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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(春)
355/744

327 お姉ちゃんは本気出す!

挿絵(By みてみん)





 無事に家庭訪問も終わり、翌朝。

 今日はシンプルにブラウスと細ネクタイでまとめたセーレたんの周りを、ミニスカレオタードに戻った我が娘が飛び回っている。


《ふむふむ、ナルホドナー》


 羽を出して宙に浮き、実際にはつけていないエアメガネのつるの部分をくいっと持ち上げる仕草をしながら、ニアちゃんが妹様の服を調べて何度もうなずいている。

 ちょっと低い声を出してみたりして……それ、もしかして聖母様(パパ)のマネ?


「ニアちゃん、分かったの~?」


 大人しく立っていたセーレたんが聞くと、愛娘はエアメガネをくいくい上げながら答えた。

 しかしニアちゃん、それはちょっとメガネを激しく動かしすぎだと思うぞ? なんだかDJみたいになってる。


《うむ! 我にかかればゾーサもないなっ!》


 自前で服を作れるようになったニアちゃん、今朝はなんとハニーと同じ服を作るのだという。

 ずっと着てみたいと思っていたんだってさ。


《むむむむむ……たあーっ!》


 ニアちゃんは両手両足を突っ張って気合を発した。

 すると、服全体が緑色に輝いたかと思ったら次の瞬間には無数の光の粒となって弾け――。



《うーんと、うーんとぉ》



「……」


 素っ裸になったまま、大の字のポーズのままでまた悩み始めた……。

 ただでさえ三頭身だし、まだヒトのカラダを細部まで正確にトレースしているわけじゃないから、イヤラシイ感じはまったくないんだけど……それでもやっぱり、見続けるには抵抗がある。

 がんばってーと応援している妹様に目の焦点を移し、俺もテレパシーでエールを送る。


《ニアちゃん、頑張れー。 ……それと、いつもの服とどこが違うかを考えたら、作りやすいんじゃないかな?》


 どうやって作っているのかはよく知らないけど、もしもイメージの具現化に近いのならその方が分かりやすいはずだ。

 今の服はちゃんと作れているんだし。


《あ、そっか! ううーん……たああーっ!》


 今度はニアちゃんの全身が緑色輝き、光のシルエットの中でその輪郭が変わっていく。

 腰回りからパッとミニスカートが広がり、身体よりも一回り大きな服が上半身を柔らかく覆う。

 光が収まると、微妙に形が異なっていたりブラウスが淡くグリーンがかったりしているが、それなりに似ている制服姿のニアちゃんが現れた。


『おおーっ!』


 俺とセーレたんは同時に声を上げ、両手を叩いて賞賛した。


《どう? どう? 似合ってるー?》


「とってもかわいいの~♪」

「うん。 よくできているし、ニアちゃんにも似合ってるよ」


《にゅふふふーん♪ これで、ニアも生徒だねっ!》


 つま先よりも下に伸びる髪を揺らしながら、我が娘は満面の笑顔を見せた。




 ――学校での生活も一ヶ月以上続くと、最初のようなわくわくはさすがにもうなくなっていた。

 表面上は家庭訪問による影響も特になく、アズミーリ先生はまったく変わりないしシャルちゃん先生も俺にだけ丁寧語で話すのは前からそうだったし。

 ……と、思っていたのだが。


「今、なんて?」


 休憩時間、意外な人から意外なセリフが飛び出して、俺は思わず聞き返した。


「だから、私もそろそろ本気を出そうかしら、って言ったのよ」


 初夏を思わせる水色のワンピースを着たマーヤお姉さんは、突然引きこもりニートのようなことをおっしゃった。

 自分の席の背もたれに手をかけて後ろを向いていると、机の下で組み替える白い脚が視界の隅にチラリと映る。


「は、はあ……というか、どうしていきなり?」


「いきなりではないのよ? 予定通りなだけ」


「予定?」


 勉強はもちろん、武術も魔術もそつなくこなしているこのお姉さん。 普通ならエルネちゃんと同じく高校へ行っていてもおかしくないのに、なぜか二度も留年して今はこうして俺と机を並べている。

 しかしそれも、マーヤさんにすれば予定通りなのだという。


「ええ。 私は、大学院に行きたいのよ」


「おおー」


 机の上にひじを立てて両手を組み、その上にあごを乗せて俺の目をじっと見つめてくるお姉さん。 瑠璃色の瞳には強い意志があふれている。

 前世(むこう)で大学というと「とりあえず行っとくかー」みたいな奴も周りには多かったが、この国ではそうはいかない。 政令指定都市並の大人口を誇るこの王都でも高校は八つ、大学にいたってはたった一つしかないのだ。

 家業を継いだりする子も多いから進学希望の子は日本ほど多くはないとはいっても、その競争率は高校の時点で既にけっこうなものらしい。

 だけどその分、学べる内容は高度かつ専門的で、高校や大学の卒業が条件になっている職業もあるようだ。 なので、叶えたい夢があるならそれがいちばん近道だったり、あるいは唯一の道だったりする。

