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そだ☆シス  作者: Mie
帰郷編
114/744

99 ここがあなたのいたところ

挿絵(By みてみん)





 抜けるような青空の下、手を繋いで歩く。


「~♪~~♪」


 俺の右手の先を見上げれば、いつものメイド服姿から嬉しそうなオーラを出しているマールちゃん。 人前でハミングしているなんて、きわめて珍しい。

 右手には昨日作ったらしい、お菓子がいっぱい入った大きなバッグを持っている。


「……ん? にゃはは♪」


 そして左を見れば、天使のような純白の半袖ワンピースを着たセーレたん。 頭の後ろの、白くて大きいリボンが今日のワンポイントだ。

 俺と目が合うと、にこーと明るい笑顔を見せてくれる。 朝日を身体いっぱいに浴びて、服も髪も笑顔も、すべてが眩しいぜ!


 そして両手に花の俺。 襟と袖だけが青い、白の半袖ポロシャツに黒いサスペンダーをつけた濃紺のパンツスタイルだ。

 こうして俺達がちょっぴりおめかしして、なんとここに来て初めての外出をしているのには、もちろん理由がある。


「ふふふふ……ジャス様、セーレ様。

 お二人が生まれる前、奥様もこの道を歩いていたんですよ?」


「へぇー」

「ママも~?」


 前を見れば、王都の幼児園の近くのような無舗装の道が続く。

 こっちの家も二等区なので、近所は王都の家と同じ石畳だったんだけど……やはり王都ほどの巨大都市ではないので、少し歩くと一般区に出てしまった。

 この一般区も王都とは違って碁盤目状の道ではなく、ときどき角を曲がらないといけない作りになっている。 前世だとこういう作りの道は、敵軍の進行を妨げる目的があったような……。

 数年振りの道を、マールちゃんは小さな思い出話を俺達に聞かせてくれながら、楽しそうに歩いている。 秋になるとこの家の木の花が綺麗に咲くんだとか、あの道の先によく来ていた屋台のお菓子が好きだったとか。

 どうやらこのあたりは、彼女の知っている当時とほとんど変わっていないようだ。


「~~♪~♪♪」


 前の方に小さな広場が見え始めると、少しずつ人通りが増えてきた。

 子供を二人連れているからか、あまりメイド服を見ないのか、それとも嬉しそうな表情か声に引かれたのか。 なんとなくマールちゃんに目を向ける人が多いような気がする。 次に、その視線は俺の左側へ。

 気づいてないのかなーと思って二人を見てみるが、いたって普通に笑顔を返してくれる。 気づいてるけど気にしてない、ってことか。



 日の出と昼の鐘の間にあたる〈四時の鐘〉が鳴ってかなり経ち、俺も妹様もそろそろ疲れを感じてきた頃。


「……すみませんジャス様。 あそこで少し、休憩しましょう」


 俺のため息が聞こえちゃったようで、ちょうど広場の入口の角にあったオープンテラスのカフェを指して、マールちゃんが休憩を提案してくれた。


「はーい」「わぁい♪」


 もちろん、俺達に否やはない。

 テラス席のテーブルを拭いている、私服のウェイトレスさんっぽい人がいたので、近づいてマールちゃんが声をかける。


「あの、この席いいです……あれっ!?」


「はい、いらっしゃ――ああっ!?」


 マールちゃんと、黄色いショートヘアの若そうなウェイトレスさんが顔を見合わせると、互いに大きな声を上げた。


「キリカ……久しぶりっ!」


「マールこそ、いつ帰ってきたのよっ!」


 二人とも同じように目を輝かせて、互いに手を取り合う。 俺と手を繋いだままなので、マールちゃんは右手だけだけど。

 喜び合う様子を見れば聞くまでもなく、かなり親しい間柄だったようだ。


「ここで働いてるのね……」


「うん、院を出てからすぐにね――あ、ごめんなさい!

 お坊ちゃまとお嬢ちゃま、こちらのお席にどうぞ♪」


 マールちゃんの服装と俺達を見て、すぐに俺達の関係に気づいたようで。

 ウェイトレスさんは屈んで俺とセーレたんに目線を合わせると、少しゆっくりで丁寧な口調に変えてイスを引いてくれた。

 それからお任せで飲み物を注文すると、お姉さんはぺこりと頭を下げて店の中に入っていった。


「キリカ……あのウェイトレスさんは、私と同じ歳で孤児院も一緒だったんですよ」


「へー」

「こじ~ん?」


「同じお家に住んでいたんですよ、セーレ様」


「おなじおうち~? じゃあ、セーレとおにぃとおなじ?」


「ふふふふ、そうですね。 同じようなものです」


「おお~っ」



「はい、お待たせしましたー♪」


 三人で話をしていると、お姉さんが飲み物とクッキーを持って来てくれた。

 木のコップの中のジュースには果肉のシャーベットが入っていて、クッキーも四角や三角など、いろんな形のものがある。


「……あれ? 私、クッキー頼んでないけど」


「いいのいいの。 再会のお祝いってことで、私からのオゴリよ♪」


 ウィンクしてみせるお姉さんに、マールちゃんも遠慮なくその厚意を受け取った。


「ありがとー、キリカお姉さん」

「ありがと~!」


「あら、私の名前まで……おりこうさんですね♪」


「ええ! お二人とも、それはもう素晴らしいんだから……はぁぁ」


「ま、マール? すっごく可愛いのは分かるけど、ちょっと見る目がアレだよ……?」


「ぼくジャスパー、四歳ですっ!」

「せ、セーレ、です~」


「まあ、ちゃんと自分でお名前も言えるんだねー」


「ええ、ジャス様もセーレ様も凄いんだから。 この前なんて――」


 思いがけない出会いからついつい話が盛り上がり、お昼時になって忙しくなるまで長居してしまった俺達だった。




 ――楽しい休憩が終わって広場を出たときに昼の鐘が鳴って。

 更に歩いて住宅地の少し細い路地を抜け、俺達はようやく目的地に着いた。


「ここが、マールたんの」

「おっきいね~」


「はい、そうですよ」


 古さは感じるものの、補修がなされていて大事に使われていることがよく分かる外観。

 レンガの壁で囲まれ、周囲から頭一つ出ている大きな三階の建物は同じレンガ造りで、太い煙突が両端にある。

 あちこちの窓が開けられていて、中から子供達のはしゃいでいる声がかすかに聞こえてくる。


 マールちゃんは俺の手を離して両手でバッグを持つと、開放されている門をくぐって振り返った。 踊るような動作に、わずかにスカートが広がる。

 そして門の前に立っている俺達に、バッグを持っていない方の手でカーテシーの姿勢を取ると、誇らしげな笑顔と共に大きな声で迎えてくれた。



「ジャス様、セーレ様。 ……私とチャロが育った、ホープヘリー孤児院へようこそ♪」





 次回、第百話に続きます。

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