665 言葉にしない会話もある
柔らかなお袋の手に押され、廊下を歩く俺。 後ろからカステさんのついてくる気配もする。
昼下がりの光が差し込む廊下は明るく、勝手知ったる家であると同時に基本的な間取りは王都の実家とも共通なので、ドアの数も同じ。
つまり突き当たりには三つのドアがあり、ここでいきなり俺が「先生おしっこー!」とか「ま、待って! 先にお風呂を……」とでも言い出さない限り、選択肢はひとつである。
……そのセリフは一体なんだ。
「……」
複数の人がいる気配を感じながら、左のドアに向かって立つ。 俺に開けてほしいようなので、軽くノックをしてからノブを捻った。
既に誰がいるのか、見当がついているのだが……気分はちょっとした面接である。
無論、ここで「失礼します」というボケはかまさない。
「ただいまー」
開けた先にあるのはキッチン兼ダイニング。 シックかつシンプルなインテリアを基本にしつつ、小さなチェストの上にはかわいい小物も置いてあってちょっぴりファンシーな一角もある。
でもそれが決して浮いているわけではなく、アクセントになっているのが素晴らしい。
「おー」
そして、真っ先に振り返って声を返してくれたのは師匠だった。
広めのテーブルには恐らく、セラさんが仕込んでおいたのをお袋が仕上げて並べたらしい料理……軽くつまめそうな数々と、やっぱりお酒。
ま、ここでジュースなんか飲んでいたら逆にビックリだ。
そして――。
「おお、帰ったか」
テーブルの向かい側。 俺から見ればちょうど真正面に、親父とその人が座っていた。
「……」
「……」
やや距離を置いて無言で見つめ合う、俺とその人。
ええっと、なんというか……見た目は親父をちょっと老けさせて、少しだけ背丈を短くする代わりに横幅を大きくした感じか。 ムキムキほどまではいかないが、それなりにガッチリしている。
銀色の短い髪はなんとも自由であり、言い換えるならばテキトー。 ボサボサとも言う。
顔も同じで、色はちょっと黒めで眉は太く目つきは鋭い。 眉間のしわもなかなかのものである。 どこかのおにーさんを思い出すな。
ちなみに目の色は、俺や親父と同じ碧だ。
フェイスラインの下半分には、無精ヒゲがそれこそ無精に生えていて……気の弱そうな子供が見たら泣きそうな迫力なのだが、逆にこういった男に魅力を感じる女性も少なくなさそうだ。 眉もヒゲも当然シルバーというか灰色っぽく見えるので、余計に渋く見える。
ちなみに服装はというとヒゲ以上にフリーダムで、テーブルから上だけを見てもいかにも「朝から着ていたシャツの上に、とりあえずタンスを開いて一番最初に目に入ったのを被ってきた」っていうアバウトさが見て取れる。
もっと気を遣えばもっともっとカッコイイおじさまになるだろうに……と感じるあたりは、隣の親父と共通しているな。
「……」
「……」
ま、まったく喋らんなこの人……。 かといって目で何かを訴えかけてくる、っていう感じでもなく、なんだか「動いたら負け」って気分になってくる。 そこに「にんべん」はつかないのであしからず。
山の如しになっているその人の隣で、親父も困ったように俺達のことを交互に見ていた。
「……なーにやってるのよあなたは」
「うふふふふ~」
膠着状態に陥っていると、後ろのカステさんとお袋から救いの手が差し伸べられた。
そして、男性の正体を教えてくれた。
「あの人が、パパのお兄さん。 エドガー伯父さんよ~」
「あたしの旦那ね」
「おおーっ」
振り返ると、お袋とカステさんが笑顔を向けてくれる。 やっぱ、この人がそうかー。
で、再び伯父さんと向き合う。
「……」
「……」
い、いや、何か言って? 寡黙というか、完全に沈黙だな。 小さくうなずかれただけだった。
親父がまた一瞬俺に視線を向けてくれたが、小さく首を振って先に口を開く。
「は、初めましてー。 パ……ジェイドパパの子供の、ジャスパーです」
「……ああ」
おお、やっと喋ってくれたー!