 そう考えると……エルネちゃん、相当頑張っているんだなぁ。 一体将来何になりたいのか、いまだに教えてくれないんだけど。


「でもね、高校も大変だけれど大学院へ行くのはもっと大変よ。 時間もなくなるわ。

 ……だからね?」


 子供っぽいところもありながら日に日に大人っぽくなっていく違うお姉さんのことを考えていたら、マーヤさんが更に俺の目を覗き込んできた。

 言葉に少し、力を込めながら。



「――余裕のある今の内に、留年しておいて時間を作っていたのよ」



 目を見開く俺に、マーヤさんは口角を上げて満足そうな微笑みを浮かべる。

 見た目もそうだけど、歳のわりに大人っぽいなとは思っていたが……想像を超えていた。


「す、すげー……」


 確かに、今の時期なら時間的な余裕がいっぱいあるし、学校に来ればタダで教えてくれる人もいる。 実際には学費は自分が成人してから払うことになるから結局タダではないんだけど、浪人してから塾とかに行くよりははるかに安いハズだ。 それに、成人の歳が差し迫ってから行き詰まるよりもずっと精神的にも楽だろう。

 ……そりゃ、全部現役で行ければそれに越したことはないんだけどさ。

 このお姉さんがそこまで考えていたんだとしたら―― いや、間違いなく考えていたんだろう―― その本気の度合いがうかがい知れる。

 口を半開きにして、我ながらアホっぽい顔をしてるんだろうなーと頭の片隅で思いながらマーヤさんを見ていて、そこでふと気づいた。


「なんで、わざわざそれを僕に?」


 それはそれでスゴイことだけど、別に俺に言う必要はないよね?

 驚きから回復した俺に、マーヤさんはたまーにエルネちゃんがするような――目を細くして口元を更に吊り上げ、背筋がゾクリとするような妖艶な笑みを見せた。



「ふふふ……。 私の、女の勘が告げているのよ。

 貴男(あなた)のそばにいれば、きっとうまくいく。

 いえ。 それ以上に、私はもっと幸せになれる……ってね」



「い、いや……」


 真っ直ぐな目差しに、俺は言葉が出て来ない。 ていうか、俺はあげまんでもなければ、座敷(わらし)でもないわけで……。

 そんなご利益はありませんよ?


「そんな事はないわ。 貴男はきっと、いつか『何か』を成し遂げる人だわ。

 いえ……既にもう、トンでもない事を成し遂げているわね。 違う?」


「うぐ」


 それを言われると、まさにぐぅの音も出ない。

 視界いっぱいに美人なお姉さんの顔が迫り、俺はただ唾を飲み込んだ。


「ふふふ。 ……だから、これからもよろしくね?」


「う……うん」


 なんだか、ものすごい人にロックオンされたような気がする。




 ――その日の武術の時間は、大いに盛り上がった。


「それまで!」


『おおぉぉぉ……!』


 一組の大剣使いの男の子に、俺は攻撃を避けながら接近して小太刀の片方を突き出した。 アズミーリ先生の張りのある声とみんなのどよめきが地下体育館に響く。


「ふぅ」


 いくら軽いソフト剣とはいっても、大剣ともなると空気抵抗もあるから振ればそれなりに重たく、そして遅い。

 師匠や親父の剣速に慣れている俺からすれば、大振りの直後の隙を突くのはそれほど難しいことではなかった。

 俺は軽く息を吐き、相手に一礼をしてからハニーの隣に戻って腰を下ろす。


「お兄ちゃん、カッコよかったの~♪」


「そ、そうか」


 蒼い瞳をキラキラさせながら迫ってくる妹様の肩を押さえてほっぺをなでると、目を閉じて俺の手のひらに頬を預けてくる。 相変わらず温かくて、シルクのような手触りだ。

 セーレたんはときどき、人前でもものすごく顔を近づけてくるから困る。


「では、次――マーヤ・マンダール」


「はい」


 先生に呼ばれたマーヤさんが返事をし、俺の後ろで動く気配がする。

 そのまま立ち上がるんだろうと思っていると。


「――ねえ」


「おおぅ!?」


 俺の右肩の後ろから、にょきっとお姉さんの顔が出てきた!


