第二十四章 島田と山崎
山南は原田の班の一人に島田と山崎を
此方へ来るよう、伝令を頼んだ。
此処からならそう遠くもない。
二人は直ぐに来てくれるはず。
母親の顔色はまだ青ざめている。
中の三人に脅されているのか?
中の者達に気付かれぬ様時折世間話をしたり、隊士等に散り散りになるよう伝え回りの様子を再度確認してもらう。
この時服隊を脱いだままの原田と山南は子供をあやしたりと二人の到着を待っていた。
『おや…雨が降りそうですね…』
『うわー本当だ…』
『ずぶ濡れ覚悟と致しましょう』
新選組屯所内
中では稽古をしている隊士等が居たり
広間で茶を飲む者が居た。
小難しい顔をしては明日の巡察、巡回について話をしている者。
そんな中どかどかと走る足音が屯所内に響いていた。足音の主は藤堂平助。
『こらこら平助、何を走り回ってる?トシが怒っているぞ?』
『あ!近藤さんっ!山南さんは?!』
『出掛けている。さっきトシが謂っていたんだが』
『出掛けた?何処に?』
『さぁ、いつもの散歩だよ。何慌てて居たんだ?』
『えと…山南さんに頼みがあって…』
平助は坂本龍馬の事など謂えぬ。
ひやひやしながらも近藤と広間の前の廊下で“頼みがあって“と嘘も方便なのか口に出た。
『山南君は留守だから代わりに俺が訊いてやるぞ』
『え…』
近藤は満面の笑みで平助を見下ろした。
自分の下で働く平助も可愛いのだろう…。彼、平助はかなり困り果ててしまう。
龍馬の”りょ”の字も謂えないでいた。
隆夫の台詞が頭を何度も何度も繰り返し再生されていた。
“切腹“
『じゃ…豚の餌…』
『豚の餌?!』
近藤は声がひっくり返ってしまう。
山南への頼み事が豚の餌…。そう考えるとそれは誰でも出来るのでは?と、思ってしまう。
伝令が島田と山崎に伝わると二人は直ぐに支度をし、屯所を出た。伝令を果たした隊士は手傷を負っていたので手当てをしてもらうよう促した。
少しすると二人は山南と原田を見つけた。此処からからは商売人の振り。時間も時間なだけ腹も空いてきた。
『先に俺が入る。山崎君は後に来てくれ』
『判りました』
島田が山崎へそう伝えると自然に蕎麦屋の中へ入る。見たからに怪しい男が三人同じ膳に居る。
話が聞こえるよう島田は直ぐ近くへ座る。
中はこじんまりとした殺風景な店だ。
お品書きが壁に掛けられている。あまり広くない。せいぜい二十人が入れる位だ。
暫くすると山崎も入ってきた。
『おう。待ってたよこっちだ』
島田は右手を挙げながら山崎を呼ぶ。
あくまでも自然体で居なければならないのでまずは、お品書きを見ながら決める。頼み終えると仕事の話をしながら
後ろの席に座る三人の会話を訊いていた。
『あの女の餓鬼戻ってきちまったなぁ』
『善人ぶった奴ってのは嫌だねぇ?そう謂いてぇんだろ?政徳?』
『そうそう。さっきから餓鬼は要らねぇとか何とか』
三人の会話から名が判るまで長くなかった。最初に喋りだした男は”政徳”次に“赤荻“三人目は”蔵之助”。
注文した蕎麦が出来るまで注意しながら三人の目的を探る。
一方、外に居る二人も向かいの飴屋へ行き子供へ飴を買う。中から外の様子が見えるなら此方も怪しまれないようするためだ。
しかし山南はまだ坂本龍馬の事を気にかけていた。あの性格だ。必ずまた来るであろう…その時は彼も覚悟しなければならない。
暫くすると島田と山崎が中から出て来た。小一時間といったところか。
二人は中の三人の会話からして母親と子供を何処かへ別々な所へ売り飛ばそうとしていた事を明らかにしてくれた。
未遂で終わった事が何よりもだ…ただ彼女からすれば恐怖そのものだったに違いない…。
念のため家の回りに暫くの間見張りを付けることになった。
隊士達を集めると屯所へと戻った。
山南の部屋。
『島田君、山崎君急だった事を詫びます。すみませんでした…。そして有り難う御座います』
頭を下げた山南に対し島田と山崎は
とんでもないと謂ながら頭を挙げるよう促す。頭を挙げた山南は何処か吹っ切れたような、爽やかな表情だった…。
『今年の夏も暑いです…ちゃんと甘酒を飲んで下さいね』
『『はい!』』
雨はこの後降りだした。
山南は中庭へ行き雨に打たれていた…。
軽く上を、空を見るように…。
そっと目を閉じ、ただ雨に打たれるだけ
何か考えているのか彼以外判らない。
(もし…私が死んだら彼女は泣くのでしょうか…?折角生きる術を教えてくれたのに…坂本龍馬と会ってしまった私を叱るでしょうか…?)
『山南総長…?何をしていらっしゃるんです?』
『……山崎君…いえ…』
山南は山崎へ視線を向けた。
彼、山崎は申し訳なさそうに言葉を並べる…。
『…今日、貴方の様子が可笑しかったので…申し訳無いのですが貴方を見張って居ました。何故あの者なんかと…!』
『彼の一方的に根負けしたんです。新選組だと賭事に弱い…。それなら私一個人として賭事にでたんですご安心下さい。何一つ漏らしてはいませんから』
『知っています。数日前から貴方を見張って居ましたので…申し訳有りません』
『謝ることは有りません。私に気付かれず今の今まで気付かなかったのです。誇りに思って下さい』
『有り難う御座います。…あの、俺が証人です…』
『此方こそ有り難う御座います…雨…強くなってきましたね…』
山南は自分の足元へ視線を落とした…。
山崎は数日前から山南の様子が可笑しかった事があり
単独で山南を見張っていた…。
彼に気付かれぬ様に見張っていた事に山南は誉めた…
しかし山崎は何処か寂しそうな目で山南を見る。
此から山南はどうなってしまうのか?
次回 未定です。