ものすごく低いお声でいらっしゃる。 思わず、ゾクリとするような重低音だ。
ちょっと感動しながら、俺は頭上の相棒の紹介へと移る。
「それで、こっちが精霊のスフィニアちゃん」
「ニアだよー!」
「……んむ」
エドガーさんの目がわずかに見開かれ、小さな黙礼がひとつ。
ずっと頭に乗せるのを見ていたとはいえ、ここまで動じない人も珍しい。 まさに山の如し。
《ありゃー? おにーさんよりも喋らないねー》
《そうだね》
テレパシーで語り合う俺とニアちゃん。 トゥキお兄さんも寡黙ではあるけれど、意外とこっちから話を振ればいろいろ喋ってくれる。 知恵袋的なこととか。
そうしていると親父が、マイシスターについての補足をしてくれた。
「先程も言ったが……セレスティアの方は、まだ王都なんだ」
「ふむ」
「……」
相変わらずリアクションが薄い。 それから伯父さん――親父から見ればお兄さんに目を向けられ、二人で見つめ合うような形になった。
いい歳をした大人の男が間近で見つめ合っている絵面は、いくらイケメンの兄弟どうしでもちょっとアレだな……。
でもなんだか、親父も接し方に慣れていないような……会話のテンポを掴みかねているような、そんな印象を受ける。
「ほら、ジャスちゃんもお隣に」
「う、うん……」
後ろからお袋に頭を――ニアちゃんの乗っていない横の方をなでられ、空いている伯父さんの隣の席を勧められた。
俺も何を喋ったらいいのか左右の頭が絶賛空回り中なのだが、まーとりあえずなんとかなるだろう。
もちろん、その前に手洗いとうがいを済ませてからなんだけど……その前に。
「ところで、なんで師匠もパパもケガしてるの?」
親父は頬からあごにかけてと手首に、師匠は鼻とむき出しの腕にガーゼが貼ってある。 丁寧で愛情の感じられる手当てっぷりは、きっとお袋だろう。
久し振りなあまり、ケガをするまでハッスルしちゃったのか?
二人とも、「らしい」と言えばらしいけど。
「いや、コレはなあ……?」
「え、ええ……」
と思っていると、今度は師匠と親父がテーブル越しに向かい合って唸り出す。 何かあったんだろうか?
ところで、渋いイケメンが渋い顔して三人でテーブルを囲ってるのって、すっごく珍しい画だよな……。 初めて見たかもしれん。
すると、こっちを向いた二人の視線が俺の頭上を越えて――。
「……え?」
「うふふふふ~♪」
犯人はお袋かーい!
カステさんも「は?」と口を半開きにし、エドガー伯父さんも我が娘を紹介したとき以上に目を見開いていた。
お袋は白くきめの細かそうな頬に手を当て、やんわりと小首を傾けた。
「ちょっと、張り切りすぎちゃったわ~」
「いや……」
ちょっとって、あの師匠がケガするなんて、よほどのことだぞ……?
親父は庭でお袋と手合わせして、宙を舞ったり地を転がったりしているのは見たことあるけど。
「だって、絶好調なんだもの~♪」
「……」
嬉しそうに腰をくねらせるお袋。 長い金色の髪と白いスカート、それから白いめろんが揺れる。
どうやら、俺も共犯のようだ。 ……朝のアレが効いたらしい。
「ったく、油断したぜ。 危うく腕を持って行かれるところだった」
「うふふ~。 パパにそこまではしないわ~」
「パパ言うなッ!」
「……さーて、手を洗ってこよっと」
なにやら物騒な会話が聞こえてきたが、俺は気にしないことにした。
手洗いとうがいを済ませると、俺はお袋に言われた通りエドガーさんの隣に。 マイドーターはテーブルの上だ。
お袋は俺とカステさんにお茶を出してから師匠の隣へ腰を下ろし、しばらく絶句していたカステさんはダイニングを出て隣の部屋に行った。 向こうにマティさん・りっくんの鹿耳姉弟と、我らがリソ君もいるらしい。
俺も後で顔を見に行きたいが、今は伯父さん――ではなく、伯父さん越しに親父から話を聞いている。
「俺にとって、兄さんは兄というよりは父親みたいなもんでな」
「うん」
何度か聞いたことはある。 親父のお父さんは小さい頃――クラお姉さんが生まれる前に、大工の仕事中の事故で亡くなったらしい。
そして歳の離れていたエドガー伯父さんは、親父が物心がついた頃には既に働き始めていたとか。
なお、「父親みたい」と言われたところで一瞬エドガーさんが親父を見たけど特に何かを言うことはなく、親父もまた苦笑いを返していた。
「えっと、伯父さんって何歳……?」
「三五だ」
「おー……」
ってことは、エドガーさんって親父よりもセラさんの方に歳が近いんだ……。
