第三十八章 宿主
朝、あたし達三人は目が覚める。
今日は残念ながら雨の様だ…。
土方さんは雨音を訊きながら溜め息を漏らしていた。
沖田さんは発つかどうか悩んでいるみたい。けど、江戸へ向かっている途中何度か雨が降りだしたりしていたし、出発してもいいかなと思う。
『やっぱり出発は難しいですか?』
『ああ。風もあるみたいだしな…今日は諦めた方が良さそうだ…』
『発ちましょうよ?智香ちゃんが心配ですし…』
『お前、病み上がりみてぇなもんだろう?馬鹿いってんじゃねぇよ?それと、今晩も智香を此処で寝てもらえばいいだろう?ただし、変な気起こすなよ?』
『変な気って…僕は大丈夫ですよ?紳士的ですから』
『お前が紳士だ?どこが?餓鬼みてぇにしか見えないが?』
ああ…始まった。
土方さんVS沖田さん…。
こんなところで変に体力使わないで欲しいなー。あたしはソレを見ることしか出来ないので放っておく。
『平助よりはまともですけど?』
『ランクが低いんだよ?どうせなら山南さんとか近藤さんのランクを謂え』
『土方さんには謂われたくないなぁ?それにその二人は僕から見れば上司ですよ?』
『なら俺もその“上司”とやらに入るだろう?平助だ永倉だ原田だだとか比べて何が良いんだ?確かに平助よりはまともだが、俺からすれば同類なんだよ』
『そこまで謂わなくてもいいじゃないですか?僕は僕なり頑張ってやってますよ?』
あー煩くなってきた…。
『しかし、今日は様子見て駄目ならもう一泊していく。良いな?』
『…ちぇ、判りましたよ』
沖田さんの負け!
『あのぉ…』
『どうした?』
『着替えても宜しいですか?』
『あ、そっか。それじゃ僕が見張っててあげるから着替えておいで』
『はい。有り難う御座います』
『狭い廊下だからな…気を付けろよ総司』
『勿論ですよ』
その日一日雨風は強くなる一方で
出発を断念せざる得なくなった。
夕方遅くになると雨あしは弱くなったけれど、風は強いままだった。
昨夜同様土方さんはまたあのオバチャン達に捕まってしまい、沖田さんが助ける事になった。
『土方さん、お疲れ様です』
『僕が居なかったら骨までしゃぶられてましたよ?』
『総司、そんな恐ろしい事口に出すな…洒落にならんだろう…』
『否定はしないんですね?』
『…女っては恐いんだよ…』
トラウマですか?
オバチャン達に?
『さて、明日について少し話し合うか…』
『会議ですか?』
『会議?』
『そうだ。智香が使う部屋へで良いか?』
『はい。片付けましたし』
『それじゃ智香ちゃんの部屋に移りますか』
明日の事かぁ…昨日の土方さんはげっそしてたから出来なかったのかな!
あれだけもみくしゃにされれば
失せてしまうのも仕方ないか…。
部屋を移ると土方さんは紙を広げた。
『明日は道がぬかるんでるだろうから
出来るだけ乾いた道で行きたい。なんで…少し遠回りになるが此処を通りたい。戻っている最中スッ転んで怪我なんぞされたら面倒だからな?』
『そうですね。智香ちゃん何も無いところでよく躓きますし。賛成です』
『あたしそんなに躓きません!』
『今日、思いっきり俺の前で躓いてたろう?あれはなんだったんだ?』
『むきーっ!』
『はい。決定。ま、絡まれるのは目に見えてますしそれはそれで』
『そうだな』
『一番嫌なのは飛び道具ですね…』
『拳銃…か…』
『ええ。撃ち抜かれでもしたら僕等終わりですから』
『そうだな…』
へらへらした空気から一転
真剣な表情になる二人…。
沖田さんが謂うとおり刀だけで無くなってきている。脱がれ玉に当たってしまう事だってある…。
京へ、皆が待つ屯所へ帰るまで
安心は出来ない…。
『治ったのに死にたくありませんしね』
『気を付けます…』
『その粋だ。それと…総司』
『はい?』
『智香の部屋だが、見張りでなく俺が隣の部屋を使う』
『…成る程それもいい案だと思いますよ』
『決まりだな』
その夜は土方さんがあたしの部屋で
寝ることになる。
夜遅くになるとまた足音が聞こえてきた。
『しー』
『……』
あたしは沖田さんに頷くだけだ。
手が障子にかかったらしく
開ける音が聞こえる。
すると……。
カチャ……
『やはり此処の宿主か』
『ッ?!』
『あいつが女だと見抜いたあんたは
襲いに来たんだろう?残念だったな?』
『お、お客さん…あんたは…』
『ああ…謂っていなかったな。俺は京の治安を護る新選組福隊長、土方歳三。そして…後に居る奴は…』
『新選組一番隊隊長沖田総司。旦那、運が悪かったね?此処を見つけるまでの噂訊いていたけれどまさか…ね?土方さん?』
『なんだ、お前も思い出してたのか?』
『はい。土方さんが強姦犯って言葉を出したとき、引っ掛かっていたんですよ』
『ふ…さぁ、どう成敗してくれようか?』
『宿を畳む事になるのは完全にきまってるしね?』
宿主は前と後ろ、で逃げ道はない。
二人に挟まれている事にやっと気づく。
『畜生…何であんた達を…畜生…』
『さぁ、お縄だ』
宿主は呆気なく捕まった。
日が上り朝を向かえると同時に連れていくらしい。
沖田さんは逃げないよう、彼の手足を縄で縛る。
そして、朝。
土方さんが近所の人と二人で奉行所へ
連れていった。
この宿主の主人の名前は、仲川佐助。
彼は年のわりには未だ独身だったとか。
主人を無くしたこの宿はどうなるかは判らない。
残された宿泊客はと謂うと
泊まったことには変わりはないので
料金をザルへ置いて足早に宿を後にした。
全員男性ばかりだった。
土方さんを掴まえていたオバチャン達は
こんなところ辞めてると謂いながら前掛けを投げ捨てて出ていった。
『雇われてた風に見えなかったけど…仲居さんてのは本当だったんだ…』
『みたいですね』
昼近くになると土方さんが奉行所の人達と戻ってきた。
『では、俺達は此で』
『有り難う御座いました。やっと捕まえる事が出来ました。後の事は私共にお任せ下さい』
あたし達三人は彼等に頭を下げ、この町を出ていく。
何も無くて良かった。
本当に良かった…。
『昨日一日体力温存しましたし、今日はたーっくさん歩きましょうね!』
『そうだな』
『智香ちゃんはしゃぎすぎだよ』
『転ぶなよ?』
『あっはははッ!さっそく躓いてる!ククク…あははは…!』
不覚にも何も無いところで躓いてしまった!しかも沖田さんだけでなく土方さんまで笑ってる!
あたしはまたもいじけながら
足を前へ前へ!歩き出すだけだ…。
トホホ…。
今回もお読みいただき
有り難う御座います。




