その4 里帰り計画
宰相のゾフィーが、後に続く探査ボットを案内している。しばらく廊下を進むと、その突き当りには魔王の執務室があった。
宰相は扉をノックして開けると恭しく頭を垂れ、ボットを部屋に招き入れた。
「まあ、懐かしい事。もうあれから二年が過ぎたのですね。」ボットから送られてくる映像を見ながら、クレアはそうつぶやいた。カレンも膝の上の双子をあやしながら、コクリと頷く。
玉座について王妃と何やら話していたらしい魔王は、部屋に入ってきたボットを見て警戒したが、表面に映る愛娘の姿を見定めると、相好を崩した。
「おお、姫なのか。元気にしておったのか。」横に座っていた王妃も、ボットを覗き込んで、涙ぐんでいる様子だ。
「父上、母上、ご無沙汰いたしました。私は無事に賢者様と結ばれ、息子を成しましてございます。」クレアはそう言うと、こちらのカメラの前に、赤子を持ち上げて見せた。
「おお、そなたと賢者殿の子か。でかしたぞ、姫よ。」
「まあ可愛いこと。私にもよく見せてちょうだい。」王妃もすっかり孫に夢中になった。
そろそろ俺の出番かな。
俺はカメラを自分に向けると、「初めまして、父上様、母上様。私はジローと申します。」と挨拶した。とたんに魔王の視線が厳しくなったが、まあ無理もないか。
「そなたが、我が姫を娶りし人族の賢者か。まこと見事なゴーレム使役魔法ではあるが。」
「父上、これは魔法ではありません。科学技術と言うのです。」
「?」
「父上、母上、本日は私共の代理によるご挨拶にてお許しください。近いうちに、私達がそちらにお伺いしてのご挨拶をお許しいただきたく存じます。」
「そのような赤子を連れて、この険しい山道を登ってくると申すのか。」
「空を飛んで参ります故、赤子の負担にはなりませぬ。」
「おお、大人数での飛翔魔法とな。流石は賢者殿じゃ。」
「ええまあ、そのようなものです。」と俺は答えたが、クレアがまた繰り返した。
「いいえ父上、科学技術でございます。」
「?」
「明日の今頃など、ご都合は如何でしょうか。」
「可愛い娘と、初孫の顔を見られるなら、全ての都合に優先させよう。」魔王様が即答だ。
「では明日の今頃、お目にかかりとう存じます。」
「うむ、待っておる。だがな、良いのか。豪胆な婿殿よ。」おや、てっきり歓迎されるものと思っていたら、何だか引っ掛かる言い方ですね、お父上。
俺の横で、クレアとカレンがハッとした様子で俺を見つめてきた。
「父上、やはり危のうございましょうか?」
「当然じゃ、姫よ。我らはお前を嫁がせたのだから、王族の中に反対する者はおらん。いや、儂が反対などさせぬ。しかしな、この城にいる配下のものや城下の貴族の中には、そなたを人族に嫁がせたことに憤り、婿殿に反感を持つものも多数おるのじゃ。」
ありゃ、やっぱりそうなのか。
こんなに綺麗な姫様を、どこかの馬の骨が、しかも人族ごときがかっさらっていったとすれば、根に持つ輩も確かに多いだろうな。
「父上、もし婿殿に言いがかりをつけるものがいれば、この私がその者を叩きのめしてごらんにいれます。」うわっ、クレアさん。その激高するのを治しなさいって、俺言ったよね。
慌てて俺は、「いいえ、父上。もしそのような方がおられれば、私が直接お相手してもよろしいですよ。」と手を上げた。
「ほう、挑戦されれば受けると申すか?」
「はい、父上のお許しをいただけるのであれば、」
「わはは、これは愉快。姫の見る目は、曇っておらぬということか、のう奥や。」
「はい、是非とも拝見しとうございます。」
俺は平和主義だけど、こういうノリが好きなんだよなぁ、魔族って。だから人族から迫害されるンだぞ。判っているのかしら。
「では、改めて待っておるぞ、婿殿。姫と孫には、一時も早く会いたいと思うておる。」
ここで、俺はカレンに合図をした。
今度はカレンが、カメラを自分に向けて、「陛下、皇后さま、ご無沙汰しておりました。」
「まあ、カレンなのですね。膝の上の子らは、貴女の子なのですか?」
「はい、男と女の双子を授かりましてございます。」
「まあまあ、とても可愛いこと。」そう、獣人族の赤子は特に可愛いと、俺も思うよ。
「こちらに来たら、きっと抱かせてくださいね。」王妃様も熱烈歓迎のご様子だ。
最後に、クレアがこの場を引き取って、「ボット、いいえそのゴーレムは、そのままそこに置かせていただいて、明日私たちが連れて帰ります。」
「お会いできるのを楽しみにしております。それでは!」俺とクレアとカレンの三人で挨拶をして、通信を切った。
「よし、上出来。クレアとカレン、お疲れ様。」
「旦那様、久し振りに両親の顔を見て、涙が出そうでした。」と言うクレアに、「私も、」とカレンが応じた。
「サナエはどうする? 一緒に行くか?」
「ええ、私もクレアのお父様、お母様にはお会いしてみたいけれど。治療院の事もあるので、今回は留守番をしています。」
「皆さんの様子は、こちらからボットで見ていますね。でも大丈夫なの先生? 何だか先生を良く思わない魔族もいるみたいじゃない。」
「まあ、そうなったらなったで何とかするよ、臨機応変ってやつだ。」
「カレンの故郷にも行けるのかな?」
「お見苦しいところですが、旦那様がご所望とあれば。」
「ご両親はご健在なのだろう?」
「母は早くに亡くなっております。父とは、しばらく会っておりませんが、訪ねれば歓迎してくれるでしょう。」何だか訳ありみたいだな。まあ、それでも可愛い嫁の親には挨拶をしておきたい。
「魔王様の城を訪ねた後は、カレンの故郷にも顔を出すぞ。」
「分かりました。」