口には出さないけど、無口な上に髪とかの色のせいで、ヘタをすると師匠と同年代に見える。 師匠は真っ黒だからな。
まあ、それだけ貫禄があるってことでもあるんだが。
親父も騎士だけあってそれなりに貫禄はあるんだけど、やっぱり二人に比べると若さが先に来るよな。
「前に話しただろう? お前とセーレが……リソも使っていたあのベッドを作ってくれたのが、この人だ」
「うん」
飾りっ気はないけど、しっかりとした作りで安全性と機能性、それに俺とセーレたんが二人でもゆったり寝られる広さと快適性を備えたベビーベッド。 大きさからして特注だろうなーと当時から思っていたけど、家具職人である伯父さんが結婚祝いに作ってくれたものだ。
今はもうリソ君も使わなくなったので、分解して屋根裏部屋に大事に保管してある。
そのことを知って、いつかお礼を言いたいなと思っていたのが……今日、ようやく叶う。
「伯父さん」
俺の目を見る、伯父さんの目差し。 鋭いように見えるけど……その奥に見える光は、とても優しい。
ベッドの上で過ごした、一年以上もの時間。 セーレたんと手を繋いで寝ていたこととか、親父やお袋達に抱き上げられたこととか、柵に捕まって立つ練習をしたこととか――。
最後の方は、触手でこっそり柵を越えて上り下りしてたっけ。
身体の弱かったリソ君も、あのベッドの上で元気になった。
会うのは今日が初めてだけど――。
あなたの作ってくれたベッドの上で、俺達三人はすくすくと大きくなりました。
万感の思いを、短い言葉に詰め込む。
「ありがとう」
夜空の星のように、今でも俺の中で輝き続けるたくさんの思い出。
だけどそれは、決して口にすることはできないから。
「……ああ」
しばらく俺の目を見つめた伯父さんが、ほんのわずかに口元を緩めた。 そしてゴツゴツした大きな手を俺の頭の上に置き、ゆっくりとなでてくれる。
その力強さと優しさを、俺は少しだけ下を向いて、噛みしめた。
「……」
「……」
兄弟というより親子みたいな雰囲気で、酒をちびちび飲みながら時折言葉を交わすだけの二人。
お袋からの目配せもあり、俺は我が娘を連れてそっとダイニングを出た。 ついでにジュースの入ったピッチャーと俺用のコップも受け取る。
師匠も特に何も言わず、おつまみをバリボリ食べながら俺達に片手を上げてくれた。
「パパさんとパパおにーさんって、テレパシーで喋ってるの?」
「ははは、かもしれないね」
ああいう、「温かい沈黙」というか……言葉だけじゃないコミュニケーションって、なんかいいよな。 とても大人な感じで、なんとなく憧れてしまう。
……ま、今の俺はまだまだ子供だし、こっちはこっちのコミュニケーションを取るとしますか。
触手でしっかりとお盆を固定し、ドアを叩く。
さーて、ココで「入ってます」なんて返事が来たら「分かってるよ!」ってツッコむところだが……。
『はーい!』
んなワケなかった。 マティお姉さんの、大きな声が普通に聞こえてきた。
入るねーと軽く声をかけ、ドアを開ける。
「やっと来やがったな」
「お帰りー」「おいにー!」
絨毯の敷いてある文字通りのくつろぎ部屋で、赤い髪に長い菱形の鹿耳――同じ特徴のりっくん・マティさん姉弟が迎えてくれた。 お姉さんはひざの上にマイブラザーを乗せて座っている。
そしてお母さんであるカステさんの対面へ、床に直接座って四人でテーブルを囲んでいる。
我が娘も「やっほー」とみんなにご挨拶。
……いつもながら、リソ君のビミョーにツッコミどころのある挨拶が可愛らしい。
「で、どうだった?」
足を崩してリラックスしているカステさんが、ちょっとニヤニヤしながら聞いてきた。
うん、正直「やられたー」って感じだ。
でも。
「うん、本当にビックリ……するくらい無口な人だね」
『あはははははは!』
軽いユーモアを込めて返すと、親子三人のよく似た爆笑が巻き起こった。 ウケてなにより。
ブラザーだけはきょとんとしているが、それもまたいとカワユスである。
「……さ、こっち座りなさい」
「ほーい」
飛んでいくニアちゃんにお盆を渡し……正確には頭に乗せて運んでもらい、その間に俺は靴を脱いで上がる。
「器用なんだね」
「にゅふーん!」
テーブルに着地すると、マティお姉さんがお盆を受け取ってくれていた。 グラスにジュースを注いでくれたので、カステさんの隣に腰を下ろしてお礼を言う。
するとさっそく、りっくんが話しかけてくる。
