山のあなたになお遠く…
(4)
【山のあなたになお遠く 幸い住むとひとの言う】
~それでもなお、さらに向こうの山の彼方に、幸福があるのだと信じています~
奇跡的な特殊ルールに助けられて迎えた、南四局・流れ一本場。
依然リーチも出来ない状態ではあるが、どうにかオーラスの親番に漕ぎ着けた。
前局、値千金の暴牌は、窮鼠に舞い降りた天啓のごときひらめきとでも言うべき感覚だった。
ノーテン罰付を払うことなく流局に持ち込んだ上に、親番を奪取する術など、指先が發に触れる0.1秒前まで想像すらしなかった。
しかし打牌の瞬間には〝山のあなた〟に繋がる唯一の道を確信していた。
他家3人にしてみれば、上がり損ねたショックと同じくらい、安堵の入り混じった思いだったろう。
もし待ちを変えれば、自分がダブロンを被っていたのだがら。
点数状況は刈り上げのリーチ棒が供託になっただけで、3人のトップ争いが仕切り直しとなっただけだ。
ホスト風:35000
オイラ:100
刈り上げ:31500
学生:32400
①②③④112一一三北北東
ドラは①筒。
役作りが必須であることを考えて、123の三色とチャンタ狙いを視野に入れた手牌。
ところが対面の学生から出た2枚目の3索に、ホスト風が声を発した。
「ポン!」
しまった……またしても必要牌が枯れた…さっきのイッツウと同じじゃねーか…。
どうしてこうも、オイラの必要牌はよそに固まってしまうのだろう?
その鳴きで流れてきた1索を暗刻にして3索を切った。
①②③④111一一三北北東
三色はなくなったが、まだイケる…よし、北が暗刻った! そっと④筒を捨てた。
①②③111一一三北北北東
一萬を引けばチャンタと三暗刻をてんびんに掛けたテンパイ、二萬が入れば東単騎からさらに回していける。
不意に、刈り上げが四萬を河に曲げた。
「リーチ!」
「ポン!!」
ホスト風が気合いを入れて二度目のポンを入れ、ドラの①筒を叩き切った。
刈り上げは無言でドラを睨みつけるだけだった。
ホスト風もテンパりやがった。彼は喰いタンのみで逃げ切れるのだ。もう甘い牌は打てない。
そして流れてきたのが、赤五萬だった。
万事休す…ノーテンのまま勝負する牌ではない。溜め息とともに、東を捨てた。
①②③111一一三五北北北
勿論これで一応の役なしテンパイではあるが、間四萬は残り1枚。ツモらなければ、出上がりも出来ないのだ。
…と、ホスト風がツモ牌を止めて長考している。
彼も必死である。
ある予感が頭をかすめ、オイラは静かに息を吸って腹に溜めた…。
意を決したホスト風は、ツモった牌を先ほどポンした四萬に重ねた。
「カン!」
その手が王牌に伸びる前に、オイラの「ロン!」の声が吐き出された。
槍槓…※ポンした牌に後から4枚目が加槓された場合にのみ、その牌で上がれる…などという役は果たして中国式なのか日本式なのか?
とにかくそんな役で上がったのは、過去1回しか記憶にないし、役なしの槍槓のみというのはこれが初めてだった。
「槍槓・赤・ドラ、クンロクは9900と1枚だ」
「うへぇ~素直に切っときゃ良かったかぁ…」
ホスト風の嘆きは当然で、1000点で上がれる彼が、リーチの現物をわざわざ加槓するのはリスクの方が大きい。
河に捨てればオイラは上がれなかったし、奴はこれで3者横並びのトップ争いから一歩後退である。
それ以上にオイラにとってもこの上がりは大きく、供託のリーチ棒を加えて持ち点は13000。
飛び寸の土俵際で踏みとどまり、彼方に見えていた山の麓に辿り着いたのだ。




