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その3 時空震

「それにしても、短い時間でこれほど魔素を汲み上げたのは初めてだな。」

「今なら、沢山の卵を産めそうな気がします。」頷いてビボウは満足げに鼻を鳴らした。

「良かったら、いつでもここに来ればいいよ。」

「おおっ、そうか。それは助かる。火口からは、我ら夫婦が必要な最低限の魔素しか汲めぬのだ。」


突然、俺の隣にキュベレが実体化した。

「驚いた。時空震の発生源はここね。やっぱり、ジローはここでは異物なんだわ。」キュベレが俺を見て、ため息をついた。

「イレギュラーの発生。めったに起こらないのよ。新しい未来に分岐したわ。」


「ジローの融合炉は原始的なのね。本当なら、竜や魔族は滅ぶ運命だったのに。」ふーん、我らが誇る重力工学が行きついた核融合炉も、キュベレには原始的なのか。

「まさかジローの船の融合炉から魔素が漏れていたなんて、思いもしなかった。こんなに副産物が漏れ出すなんて、まったく完成度が低いわね。」


「キュベレよ、その時空震とは何じゃ?」

「定められていた未来が分岐するときに起きる現象よ。この宇宙の、過去から未来までが記録された情報が上書きされたのよ。」

「上書きされた、とは?」

「簡単に言えば、未来が変わったということね。ここは、分岐した新たな時間軸よ。」


「融合炉からの魔素を汲み上げることを、飛竜が覚えたからだな?」俺は分かりかけてきた。

「その通りよ。これで、地域は限定的だけど竜が絶滅しない未来が(ひら)けたわ。」

「悪いことをしたのかな?」俺はキュベレの顔色を(うかが)った。

「いいえ、良い悪いじゃあないの。変わっただけ。」


「でも、その先がとても不安定なままだわ。まだ、何か起こるのかもしれない。」

「ウォーゼル達が融合炉からの魔素を浴びることを覚え、今後はこれを続けることで竜種の絶滅はなくなったからだな。」

「そうね。」


「なら、これからこの星に到着するだろう俺の仲間が、融合炉からの魔素の放出量を増やす改良を行うとかなら、どうだ。竜のためにやりそうなことだ。」

「改良だなんてよく言うわね。こんなに膨大なロスを漏れ出させておいて、本来のエネルギー変換効率を大きく損なっているというのに、」


突然、キュベレは口をつぐんで、遠くを見ているかのような仕草をした。

「待って! 未来が整ったわ。ジローの言う通り、魔素量を増やす工夫が行われて、人族と竜族が共存する未来がたった今、確定した。」


キュベレは俺達にはヒト型に見えるが、それはこの三次元空間だけでの話だ。その実体は六次元に展開していると自分で言っていたから、今もキュベレは俺達が感知できない次元で未来を見ているのだろう。


「ジローが、今そう思い付いたからだわ。ジローの仲間には、この辺りの科学技術に詳しい人がいるのね。」

ああ、そうだ。この太陽系外縁まで一緒に来たオルは重力工学だし、スリープ中の仲間には理論物理学が専門の奴もいたことを、俺は思い出していた。

「あなた方は、魔素を最大限に放出するユニットを作るわ。遥か遠くの未成熟な種族の不完全な技術が、この時代の竜を絶滅から救う。興味深いわね。」


「本当に大丈夫なのか、未来が変わっても。」俺は心配になってきた。

「うん、変わっただけ。問題はない。新しい未来がつながっただけだわ。私は、自分の領域に落ちてきた異物を拾っただけ。領域外に出てはいないから、守護者の権限を逸脱してもいない。」


「因果律に抵触していないから、この星系の管理者として私が責任を問われることはない。そして、この星の人類には竜との共存で思わぬ進化が訪れる。」

「これって、全宇宙守護者連絡協議学会で論文発表に値する出来事じゃないかな。やだ私、注目されちゃう!」ああ、そんな組織があるんだ。さぞかし凄いメンバーなんでしょうね。


「と言うことは、俺の仲間は無事にこの星に辿り着くんだな。」期待を込めて俺は尋ねる。

「前に言ったけど、この星系まで来れたら、私がこの星まで連れてきてあげるわ。それまでの移動は、ジローのお仲間次第だけれど、多分大丈夫みたいね。」

よーし、希望が見えて来たぞ。


「じゃあね、ウォーゼルとビボウ。あなたたち、沢山の子供に恵まれることになったわ。良かったわね。」と言うと、キュベレの姿はかき消えた。

いつも唐突に現れ、勝手にいなくなる奴だ。

飛竜があまり驚いていないところを見ると、この二匹もキュベレとは面識があるみたいだな。


「ジローの仲間は、いつやって来るのだ。」

「キュベレの話だと、まだ100年先とかだよ。」

「むう、100年か。そう遠い話でもない。」ああ、竜にとっては、そうなのね。


「俺との出会いは、ウォーゼル達にとっては良かったみたいだな。」

「そうらしいが、こちらはその科学技術とやらが判らぬので、今一つ理解が進まんな。」

「ならば、タローを借りて学ぶが良いぞ。儂もそうしたのじゃ。」

「おお、構わんのか。ジローよ。」

「私がこのままお供しましょう。」目の前に浮かぶボットから、タローの声がした。

確かに、この大型ボットの画面でなければ、竜には小さすぎるだろうな。

「ウォーゼルよ、世の(ことわり)を学ぶのじゃ。」師匠が先輩面をして、そう言った。


 ◇ ◇ ◇


そんな訳で、俺は飛竜族のウォーゼルと出会い、すっかり意気投合した。

彼は、魔素を汲みがてらによく遊びに来ては、友として俺を乗せて魔獣狩りに付き合ってくれた。まあ、彼の食事も兼ねていたのだが。


ある時、魔素を浴びに来ていたウォーゼルが、俺に尋ねてきた。

「こうして船の融合炉の出力を上げると、魔素も増えるが、エネルギーもより多く発生するわけだな。」ほう、ウォーゼルもタローから学んで、原子物理学の理解が進んだな。


「増えたエネルギーは、どうなる?」

「いつもは船の動力に必要なだけしか、エネルギーを生成しない。余剰なエネルギーは、熱として放出されるだけだな。」


「融合炉に負担をかけるのではないか?」何だ、心配してくれているのか。

「問題ないはずだ。周囲からの水素原子の取り込みが少し増えて、排出されるヘリウムも少し増えるだけだ。」合っているよな、タロー。

「ああ、炉内は重力波バリアでプラズマの上限温度を維持しているから、問題ない。」


「理論上は、もっとプラズマの温度を上げられれば変換効率が最大化するんだが、重力波バリアの限界があるんだよな。」生き物係の俺には、融合炉の知識はこのあたりまでだ。

「ジロー、キュベレが言ったのはそれだ。」タローの声には興奮が感じられた。

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