「にしても、あの妹が一緒じゃないってビックリだよなあ」
「まあね」
カップに口をつけ、指握手をして喜ぶお姉さんとニアちゃん……そして、そこに加わろうと手を伸ばすリソ君の姿を横目に応える。
おやつが置いてあったらしいお皿はとっくに空になっているけど、特に腹が減っているワケでもないので気にしない。
「セラさんとヴィンさんに、何か編み物を作ってあげてるらしいね? すごいなあ」
「うん」
ウチのお袋から聞いたのか、既に知っているらしいお姉さん。
目を合わせると「ああ、もちろん言ってないよ?」とすぐに言葉を繋いだ。
「はっは! 姉ちゃん、編み物はできないもんな――ぐふぅ!?」
「うるさい」
おおっと。 テーブルの水面下で、笑ってからかう弟くんに伝家の宝刀が炸裂したらしい。
緑のパンツでおなじみの、往年の名プロレスラーが得意としていたあの技である。
ちなみにリソ君は、少し前にひざの上から立ち上がってマイドーターと一緒に遊んでいる。 組み手ごっこのようだ。
「……どこにどう通していいか、サッパリなのよ」
「あー……分かる分かる」
俺の相づちに、お姉さんは膨らませていた頬を小さくして「でしょ!?」と笑顔になった。
ところで俺もお袋にちょっと教わったことがあるけど、あやとりで東京タワーもできない俺には難しくて頭がこんがらがりそうだった。 ルービックキューブの世界大会並みに理解の追いつかない世界だと思ったよアレは。
なお弟くんは、お姉さんの隣でテーブルに頭を乗っけて呻き声を上げている。
……誰も気にしていないところがスゴイ。
「ところでお前、来年受験するんだろ? 大丈夫なのか?」
と思っている間に復活したりっくんが、なにやら自信ありげに胸を張って俺に聞いてきた。
そういう彼も進級試験があるんだけど……。
「オレはたぶん大丈夫だけどな!」
って、たぶんかい。
案の定、お姉さんとお母さんに電光石火でツッコまれた。
「たぶんじゃダメでしょ」
「もっと勉強しなきゃいけないわね」
「うぐっ!」
相変わらず、よく自爆するりっくんである。
「もちろん、ジャス君達は大丈夫よね?」
「うん。 模擬試験は作ってあるから、その結果が大丈夫ならみんな安心かな?」
お姉さんにうなずいてみせる。
実際の過去問にアレンジと少々のユーモアを加えて、時間がない中で作ったわりにはなかなかの力作だと思う。
「つ、作った、って……」
ところが俺の返しに、お姉さんだけでなくカステお母さんも絶句していた。 りっくんは目を点にしている。
ま、作る方がはるかに難しいからな。
「……今度それ、リックにもくれない?」
「え? うん、いいけど」
まだ一年生の彼には難しすぎると思うが……お母さんがそう言うなら。
こっちには持ってきてないから、帰ったらすぐに書き写して精霊便で送るとしよう。
お父さん――エドガーさんが帰ると言い出すのを待っている状態で、俺達子供はそれまでダラダラと時間を潰した。
お姉さん曰く、お弟子さんの食事の支度があるのであまり長居はできないらしんだけど。
「あーあ、まったく。 ホントに毎日、ご飯と洗濯と掃除ばっかりよ」
「あははは、お疲れさま」
雑談はやがて愚痴大会へと変わり、マティお姉さんはテーブルに突っ伏した。 庭に面した窓からは、そろそろ日暮れの気配が見え始めている。
それにしても……まだ十歳だというのに、お弟子さん達を手間のかかる子供みたいに言う彼女はまるでお母さんである。
ちなみに弟くんは、テーブルから少し距離を取ってニアちゃんとトランプによく似たカード遊びをしていて、リソ君はカステさんに捕まってひざの上に乗せられていた。
そういえば、マティさんのひざに乗ってるのをチラチラと見てたもんな。 嬉しそうにブラザーの頭をなでなでしている。
「また勝っちゃったー」
「うぎゃあああー!?」
結果は推して知るべしである。
「……そうね。 ちょっと様子を見てくるわ」
カステさんが名残惜しそうに「ごめんね」とリソ君を立たせ……絨毯を転げ回る息子をまたぎ、ドアの方へと歩いて行く。 リソ君は転がる弟くんの前にしゃがんだかと思ったら、更に転がそうと押し始めた。
「ごろごろー!」
「ちょ、押すな!?」
「あっ、ニアもやるー♪」
「ぉおおおおおおお!?」
楽しそうである。
そして突っ伏した顔を上げて「お願ーい」を見送っていたお姉さんは、俺と目が合うと何か思いついたように黄色い瞳を輝かせた。
「あっ、そうだ! お母さんもマッサージしてもらってたんでしょ?
