第二十五章 歯車
九月に入り少しずつ暑さが和らいできた。蝉達はまだ元気に鳴いているが蝉の種類が違う。
空の雲は相変わらずだ。
『あ、居た居た。山南さん』
縁側で本を開いていると
土方が山南の所へやってきた。
気が付くと本を閉じ膝の上へ丁寧に置いた。
『何か私にご用ですか?』
『ああ。実は近藤さんが山南さんへ少し休むように謂われてな…最近忙しかっただろう?』
『私なら大丈夫ですよ?松本先生も謂っていたでしょう?』
『局長命令だとよ?』
『それなら従うしかなさそうですね』
『だろう?…なぁ、山南さん?』
『はい?』
『智香が謂っていた”池田屋事件”てのはまだ少し先なんだよな?』
『そうですね』
『あいつは何かと不思議ちゃんだよ。泣いたかと思えば笑ってやがる』
『私も彼女は不思議でなりません。……新選組はいつまで有るのでしょうね…』
『んなもん、俺達が居る限りに決まってるだろう?』
『生きて、新選組をもっと大きくしましょう…彼女が意を決して謂ってはならない歴史を教えてくれたのですから』
『そうだな…』
『ええ。…九月ですか…』
『今年は智香が居ないからな団子は無しだな』
『私、作れますよ?昨年智香さんと作ったので』
『…あんた…女みてぇな時あるよな…』
『そうですか?土方君こそ、子供みたい時あるじゃないですか?』
土方は苦笑いで山南を見るしかなかった。まさかにっこりとしながらその様な事を謂われては…。
『沖田君…改善へ向かっていて安心しましたよ…。彼はまだ若い…もっと強くなれます』
『あんたもな山南さん』
『はい…』
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『沖田さんっ!ゴキっ!』
『あーはいはい…』
『早くしてくださいよ!向こうです!台所ですっ!』
『はいはい』
『きゃーっ!飛ぶっ!飛ぶッ!』
ヒュンッ!!
沖田さんが長い枝でやっとやっつけてくれた。ここまでが長いのなんの。
そういえば山南さん…大丈夫だろうか?
坂本龍馬さんと屯所では会わなかったみたいだけど、まぁ山崎さんが付いていてくれたお陰で証人となるから
何事も無いだろう…。
あの日一日は山南さんの心配ばかりしていた…。沖田さんも斉藤さんも気が気じゃなかったろう…。
『ねぇ、スマホって体調を知らせるものなの?連絡だけじゃなくて?』
『確かに…。どうなんだ?』
『此処ではそうですけど本来は連絡を取り合ったり、調べものをしたり、ニュースを観たり』
『では何故それは“完治間近“と?』
何故こうなったかと謂うとあたしが
お風呂へ入っている間このスマホが鳴り出したのです。
そして斉藤さんがスマホの待機画面を見たとか。その時に表示されていたのだ。
まぁ、要するにバレたのだ。
説明が面倒だったけど仕方無いので話した。と、謂う所だ。
『けど、これのお陰で沖田さんの体調管理が出来ているのは確かです』
『へぇー』
沖田さんは相変わらず柱に身体を預け
両手を頭の後ろへ回している。
斉藤さんは正座をしながらテツの蚤取りをしている。
『一君の時は鳴かないんだ』
『あれは沖田さんがテツの肉まで一緒に挟むからですよ』
『ぅ…』
ふふ。沖田さん撃沈!
あたしの勝ちですね。
それにしてもテツ、気持ち良さそうだなぁ。何だか眠くなってきちゃう…。
『来年の春絶対に京へ戻りましょう…あたし、頑張りますから…』
『うんそうだね。僕も退屈だしさぁ…あ…けど面倒な奴等片付けないとだね…』
『本来の目的を果たし新選組がいる京へ帰るまでだ。もし、天子様の命を狙う輩や俺達を消す輩が現れた時は力ずくで倒す。それだけだ』
『ククク…そうだね』
『だから怖いですってその笑い方…』
それにしても今日は風が気持ちいい…。
こうしてるだけでやっぱり…。
『智香ちゃん?』
『ん?』
『……』
『寝てるぞ総司』
『またかぁ…』
『しかし今日は気持ちいい風が良くは入るな…』
『だから寝ちゃった訳だこの娘』
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京の町でまた坂本龍馬が現れたと
騒がれていた。
新選組では巡察中に坂本を見掛けたら
其処へ山崎を送り込み坂本龍馬を監視させる事となっていた。
隆夫は歴史が変わってきている事を感じる日々だ。門の前を掃除しながら周りを見回す。もしかしたらこの何処かで隠れて此方の様子を伺っているのではと思ってしまう。
『もうすぐ…沖田さん達が…けど…』
(まだ池田屋事件が終わっていない…もし、…彼が血を吐いたら?治ってたとしても…)
『何難しい顔してるんだよ?』
一瞬平助かと思った隆夫だが後ろを振り向くと永倉が服隊を羽織り帰って来ていた。また怪我をしている…。
『ちょっと考え事をしてて…怪我してますね…腕だけですか?』
『背中もだ。少しだけどな?全く最近の町はどうなってんだ?』
『荒れているんですか?』
『ああ。俺達を見つけりゃすぐ斬りかかってくる…。…歴史って奴が関係しているのか?』
『…恐らく。彼の事だってそうじゃないですか?先月のあれ』
『そうだなぁ…やっぱかぁ~』
『あ、樋口さんは?』
『顔を見せないがちゃんと居るぜ?無愛想な奴だが総司の班の奴等を教育してやがる。毎日稽古だぜ?』
『きちっとしてるんですね』
『そうゆうこった。あー汗で染みるぜ。今日は誰が手当てしてくれるんだ?』
『俺です』
『よっしゃ。頼むぜ』
『はい』
永倉の手当てにはいると山南が隆夫の部屋へやってきた。
きょとんとしている永倉に対し隆夫は山南の手当ての準備も始める。
『山南さんも怪我ですか?』
『はい。先程庭で寛いでいたら手首を捻ってしまいまして…』
『智香がどっさり置いていった湿布があるんで此を痛い部位に貼りますね。少し待っていて下さい。永倉さん小さい傷が沢山あるんで…』
『確かに…刀傷が沢山有りますね…』
『おうよ!それだけ尽くしてる証しなんだぜ?すげぇだろ?隆夫?』
『俺には無理ですね』
永倉の手当てを終わらせると山南の右手首を確認する。軽く捻っただけなので刀を使えない怪我ではない事を確認し、湿布を貼り包帯を巻いた。
『有り難う御座います。あ、それと私三日程休みを頂いたので何か有れば局長か土方君へお願いします』
『山南さん隊務ばかりだったからなぁ。まだ暑い日は続く訳だし…判りました!ちゃんと休んでて下さいよ?』
『永倉さん…なんか目茶苦茶ですよ…』
呆れたのか隆夫はちょっと苦笑いだ。
確かに最近の山南は何かと忙がしく世話しないでいた。食事もとれないときも毎日のようにあった…。
近藤と土方が心配しないわけにも無いだろう…。
一方江戸では智香の体に病が潜んでいる事を誰も知らないでいた…。




