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その2 仕事と学校

目覚めると、頭がズキズキと痛んだ。

「昨夜の飲み物は強烈でした。エチルアルコールを20%含んでいます。」ゾラックが頭の中で言った。


「ああ、おそらく夕食に食べたメシという穀物を発酵させたものだな。澱粉を糖化させてからアルコール発酵させたのだろう。あの漬物と同じく、乳酸発酵させた風味も感じた。」

「ご存知の通り、エチルアルコールは神経毒ですし、分解物のアセトアルデヒドもまた毒性があります。肝臓の酵素活性を高めて分解を促進していますが、今後は摂取しない事をお勧めします。」

「まあ、量の問題だな。酔って楽しくなり、会話が弾むのも一興だ。」

「会話が弾みましたか? 昨夜のジーは、あの飲み物を三杯飲んだら寝てしまいました。」

「ああ、確かに、もっとタローと話がしたかったな。」


「おお、起きたな。顔を洗って、飯に行くぞ。」タローが声をかけてきた。二人そろって、農具を担ぎ、また食堂まで歩いていく。

「お前の名前だが、」と道すがらにタロー。

「ジーと言うのは爺様みたいに聞こえる。俺はタローで、お前は俺と顔が似ているそうだ。これからはジローと名乗れ、どうだ?」


「ジローか、いいな。意味はあるのか?」

「タローは最初に生まれた男の子、と言う意味だ。二番目はジロー、そして三番目はサブローになる。もっとも俺の弟は、親父が別の名前を付けた。だから、お前がジローになれ。」俺を弟分にしてくれるわけか。嬉しいことだ。

「分かった、宜しく頼む、兄貴!」タローはワハハと大声で笑った。


食堂で朝飯を食い、昼に食べるレーション:弁当と言う、を受け取ると、昨日と同じ畑で作業をした。この畑は集落からタローに任されているのだそうな。

午後からは植物の種をまいた。一晩水に漬けておいたので、発芽が揃うのだという。外皮に含まれた発芽抑制物質を除去する知恵なのだろう。うまく植物の特性をつかんでいるものだ。


 ◇ ◇ ◇


毎日毎日、農作業をしながら、タローとはよく喋った。そして徐々に、俺はこの世界の理解を深めていった。


そんなある日、学校に通えばどうだと、俺はタローに勧められた。俺はこの異世界の読み書きができない。大人になっても、読み書きができないものが、多少いるらしい。しかし、この集落では、最近ではほとんどの子供が、学校で読み書き算盤を習うようになったそうだ。


確かに教育は大切だ。集落の力になるだろうし、俺も早くこの土地に溶け込みたい。俺は学校に行きたいと、タローに言ってみた。

「よし、明日にでも畑を早仕舞いにして、師範のところに連れて行ってやろう。」

俺は嬉しくて、午後からは畑仕事を大いに頑張った。


翌日、いつもの通り畑でタローと一緒に働き、弁当を食べ、午後は少し早仕舞いにしてタローの案内で集落に戻ってきた。

「学校は昼までのはずだ。まだ師範はおられるだろうか。」タローはそう言いながら、村に戻るといつもとは違った道に俺を連れて行く。これが、学校に続く道らしい。

やがて、小さな建物が見えてきた。この時間は人の気配があまり感じられない。生徒は、既に帰った後なのだろう。


中庭を箒で掃き清めている老人が、俺達を見て声をかけてきた。

「おお、タローか。しばらくじゃな。そして、そのよく似た御仁はご親族かな。」

「ドイ師範だ、ご挨拶をしろ。」タローに言われて、俺はその男に頭を下げた。

「弟分のジローと言います。」


「ジローは、山一つ越えたところに暮らしていたので、読み書きができません。こいつに教えてやってくれませんか。」タローはいつも直球勝負だな。無駄な事は言わない。

ドイ師範は、俺をじっと見て、「おうおう、構わぬよ。明日からでも来ればよい。」快諾してくれた。白髪頭に顎髭を蓄えて、小柄だが引き締まった体格の爺様だ。歳は五十前後といったところだろうか。


「なるほど、よく似ておるわ。瓜二つとはこのことじゃ。」

「学びは子供からの方が良いのじゃが、タローは優秀じゃったから、お前さんも大丈夫じゃろ。」老人は、そう言うとカカカと笑った。

「朝の九時には、始まっておるぞ。まずは、皆で朝の体操からじゃ。」


俺たちは、師範に礼を言って野菜の集積場に戻ってきた。

今日はもう農作業をしないので、俺たち二人はここで野菜の選別などを手伝う事にした。

村の周囲の畑で栽培・収穫された葉物野菜、根もの野菜が、束ねられ荷車に積まれていく。


大きな馬車に運ばれる野菜もあった。あれは、一日かけて海辺の村まで運ばれ、塩や魚と交換されて戻るのだと、タローが教えてくれた。周囲の集落と交易をしているのだ。

「野菜と魚の交換にも、読み書きと算術は必要だ。」

「この村の者は、ドイ師範のおかげで字が書けて文も読める。算術も出来て畑の仕事にも交易にも生かせるわけだ。」

「明日からは、昼まで師範の教えを受け、午後からは俺の畑を手伝ってくれ。」

「いつか、暇ができたら海辺の村も訪ねてみればいい。」

兄貴、本当に俺の事を案じてくれるいい奴だな。俺は心からタローに礼を言った。(続く)

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