兄上も、お見事です。」俺は心から称賛した。


「それでも、三本に二本は私の勝ちですわ。」カレンが自慢げに言った。あっ、そうなのね。

剣談義で一気に打ち解けた俺達を見て、カレンも笑顔になった。彼女も剣大好き娘だからな。この親にしてこの娘ありだ。


チラリとクレアを見ると、剣談義に(にぎ)やかな俺たちを見て、呆れた様子で苦笑(にがわら)いをしていた。(続く)

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