第十五章 過ぎる不安
キイィィィィンッ!
夜の江戸は何故か浪士で溢れていた。
今までこんな事は無かったのに…何故急に
増えだしたのだろう…?
此も、沖田さんとひな子が謂っていた顔に火傷を負った人物が関わっているのか…?
あたしには判らないけれど、沖田さんと斉藤さんは常に何かの情報を知っている様子だ。
『樋口さんが京へ帰って四日ですね…』
『もう着いてるだろうね?あ…一君、お帰り。外の様子どうだった?』
あたしと沖田さんが喋っていると
斉藤さんが巡回から帰って来た。
両手は負傷している…不良浪士等に絡まれたのだろう…。
救急セットをバックから取り出し
斉藤さんの両手を見せて貰う。刀での傷なので一本になって切れている。
『見ての通り夜道を巡回中不良浪士に出くわし、軽傷だがやられてしまった。人数は数十人だったな…』
『此処じゃ隊士は居ないからね…やっぱり僕も行けば良かったんじゃない?』
『不良浪士が増えている中智香を一人させるのか?』
『…出来ないね』
『お前は朝の巡察をしていればいい。せっかく副長が文で朝の隊務を許可してくれたんだ。それを棒に振るのか?』
『はいはい。一君のお説教は相変わらず説得力あるよねぇ〜?夜の巡回、奉行所の連中とじゃ駄目なの?』
『そうか…しかし新選組に関わったら此方の奉行所も狙われるのでは?』
『詳しく教えなければいいでしょ?あいつらだって馬鹿じゃないし、一君が大怪我したら近藤さんも土方さんも何て謂うか…』
『判った。明日にでも奉行所へ行って話をして来よう』
『終わりました』
斉藤さんの手当てを終えると
あたし達は床についた。
寝る間、あたしは暗い中目を開け見えていない天井へ目をやる。
今頃新選組は巡回を終わらせ一息ついているのか…?もしかすると、近藤さんと土方さんだけ二人で例の火傷を負った
追っての事でも話して居るのか…
ここまでくるとやっぱり
歴史は徐々に変わっているのだろう。
京の町へ火を放ち天子様を連れ出すのは
まだ先の話なんだけど、今その話題が出ているらしいって事は…
先の出来事の話だけど
速まる可能性も無くはないのだろう…。
朝になったら、近藤さん達へ文を出そう。
先手が打てるなら…。
チュンチュン…
洗濯物を干しに外へ出ると
地面で休んでいた数羽の雀が飛び立つ。
申し分ない天気に、沖田さんは斉藤さんが奉行所へ行っているため、一人刀を持ち空を斬る。
昨日遅くまで考え事をしていたあたしは
まだ少し眠い…。欠伸をしていると
此方を振り向く沖田さんが視界に入る。
その顔はいつも通り、優しい表情。
『昨日、珍しく遅かったみたいだね?』
『ちょっと考え事をしていたので…ふぁ〜』
『気になってるんじゃない?』
一人稽古へ戻るけれど
あたしとの話を続けてくれる。
『え?』
『朝起きてすぐ文を書いていたじゃない?…あの火傷の奴の事だとか…天子様の事ととか…外れてるかな…?』
『いえ…可能性の話何ですけど、速まるかも知れないと思って…』
『速まる?』
手を止めると沖田さんはあたの後ろへ
腰を下ろした。
『可能性ですよ?焦って決行するかも知れないじゃないですか?強風なら此からも有りますし、前みたいな風がないとは限りません』
『そうだね。君が居れば新選組は安泰だね』
『そんな大それた人間じゃないですよ?』
『けど、江戸へ来てから歴史は変わりつつあるんでしょう?まだ先の出来事が速まる可能性があるかもって事は』
『まぁ…』
『智香ちゃんがこの時代へ来なかったらその通りに歴史は進んでた。僕は労咳で死に、近藤さんは殺されてしまう。土方さんは北の国で戦死、原田君や永倉君は新選組から離れる…えっと平助はぁ…』