「私も勝ったら、ほっぺをなでてくれる?」


「へ? ま、まあ……うん」


 それくらいなら別にいいけど。


「そ。 ……じゃあ、頑張ってくるわね」


 マーヤさんは俺の肩を叩くと、水色のスカートをはためかせて対戦相手に向かって歩いていった。



「だああーーーーっ!」


「ふっ」


 マーヤさんの相手は、剣を扱う長いおさげの女の子だった。 ちなみに同じ一組ではあるけど、ニャル子ちゃんではない。

 おそらくマーヤさんよりも年下だと思うが、正統派の剣術を習っているようでひとつひとつの動作が力強く、そして速い。 たしなむ程度ではなく、本気で取り組んでいることが分かる。 将来はそういう職業を目指しているのかもしれないな。

 しかしその剣を、マーヤさんは的確に捌いていく。


「はああっ!」


「ふっ」


 気合の乗った、だけど隙の少ない剣を、お姉さんは横から棒を当てるようにして軌道を反らせて捌く。 もしも相手が本物の剣を持っていて、マーヤさんが持っているのが木の棒だったとしても同じように戦えるだろう。 そういう対処の仕方だ。

 棒の真ん中ではなく少し端の方を持って間合いを伸ばし、剣に対して有利な長さで戦っていた。


「でやああああっ!」


「ふっ、はっ!」


 剣士の子が間合いを詰めて剣を振ると、マーヤさんは横へ一歩動いて攻撃を流し、棒の短い方を前に出して即座に反撃する。

 けれど相手もさすがで、突っ込んだ勢いのまま地を這うように頭を下げ、反撃をかわしてマーヤさんの背後へ抜けた。 女の子の身体にお姉さんのスカートが当たり、まるでマタドールのようだ。

 しかし……。


「ふっ!」


「……なっ!?」


 マーヤさんの鉄壁は、同じ武術五級を持った俺達の間でも有名だ。 ……逆に言うと、とことん専守防衛であることが。

 二人がすれ違って仕切り直しになると思いきや、マーヤさんはなんとスカートが浮いて膝上が見えそうな勢いで回転すると、離れた女の子に向かって打ち出すような突きを放った!

 いきなりの攻勢に驚きつつも女の子は剣を盾にして防いだが、その間にマーヤさんは棒を引きながら更に歩を進めて棒の両端を使った連続攻撃に入る。

 なおも女の子は懸命に防ぎ続けるけど、崩れそうになった体勢から踏ん張ろうと脚を伸ばしたところに。


「ふっ!」


「あうっ!?」


 ……その脚を狙った攻撃が当たった。



「ふふふ……約束ね?」


「う、うん」


 戻ってきたお姉さんは運動のせいか、ほんのりと赤くなった顔を俺に向けて瞳を閉じる。


「……頭じゃ、ダメ?」


「ダメ」


「ぐっ……そ、そうだよねー。 約束したもんねー!」


 周囲から視線を感じる中、俺は断ることもできずおずおずと手を伸ばす。

 念のため、周りに理由をアピールしながら。


「……ふふふっ、くすぐったいわ」


「ご、ごめん」


 お姉さんの頬はとてもしっとりとしていて、俺の指にくっついてくるようだった。


「いいのよ。 もう少し続けてほしいけれど……ふふ。 今日は、このくらいにしてあげるわ」


「ど、どうも」


 マーヤさんが薄く開けた目を俺の隣に向けると、すっと体を離してくれた。

 で、その俺の隣におわすお方は――。



「ふふふ~?」



 とても、とても穏やかな笑みを浮かべていらっしゃった。


「え、えっと――」


「きす」


「え?」


「キス。 わたしが勝ったら、キス……して?」


 可愛らしく小首をかしげ、妹様は大きな瞳を真っ直ぐに向けてくる。

 満天の星空を閉じ込めたような瞳には、答えを確信しているような輝きがあった。


「……はい」


 このおねだりに、果たして誰が断れようか。

 いえ、誰も断れません。



 クラスメートで親しいお友達のハズなのに、セーレたんはその子の顔面を容赦なくぽふぽふグローブで両側から挟み込んで圧倒的勝利を収めた。 その時間、わずか数秒。

 やや長めの髪をアップにしている――確かクラーラさんという女の子は、負けたのになぜか嬉しそうに自分の頬をなでながら床に座り込んでいる。


「えへへへへ~♪ お兄ちゃあ~ん?」


「や、約束したもんねー!」


 せっかく、人前ではなるべくキスしないようにしてたのに……!


「んん~っ」


 俺の前で女の子座りをして、目を閉じて桃色の唇をちょっぴり尖らせる妹様に。


「……ん」



 ――俺は、そのやわらかほっぺにキスをした。



「はい、おしまい」


 周りから「またかよー」とか「もげろー!」とか、「口じゃないのー?」とかヤジを飛ばされているのを無視し、俺はハニーから顔を離す。 ところで……どこをもげと言うのか。

 期待に添えなくて悪いけど、口じゃなくていいのだよ。

 その証拠に。


「えへへへへへ~」


 セーレたんは俺のキスしたほっぺを隠すように両手で覆い、腰をくねらせながらとても喜んでいた。

 ハニーがどこにキスしてほしかったかなんて、言われなくても目を見れば分かるのだよ。

 唇へのキスは特別なもの。 そうそうするものではないし人に見せびらかすものでもないと、この子にはちゃんと教えているのだ。


「……私も、キスくらいおねだりすればよかったかしら?」


「お願いだからやめて」


 そんなことをしたら、そのときは本当にほっぺじゃ済まなくなりそうだから!





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