私もしてよぉ~♪」
「へあっ!?」
靴を履こうとしていたカステさんがつんのめり、ドアにぶつかりそうな勢いで手をついた。 ……大丈夫?
丸太ごっこ(?)をしていた三人も動きを止め、何事かと顔を上げている。
「ちょっ!? あ、あんた……!?」
「?」
ドアに張りつくような体勢のまま振り返ったカステさんの顔が、みるみる赤くなっていく。
俺もマティさんと一緒に「?」を浮かべて小首を傾げていたが、その反応を見てようやく言わんとしていることを察し、違う違うと手を振った。
ソッチの方じゃないのでご心配なく。
「うん、お安い御用だよ」
帰ったらまた仕事のあるお姉さんを応援すべく、俺は快く立ち上がり彼女の背後へ。 だーかーら、そんな心配そうな目をしなくても大丈夫だから。
首の後ろから腰のあたりまで無防備に晒す後ろ姿を見下ろし、俺は凝っていそうな部分に手を伸ばした。
「んあああっ!? あぁ、そこっ……♪」
「あ、けっこう凝ってるね」
思った通り、気持ちよさそうな声を出すお姉さん。 鹿耳がぴくぴくしている。
肩胛骨周り、けっこう効くでしょ?
「あとね、背骨のこの辺とか……」
「あああああんっ!」
硬いテーブルに伏せているので、あまり体重をかけないようにして指圧。
首のつけ根から腰まで、上から順番に押していく。
「ね、姉ちゃん、相変わらずエロイよ……」
「……」
りっくんもぽっと顔を赤くして、そしてお母さんも赤い顔のまま……ジト目で俺を睨むように見つめてくる。 いや、本当にただ押してるだけだからね?
みんなそうだから特に気にしてなかったが、実はこういう反応って珍しいものなのか?
思わず自分の手のひらを見てみるも、やはりにょろりとしたモノもなければ、何かハンドパワー的なものがほとばしっている気配も皆無である。
おっと、お姉さんが肩越しに振り向いてきたのでマッサージ再開。
ちょっと涙目に見えたのは、よく効いている証拠だろう。
ところでマイブラザーよ……。
うつぶせのりっくんにまたがって一生懸命に片方の足を持ち上げようとしているけど、それはマッサージでも整体でもないぞ?
それは逆エビ固めである。
「あっ、そこダメっ……!」
お姉さんが全身を震わせた。 背骨と腰の間がイイらしい。
しっぽが小さすぎて服から出さないお姉さんも、やっぱりチャロちゃんと同じく疲れやすいようだ。
異性として触ってはいけないところは避けつつ、ツボらしきところを押していく。 さすがにしっぽに効くツボはよく知らないので、まさに手探りだ。
でも特に冬場は、この辺をよーくほぐした方がいいらしいからな。
と、いうことで。
「りょうかーい」
「あぁあぁあああぁ……♪」
「ちょ、変な声出すなって……!」
「……ジャス君?」
いやだから、フツーに押してるだけだってばよ。