三人分の洗濯物を干し終え
沖田さんの隣へ座る。
人差し指を顎へ、つけながら思い出そうとする沖田さん。あたしは見慣れた小さな庭を見る。雀が何の警戒のなく庭へ降りると小さな足で移動しながら何かを探しているみたい。
『あー駄目だ。平助だけ忘れちゃった』
『ふふ。暖かいですね…』
『うん』
『斉藤さん、昼餉までには戻りますよね?』
『そうだね。あれ?次の医者って…』
『まだ先ですよ』
『智香ちゃんは管理が良いからね。有り難う』
『い…いえ…あのぉ…』
『なぁに?』
『氷川さん…あれから大丈夫何ですよね?時々家へ来る位ですし…』
『みたいだよ。土方さんが奉行所で話つけてくれたわけだし、けど聞く話だと
氷川さんの家の周りに不審な奴が居たみたいだなぁ…』
『たまには此方から伺いません?』
『そうだね。一君が帰るまでに戻れば良い事だし』
そしてあたし達は氷川さんの家へ向かった。質屋を曲がると見張りの人が見えたので会釈をする。
沖田さんは”ご苦労様”とだけ彼らに声をかけた。
『おはよう御座います。氷川さんいらっしゃいますか?』
あたしが中の様子を見ながら声をかけてみた。返事は無い。暫く待ってみると氷川さんが”すまんすまん”と謂いながら裏からやってきた。
『川柳へ行っていたんだ。狭い所だけど…さぁ、中へどうぞ』
『『お邪魔します』』
氷川さんの自宅は裏に在るためか
やや狭く出来ている。
此処で二人で暮らしていた日を大切にしたいと前に謂っていた事を思い出す。
愛する妻との思い出が沢山詰まった家。
『ところで今日はどうしたんだね?』
『やだなぁ〜今まで順三郎さんが心配だったからですよ。あれからは襲われて居ないみたいたけど、…周りに不審者が出たんでしょう?』
最後の方は声を落として順三郎さんへ
内緒話をするかのような姿勢で謂った。
『ああ。この家を見ている様だったと近所の爺さんが知らせに来てくれたんだ』
氷川さんが出してくれたお茶は盆の上に残されたまま。あたし達は詳しい話を聞くのに夢中だった。
『人数は二人だとか…』
『二人かぁ…』
『もしかしたら沖田君が謂ったとおりかも知れないな…』
『沖田さん…』
『大丈夫だよ。近いし騒ぎが遭ったら直ぐ駆けつけるから。家の方も気をつけていないと…』
『そうだ…君も狙われて居るんだったね…お互いに気をつけていないとなぁ…』
氷川さんは腕を組みながらしみじみ思う。
あたしは念を押して彼等に謂う。
『不良浪士も増えているし、それに紛れて来る可能性だって有りますしね…二人とも…本当に気をつけて下さいね?
『勿論だよ』
『ああ。…ん?ありゃ!こりゃいかん!お茶を忘れていたよ』
『…ふふ…』
『智香ちゃんに笑われてしまったわ。はっはっはっ!』
『氷川さん面白い…』
その後は三人で大笑いをして
今までの事を互いに話たりと和気藹々だった。本当足を救われます。
こんな楽しい一時を与えてくれて感謝しないと罰が当たる。
氷川さんの剣の腕は見たことないけれど
腕の太さからして結構凄いのかな?
あたしはひな子みたいに出来ないけど
正直憧れる。強い女になりたいと思う自分が居る。
氷川さんのお宅へお邪魔して二回目の鐘がなった。もう二時間が経っていた。
余り長居しては迷惑だろう…。
『氷川さん!よ、良かったら家で昼餉如何ですか?!』
『え…っとぉ…』
氷川さんは流し目で沖田さんを見る。
勿論、彼もそうして下さいと謂ってくれた。
氷川さんは本当に良いのかちょっと
迷って居るみたいだった。
『『一緒に食べると一層美味しいですよ』』




