その4 第三惑星
⇒第三惑星の周回軌道 18歳
とうとうこの位置まで、太陽の重力井戸を降りてきた。この恒星系を移動するうちに、俺も一つ歳をとった計算だ。
第三惑星は、太陽からの波長の短い光が散乱されて青色を呈する大気と海、その大気には昇華した水蒸気の白い塊が浮かび、陸地は黄色い砂と植物の緑が映える美しい星だった。
豊饒な生物叢を予感させる眺めで、今の俺は心底から生き物係として喜んでいる。
この惑星は楕円軌道で公転しているが、軌道離心率は極めて小さい。但し公転軸が傾いているので、地表では気候に適度な季節変動が生じているだろう。
地表面には、過去の小惑星の衝突によるクレーターなのか、或いは火山噴火のカルデラ爆発の跡だろうか、大小の円形地形が数多く見える。特に水をたたえた構造は、上空からくっきりと判り易い。
隕石にせよ、火山の噴火にせよ、その都度に生態系に甚大な被害を与えてきたはずだ。そして、山脈の隆起や活火山の配置を見れば、プレートの動きの活発さがよくわかる。
まだ若い星だ。陸地に拠点を置く場合には、まずこの地殻変動に留意する必要があるな。
一番広い海の真ん中に、探査ボットを着水させた。
海水をサンプリングして驚かされた。ウイルス、アーケア、バクテリアを始めとする微生物群が極めて多彩でしかも豊富、恐ろしいほどのバイオマスだ。こんな賑やかな海は、初めての経験だ。
海中に探査ボットを潜らせてみれば、どこまでも深さを増す海溝が前後に伸びている。対抗するプレートが潜り込んでいるのだろう。そして、こんな深海にもかかわらず、大小の魚類が群れを成し、巨大な軟体動物を見たかと思えば、おそらくは魚類には属さない極めて大型の水生動物の姿も横切った。あれは肺呼吸する哺乳類ではなかろうか。
おお、プレートが湧き上がる周辺の海底には、無数の熱水噴出孔からモクモクと白や黒の煙が立ち上っている。そして、これらを取り巻く多彩な生き物の群落。俺たちの星の遠い過去を見ているようだ。ここから生命が誕生した事は間違いない。この惑星はとても若い、そして不安定だが、なんと活気あふれる豊かな生態系を築いているのだろう。
こうなると俺は、地上の生物叢が気になって仕方がない。海がここまで爛熟した生態系であれば、地上の生き物たちも俺の母星のバラエティをはるかに超えて、分厚い食物連鎖のヒエラルキーを作り上げているのだろう。
だから気をつけよう。未知の微生物による感染症から、動植物に寄生・共生するものたち、そしておそらく存在するであろう人類など高等哺乳類をも蹂躙する捕食者。この星は豊かで、賑やかで、素晴らしく魅力的だが、非常に危険だ。
◇ ◇ ◇
そろそろ地に足をつけて、拠点を探す時期だ。
あまりにも豊かなこの星の生態系を見回るうちに、あっという間に多くの時間を費やしてしまった。
待望の人類文明も発見できた。全球における人類の総数は、数億人と推定した。
この星は、統一した政治経済体制をまだ確立できていない。地形によって分断された部族が数百は存在しており、平野を中心に分散して拠点を構えている。その定住拠点の大規模なものは都市と言ってよいだろう。
各部族とも農耕と牧畜により日々の生活を維持している。まだ電気を発明していないが、ある部族には蒸気機関の黎明を見る事ができた。この星の人類は知的で、テクノロジーの進歩は時代と共に今後進展を見せるものと思われた。
言語も多彩だ。ほとんどの部族が独自の言語体系を持っており、全球での統一言語はもちろん存在しない。多彩と言えば、信じられない事だが、部族の外見もそれぞれ実に様々であることに驚かされた。
基本的な体のつくりは俺達とほぼ同じだ。真核生物が好気性細菌を取り込んで細胞内小器官であるミトコンドリアを獲得した時点で、つまり酸素呼吸型の細胞が発生したときから、その後の生物進化は一直線である事が、恒星系の異なる複数の惑星で既に判明している。
人類も同じことだ。但しこの星の人類の個体差と言ったら、
まず皮膚の色が、褐色色素の沈着度合いにより黒から白まで、そしてその中間色と実に様々だ。そして頭髪は更にバリエーションがあり、黒、白、その中間色に加えて、金、銀、赤まである。
体格や体つきにも部族ごとに違いが見て取れるし、観察するうちに部族ごとの行動様式にも差異があることが判ってきた。ある部族は極めて好戦的で常に近隣の部族と争っているかと思えば、農耕と牧畜に勤しみ比較的穏やかな緩い集団生活をおくる者達もいる。
また、動物の特徴を残した種族がいる。獣人というべきだろうか。
そして少数だが、外観は人類と同様ながら頭に角のある種族もいて、これらは角のない種族とは生活圏を分けているようだ。
俺が地上で暮らす際には、地殻変動による自然災害を考慮したうえで、俺が溶け込むべき部族の特性も見極める必要があるようだ。(続く)




