その2 魔素の由来
「バイタルは急速に回復中だ。ジロー、聞こえているか?」
頭の中のタローの声で、俺は気がついた。俺はウォーゼルの手を取ったまま気絶していたのだった。ああタローが俺を操って、倒れぬように立たせてくれていたのだな。
「済まん、もう大丈夫だ。」俺はタローに礼を言った。
「上手く行ったようだ。」手を離したウォーゼルは、優しい目で俺を見つめた。
えっ、もう終わったの? 意外にあっけないな。
「手の平を上に向けて、そこに今見た光を念じてみよ。」
師匠に言われて、俺は気を集めてみた。光属性だけは昔から得意な俺だ。
ポウっと、光が手の平の上に輝いた。おお、以前より数段大きな輝きになっている。
「よし、次はその光を闇に転ずるのじゃ。」
また精神を集中すると、光は手の平に吸い込まれるように消え、今度は周囲の光を引き込み始めた。漆黒のモヤが手の平に乗っている。
「よし、上出来じゃ。」師匠が褒めてくれた。これが闇の波動か、確かにこれは初体験だ。
「君は優秀だ、ジロー。私でも最初はこんなに簡単ではなかったぞ。」ウォーゼルも俺を褒めてくれた。
「これで、光と闇の波動は会得ができた。あとは鍛錬あるのみじゃな。」
「光と闇の波動は、生体エネルギーの強い発露だ。今はただ、強い波動を素早く切り替える練習に専念するがいい。」
「十分な強さと速さに至ったときに、魔法を伝授してやろう。」師匠が、ポンと俺の肩を叩いた。
少々拍子抜けの感がある。これで俺は、光に次いで闇属性を体得できたのか? 確かに、魔力の通りは良くなった気がするが。
「どうじゃ、魔力の巡りが強まったのが分かるじゃろう。」
「はい、確かに。」
「光と闇の修行は、魔力を強めるために一番効果的なのじゃ。魔力が強まれば、これまで覚えた四元素属性も自ずと強化されるはずじゃ。」
「ところでジローよ、お前の汲み上げた魔素に触れたら、変わった風味がした。陽の光に含まれる魔素の味を数段濃くしたような、今までない刺激的な味だった。」ウォーゼルが不思議そうに俺に聞いてきた。
「どこで汲み上げた魔素なのだ?」
陽の光に含まれる魔素ならば、太陽から放出されているのだろう。とすれば、俺が外で陽に当たっているときか?
いやいや竜と違って、俺は、人族は、魔法以外には魔素を消費しない。師匠と違って、俺には日光浴の習慣はないし、昼間、師匠にしごかれて消費した魔素は、多分寝ているうちに周囲から汲み上げて回復しているのだろうな。
「うん? もしや?」俺はひらめいた。搭載艇にも小さな太陽が、熱核反応があるな。
「なんじゃ? 何か心当たりがあるか?」師匠が俺の顔をのぞき込む。
「搭載艇の融合炉かも知れません。融合炉の仕組みは、太陽の熱核反応と一緒です。」
「ほう、おぬしの船でも核融合が起きているということじゃな。」おっ、師匠。原子物理学の理解はずいぶん進まれましたね。
「私たちの物理学は、これまで魔素の存在を知らなかった。なので、測定することもできませんが。船の融合炉からも、魔素が発生しているのかもしれません。」
ウォーゼルは「?」の目をしている。
物理学の知識がなければ、今の会話についてこれないよね。
「その魔素の出所が、分かるかもしれんぞ。」師匠はウォーゼルに話しかけた。
「儂らをふもとまで送ってくれるか?」
「それはお安い御用ですが。」ウォーゼルは師匠を背に乗せた。俺はビボウに跨らせてもらった。
流石に竜は早く飛ぶ。あっという間に、俺達を搭載艇の場所まで連れて行ってくれた。
竜の背から降りた俺は、ウォーゼルに搭載艇を指差した。
「どうだ、何か感じるか?」
二匹の竜は搭載艇の方向を向くと、鼻で嗅ぐような様子を見せたが、顔を合わせて頷くと船に向かって鎌首を立ち上げた。魔素を汲み上げだしたようだ。
「そうだ、ジロー。この味だ。」
「ああ、何と刺激的な風味なのでしょう。」ビボウが驚いている。どうやら、俺の想像が当たっていたな。
「タロー、少し融合炉の出力を上げてみてくれ。」頭の中で、タローに命じる。
「おおっ、これは!」ウォーゼルとビボウは、その違いをはっきりと認識したようだ。
今度は師匠が「?」の顔をしているので、「融合炉の出力を上げてみたのです。」俺は師匠に説明した。
「なるほど、それで魔素の発生も増えたという事か。」
「この魔素量は、火口から噴き出すものよりはるかに多い。」ウォーゼルは興奮気味だ。
「ジロー、あれは何なのだ?」
「あれは俺が乗ってきた船だ。あの中には、船を動かすための融合炉がある。融合炉とは、太陽に似た仕組みでエネルギーを取り出す機械だ。」
「キカイとは何だ?」
「何かの仕事をさせるために、人が作った仕組みの事だな。」
「お前たちは太陽を作れるのか!」
「いやいや、太陽で起きていることを、きわめて小さな規模で真似ているだけさ。俺達は魔法を使えない代わりに、科学技術を発達させてきたんだよ。」
「ウォーゼルよ、ジローの種族の科学技術は面白いぞ。儂らは、この船に乗って地上から遥かに高く飛び上がり、あの月まで行ってきたのじゃ。」
「何と?」
ウォーゼルとビボウが、物欲しそうな目で俺を見た。
判るよ、君らも見たいんだろ。でも、その図体だと船にはお乗せできないな。そうだ、でも見せることはできるな。「タロー、頼む。」
「大型のボットを射出しよう。」
ポスンと音がして、搭載艇の尾部から探査ボットが飛び出し、俺達の前まで飛んできた。
その大型ボットの表面に、大きく画像が映し出された。
「このあいだ、師匠をお乗せして、地上を離れ、月を回ってきたときの映像だ。」ボットからタローの声が流れた。
「この仕掛けもキカイなのかしら?」ビボウが尋ねる。
「私はタローです。始めまして、奥様。私の本体は、あの船の中にあります。」
「タローは機械ですが、俺の長年の相棒で、兄貴分なのです。」俺が補足した。
「ふうむ、科学技術と言うものは、便利なものだな。」ウォーゼルが感心している。
しばらく画面に見入っていた竜の夫婦は、映像が終わると、鎌首を降ろした。ちょうど、魔素の汲み上げも終わったらしい。
「なるほど、高く上がれば地平線が丸いことは知っていたが。」
「もっと上に行くと、この大地は青い球なのですね。」
「面白いものを見せてもらった。」
「これが科学技術なのですね。」(続く)




