体調不良と看病2
「ん、香坂くんどうかした?」
「悪い起こしたか」
彼女はゆっくりと上体を起こし、寝起きの目をこする。ふにゃっとした表情が猫のようでちょっと愛らしい。
「薬、とりあえず家に常備してあるやつだけど、飲まないよりはマシだろう」
「ありがと」
彼女は俺が薬と紅茶だけ渡して出ていくと思っていたのだろう、ベッド横の椅子に腰を掛けた俺を目をパチパチさせて見ていた。
「やっぱり、また勉強し始めないように藤野が寝るまでここにいる」
クスクスと口元に手を添えて彼女は笑った。
「参考書持っていった上でその理由は苦しいよ香坂くん」
「藤野なら脳内で参考書開いて勉強してそうだ」
「できないこともないけどね」
(え、完全に冗談のつもりだったんだけど・・・・こわい)
「とにかく、寝付くまでここにいる」
ポンと彼女は手のひらを俺の頭に置いて撫でる。
「なにしてるの?」
「感謝の気持ちだよ、いつもされてばっかだったから」
ホッと胸から全身が暖かくなる。感謝なんてこっちだってしきれないくらいある。挙げればきりがないくらいだ。
「嬉しいんだけど、うつるだろ」
溢れる気持ちを抑えてそんなことを言った。
「隣に座ってる時点で一緒だよ」
「まあ、それもそうか・・・・」
彼女が横になってから寝室の電気を消して、ベッドの暖色のライトを弱めに点灯させてた。
目を閉じた状態の彼女は語りかけるかのように話しかけてくる。
「香坂くん、私と出会った時よりも凄く変わったね」
「そりゃ幼稚園の頃まで遡ったら誰だって変わってるだろ」
俺たちの閉じた関係は幼少期から始まった、お互い周囲に馴染めない同士接点を持つのは必然だったのかもしれない。
だからそれを言ったから彼女の方がはるかに変わってる。
「あの時は藤野がここまで人に囲まれて過ごす姿なんて想像出来なかったな」
「ねえ・・・・あの時の方が良かったって言ったらどう思う?」
彼女はそれからぽつぽつと言葉をこぼす。
「空気を読んで、色々な人に分け隔てなく接して、イメージを崩さないよう
に振る舞う、そういうのちょっと疲れてきたのかも」
風邪で身体が弱っているせいだろうか、彼女自身が抱える苦悩が口から出てきていた。
「まあなんだ、もっとこの中だったら遠慮なく弱音吐いて良いんだぞ」
俺みたいな窓際の席でボヤっとしてる奴が彼女の抱える苦悩を完全に理解することは難しい。
言えるとしたら、彼女が戻りたがってるあの時に一時的にでも戻れる場所がこのマンションの中であり、同棲という機会が与えられた意味でもあるということだけだ。
だから──。
「辛くなってどうにもならなくなったら、一緒に話しながらゲームしたり映画見たりしてダラダラ過ごして完璧な藤野の皮を脱げばいい」
「学校休んでも?」
これは、意外だ。てっきり無遅刻無欠席を死守してるのかと思っていた。
「一日二日くらいなら俺も付き合うよ」
「それ、香坂くんが学校サボりたいのも入ってるでしょ」
学校をサボりたくならない学生なんて俺の見立てだと極めて稀だろう。うちの父親なんて毎朝仕事サボりたがっていたくらいだし。
「俺は行きたくない学校をサボる口実が出来て、藤野はリフレッシュ出来る
一石二鳥だな」
本当は俺が素の彼女と居られる時間が増えるというのも加えれば一石三鳥くらいだけどな。
彼女はクスクスっと笑って閉じた目を薄く開きこちらを見る。
「やっぱり同棲を承諾して良かった」
「そう思ってくれてるなら幼馴染冥利に尽きるな」
うとうとしてゆっくりと目を閉じて眠りに入った彼女の頭を優しくさすった。
彼女の「むう」とかすかに反応したのが微笑ましかった。
「おやすみ、涼香」
滅多に呼ばない下の名前を口にしてちょっと気恥ずかしくなったけど、本人が寝てるので問題ないだろう──。




