表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/93

その4 嫁たちの共闘(きょうとう)

サナエが酔いつぶれた翌朝。

昨夜寝かしつけたサナエの部屋で、クレアはベッドで眠るサナエの枕元に椅子を置いて座っていた。カレンはその脇に立っている。


窓から朝の光が射し込んで、サナエはもぞもぞと体を動かした。目覚めが近いと感じたクレアは、優しく声をかける。「奥方様おくがたさま、奥方様」

うーんと唸ってサナエは目を半開きにした。とたんにクレアとカレンの姿が目に入る。たちまちサナエは目を大きく見開いた。

「えっ、どうして! どうして貴女達がここにいるのよ!」


ガバと上体を起こすと、頭がズキズキと痛む。ウエキ爺さんの酒場からこの部屋に帰ってきた記憶がない。しかし、サナエは夜着を着ていて、昨夜の衣服はきちんと畳まれて枕元に置かれていた。


「もしかして、ご迷惑をかけました私?」サナエは、恐る恐るクレアの目を覗き込んだ。横からカレンが、

「私が奥方様を背負って、ここまでお連れしました。」と言った。


「貴方達が、服を脱がせて、ベッドに寝かせてくれたの?」

「はい、そうです。」

「ふーん、覚えているのは酒場で、、、」サナエは、昨夜の記憶がおぼろげに浮かんできたようだ。


「もしかして私、ジロー先生に文句を言いました?」

「はい、私を嫁にしろ!と通告されました。ご立派でしたよ。」鼻息も荒く、カレンが拳を握りしめて、サナエにグータッチしようとする。


「あちゃー、やっちゃったか、私!」サナエが頭を抱えた。

「いいえ、これからです。奥方様! ここから攻めに転ずるのです。ジロー殿を押し倒して本懐を遂げましょう!」カレンは鼻息が荒い。戦士の血が騒いでいるのか、やる気満々だ。


面白そうにそれを見ていたクレアが、「奥方様、朝の支度までまだ時間があります。お風呂で悪い汗を流しませんか?」と提案してきた。

「そうね、お湯に浸かってお酒を抜かなくっちゃ!」


「私達もお付き合いいたしましょう。ですが、その前に。」クレアはサナエの頭に手の平を優しく当てて、回復魔法を使った。光属性は使えないのだが、闇の波動でも効き目はあるのだ。サナエの頭のズキズキが、随分と楽になった。


三人そろっての朝風呂、登ったばかりの太陽が湯面に反射している。露天風呂の空気はやや肌寒かったが、湯の中に入れば快適だ。


「うわぁ、カレンさんの体、すっごく綺麗!」サナエが思わず声を上げる。

「日々の訓練の賜物なのですよ。無駄なお肉が無いのです。」とクレア。

「そしてね、こうして抱きつくととっても気持ちがいいのです。」クレアはそう言うと、湯の中でカレンを抱きしめた。


ゴクリと喉を鳴らしたサナエ「ねえカレンさん、私もいい?」と聞く。

「かまいませんよ、奥方様。」カレンは微笑んで手を差し伸べた。

「わーい」とサナエはカレンに突進する。カレンは両腕に二人を抱える形になった。


「毛皮がスベスベ、チクチクいい気持ち。何だかイケナイ気分になりそう。」

「夜にこうして抱かれて眠ると、とても暖かくて幸せなのですよ。」

「えー、それ絶対やりたい!」サナエは、なおもカレンにしがみついた。

「今度、試してみますか? 奥方様。」カレンはサナエをぎゅっと抱き返した。


「もうサナエって呼んで! 裸の付き合いなんだから。」頭を優しく撫ぜられながら、サナエが言う。

「はい、サナエ様。」

「様は、いらないわ。」

「はい、サナエ。」ジローの嫁候補たちの距離は、あっという間に縮まったようだ。


風呂から上がって、サナエはクレアの風魔法で髪を乾かしてもらっていた。

「とても艶のある黒髪、お肌もしっとりして指が吸い付くようです。サナエ。」

「ふふ~ん、特製の薬草乳液を使ってるのよ。今度二人にも分けてあげる。」


「まあ、それは嬉しいこと。」

「姫様、肌荒れにお悩みでしたね。」

「そうなの、私たちのところでは肌に塗る乳液なんてありませんものね。」


「それと、カレン。これからは私の事をクレアとお呼びなさい。」

「奥方様をこれからは名前でお呼びするのですから、私もクレアと。」

「はい、クレア様。」

「様は、いらないわ。」

「はい、クレア。何だか昔から姫様付きの私ですので、戸惑います。」

「気にしなくてもいいのよ、カレン。」


 ◇ ◇ ◇


朝食の支度にサナエが取り掛かり、慣れない手つきでクレアとカレンが手伝った。

「助かるわあ、二人とも。」

「これからは、私たちに料理を教えてくださいませね。」クレアも楽しそうだ。


朝食メニューは、ヨーグルトの果実添え、そして野菜とソーセージと卵焼きを載せた一皿、これに紅茶とパンがつく。「朝は忙しいから、簡単なの。」とサナエ。

「これは簡単とは言いません。色とりどりで、とても素敵なお食事です。」クレアは驚いて否定する。


「女性の一日当たりの蛋白質摂取量は50gって言われているの。カレンの場合はもっと多くてもいいのかなと思いながら作ったわ。ここで言えば、ソーセージと卵とヨーグルトが蛋白源ね。昼と夜のお食事で、カレンが必要な蛋白質を補うように献立を考えるから。」


カレンはすべてを理解できなかったけれど、自分の体を案じてくれているらしい事は分かった。「有難う、サナエ。」とりあえず礼を言った。

「まあ、サナエは凄いです。食べ物の栄養分を考えて、お料理されるのですね。」クレアは感嘆の声を上げた。魔族ではそんな話は聞いたことがない。皆、食べたいものを食べたいだけ食べるのだ。

「まあね、栄養学は薬学の基礎ですからね。今度、薬師Lv.25のサナエ先生が教えてあげる。」サナエは得意げだ。もっともジローから学んだ知識なのだが。


食堂に料理を載せたトレーを運んでいく。食堂では、ジローとヨシユキがちょうど顔を出したところだ。

「先生、ヨッシー、おはようございます。」サナエが二人の前にトレーを並べる。

「クレア、カレン、みんな揃ったから、こちらで一緒にご飯にしましょう。」サナエが奥で盛り付けをしている二人に呼びかけた。


「あれっ、サナエちゃん。ずいぶん二人と仲良しになったんだな。」

「そうですよ、もう裸の付き合いなんだから、ねっ!」

「さては、朝風呂で昨日の酒を抜いてきたな。」


「ヨッシー、うるさい。さあ、いただきます。」そう言って匙をとったサナエは、「そうだジロー先生! 私、告白しましたからね! ご返事は今日一日、受け付けます。」

向かいの席に座ったカレンが、鼻息荒く、握り拳を軽く掲げてウンとサナエに目配せした。


あれっ、こいつらもう共闘しやがった。こうなれば俺も覚悟を決めるしかないか。

実は食堂に来るまで、タローに頼んだシミュレーションを元に、今後について協議をしてきたのだ。


「朝食を済ませたら、俺の部屋に来てくれ。今日の午前は休診にしよう。」

「サナエも、お客人二人も、そしてヨシユキもだ。大事な話がある。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