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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(春)
345/744

317 すっかり板についています

挿絵(By みてみん)





 人口密度が上がった分、窓を全開にして暑くならないように気を使う。


「――ということだな」


 覚えた九九の応用という形で、少し学校の授業を先取りして割り算を教える。

 繋げて長くしたテーブルに、幼なじみーズfeat.(フィーチャリング)メイドちゃんズが絨毯へ直に座って俺の話に耳を傾けてくれている。 黒板の類はないので、俺がノートに書いたものをテーブルの真ん中に置いて鉛筆を差し棒代わりにしている。

 セラさんは授業の様子を、ベッドの上から静かに見守っていた。


「んじゃ、二四は四掛ける……?」


 俺は鉛筆でくりむちゃんを指す。 ペン先で指すのはどうかと思ったので、いちおう逆の方で。


「んと、四の段だから……八じゃない。 七……は、二八だから」


 敢えてみんなにはペンを持たさず、ノートや教科書も閉じさせて暗算で答えてもらう。

 わん子ちゃんは自信なさそうに黒い耳をへろーんと垂らし、瞳を右上に向けて一生懸命考えている。


「んと……六?」


「正解!」


 鉛筆でビシッとくりむちゃんを差し、もう片方の手でよくできましたーと頭をなでなで。 クイズ番組の司会者になったみたいで、ちょっと楽しい。

 くりむちゃんはほっとため息をつき、嬉しそうに目を細める。 みんなは、ゆったりとしっぽを振って喜んでいるわん子ちゃんに視線を集めていた。


「よーし。 じゃあ次は、十五は三――」


『はいっ!』


 適当に問題を作って誰を指そうか考えていたら、なぜかニコ以外の全員が手を上げた。

 別に、早当てじゃないんだけどなあ。 絨毯の上でリソ君用の絵本を読んでいたニアちゃんまで手を上げてるし。 ……ま、いっか。


「セーレちゃんが早かったね。 答えは?」


「五、なのっ!」


「せいかーい。 ……じゃ、次は」


「えっ……」


「ん?」


 セーレたんなら正解して当然なので、すぐ次にいこうと思ったら……なに?

 受験合宿の夜に「みんなと寝なさい」と言ったときみたいに、茫然とした表情をする妹様。 ……って、そーゆーコトか。

 俺は足元のニアちゃんに気をつけながら立ち上がり、いちばん遠いハニーの所まで行ってなでなでしてあげた。


「ごめんごめん。 さすがだね」


「……えへっ♪」


 たった五秒くらいのなでなでだが、それでもセーレたんは喜んでくれる。 みんなは嬉しそうなセーレたんをじーっと見つめている。

 ……みんな、なでなでが好きなんだなぁ。

 無言のリクエストにより、他のみんなにも問題を出して一通りなでてあげた。 エミーちゃんは恥ずかしそうに俺を見ながらはにかみ、マールちゃんは素直に嬉しそうな笑顔を浮かべ……みんなに見られていることに気づき、顔を赤くしていた。 チャロちゃんも「わ、わたしもですかっ?」とか言いながらも、なでてあげるとしっぽが嬉しそうにくねくねしていた。

 ニアちゃんにはやっぱりまだ難しかったみたいだけど、なんと九九自体は一部ながらも既に理解しているようで……これもなでなで。 すごく嬉しそうだった。

 ちなみに、うさ耳のお姫様は……。


「よしよーし」


「……ぽっ」


 小さなお口でぽっと呟いて、実際に白いほっぺをほんのりとピンク色にした。

 重そうに見えるほどに大きな頭のリボンだが、触ってみると驚くほどに柔らかで軽い。 それが、異常なくらいに似合っている。


「よ、よーし、よーし……」


「うるうる」


 吸い込まれそうなほどに澄んだ朱い瞳が、呟いた通りに潤いを増して万華鏡のように輝きを変化させる。

 って、そこまで操作できるのかこの子は!? 名子役かっ!


「こ、これでおしまいっ!」


「えー」


 上目遣いに見てくるが、これ以上はえこひいきになる。 ……というか、俺がヤバイ。


「ダメ、おしまい」


「ふふ……はーい♪」


 何とか誘惑に耐えきって断ると、どうしてかるーちゃんは嬉しそうに目を細めた。



「――よし、ニコも正解だな」


「ぶはぁ~っ……」


 最後に正解したニコは、かなり疲れたらしくテーブルに突っ伏した。


「うー、難しいよぉ~」


「まあ、慣れるまではな?」


 みんなは九九を語呂じゃなく普通に丸暗記しているから、尚更だろう。 でも、九九を本当の意味で身につけるにはこの方法は有効だと思う。


「じゃあ、ジャスくんは慣れてるの?」


 ちょっと拗ねたような目をして、伏せたままニコが顔を俺の方に向ける。


「まーな」


 俺が即答すると、ニコは一瞬何かを考えるように瞳を動かして……むふーと口の端をつり上げた。

 ん? 何か仕掛けてくる気か? 受けて立とうではないか。


「じゃあ! 六八は、八かける……」


「八で四余る。 もしくは八.五」


「えっ」


 即答してやると、ニコは目を点にした。

 フッフッフー。 わざと割り切れない、というか九九にはない数字を持ってきたことには感心するが、甘いな。

 今の俺は、むしろ前世(まえ)よりも計算速度が上がっているのだ!


「九だと七二だから四足りないし、八だと六四だから四余るな。 こういうときは、今みたいに『余り』を出すんだ。

 チラッと答えちゃったけど、少数以下で計算することもできる……まあ、これはもう少し後になったら出てくるから今は置いとくな」


「うぅー。 ……やっぱり、ジャスくんはすごいやー」


 伏せたノートにほっぺをくっつけるニコ。 運動面ではともかく、こっち方面ではそう簡単に負けるつもりはないのだよ。

 俺は、上を向いている方のほっぺを突っついてニコの口を歪ませて遊ぶ。 女の子のほっぺよりは少し硬いが、弾力があって突き甲斐がある。


「いやいや、目の付けどころはよかったぞ? それにニコも、慣れればできるようになるからなー?」


 十六連射してやると、ニコの頬と口が面白いように歪んで変な声を出し始めた。 ほれほれー。


「うぇうぇうぇうぇ~」


 ニコのおかげで、その後の授業はより和やかな雰囲気で進んだ。




 ――次回の予定を告げ、お昼前には勉強会はお開きとなった。

 高校の予習までやろうと思えば時間は到底足りないが、初学校の勉強だけなら余裕なのだ。 あとは全部暗記科目だし。

 それに、勉強は長くやりすぎてもムダに疲れるだけだしな。


 今回もエルリアさんの差し入れをみんなでいただき、元々今日はお休みだったマールちゃんはリビングでお喋りをはじめ、お袋も話の輪に入った。 チャロちゃんはメイド服に着替えて仕事へ復帰し、セーレたんとエミーちゃんもお手伝いを始めた。

 残った俺達はリソ君の面倒を見ることになり、一階の部屋でニコとくりむちゃんが今度は先生役になって絵本を読んであげている。

 我が娘はくりむちゃんが波打たせるしっぽにしがみつき、ロデオ……というか、風に飛ばされそうな洗濯物みたいになって喜んでいた。 なかなかダイナミックな遊びである。


「ジャス君、本当に先生になっていたわね……」


「もう、一年やってるからねぇ」


 俺とセラさんは、リソ君達の姿を少し離れたソファーに座って眺めている。

 それにしても、自分で言いながら思い出したが……やってない期間もあるけど、曲がりなりにも教師歴一年だよ俺! シャルちゃんと同じ?

 セーレたんには産まれてからずっと教えているから、それを勘定に入れるともっと長いんだけどな。


「去年うちに来てくれた時も、凄い子だとは思っていたけど……ますますとんでもないことになっているわね」


「あははははー」


 俺、もう世間様以外にはほとんど隠さなくなってるもんなー。 ……隠しきれなくなってきた、というのが正しい解釈だが。

 主に、某精霊様のおかげで。


「だけど、ジャス君なら大丈夫。 ……そう思えるのよね」


 セラさんはそう言って、優しく微笑みかけてくれた。 全幅の信頼を感じる笑みだった。

 ちょっと照れるな……。


「あ、ありがと」


「少し赤くなってきたわよ? ふふふふふっ♪

 こんな事を話していること自体が、普通じゃないんだけれど……ま、『ジャス君だから』ね!」


 あはは、と声を大きくするセラさん。 ふとニコの方を見ると、いつの間にか絵本のお勉強からスパーリングに変わっていた。

 またもや「ふぁんちー!」を食らって、ニコがお腹を押さえて呻いている。

 リソ君さ……今、「ふぁん」と「ちー」で二発入れたよね?


「や、僕だからって」


 人をそんな、規格外みたいに……。


 ……。



 ……ひ、否定できないや。



「あら、セフィもマールちゃん達もみんな言ってるわよ? 私もまったくその通りだと思うわ」


「うっ」


 お袋達も今のセラさんみたいに笑ってくれるけど。

 もしかしなくても、俺の知らないところではかなり迷惑をかけているんだろうなぁ。

 そう考えると、申し訳ない。


「もう、そんな顔しないの!」


 うつむいてしょげていると、セラさんにおデコを強く突っつかれた。 押された勢いで顔を上げさせられた先には、女神様のような慈愛に満ちた笑顔。

 ……やっぱり、お袋によく似てるわ。


「ジャス君のことだから、悪い事をしたとでも思ってるんでしょう?」


「……」


 無言で首を縦に振ると、セラさんは苦笑気味にため息をついた。


「はぁ……そんな事、気にしなくていいのよ?

 だって――」


 温かな両手が伸びて、俺の頬から耳のあたりまでをふわりと包み込んだ。

 左右の親指が、俺の頬をくすぐるようになでる。



「だって、ジャス君だもの」



 たまにお袋達が俺に向けていた、イマイチよく分からなかった笑顔。

 その意味が、少しだけ分かったような気がした。





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