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幼馴染とのバレンタイン

 年が明けてからは俺の予想通り、異様に時が過ぎるのが早く感じる。


 実家に新年の挨拶をしに行って、そのまま涼香と初詣に行ったのがついこないだように感じるが、実際は一ヶ月も前のことだ。


 今日は、二月十四日バレンタインデーである。


「流石に着込んでも寒いな・・・・」


 俺は二月の肌がひりつくような寒さの中、涼香に半ば追い出されて昼下がりの街中を歩いている。


「あれ、香坂くん一人なんて珍しいね」


 行く当ても特になく駅近辺をうろついていると、伏見と神代ペアに接触した。二人は並んで腕を組んでいる。


「随分と様になって来たな神代」


「押し切られたんだ、気恥ずかしいもんだな」


 神代はそう言って苦笑する。伏見は神代の言動にむっと頬を膨らませたが、すぐに興味は俺が一人で街を彷徨っていることに戻った。


「喧嘩別れでもしたのかい? ああ、かわいそうに。私が義理のチョコレートをあげるから元気を出すんだ」


「いや、伏見が喧嘩を売りに来てるだろ。まあ貰うけど」


 伏見から紙で包まれた球状のチョコレートを一粒受け取る。


「天音、ちなみに雪は頑なに本命を渡さないんだ。察するにお前もそうなんだろ?」


「まあな、俺の場合は半ば追い出されてしまったんだが」


 メッセージを送るからそれまで外へ行って中に入らないで、と。


 伏見は何か納得したようにうんうんと頷いて「お互い頑張ってるなー」と呟く。


「香坂くん、ちゃんと感想言ってあげるんだよ? それと写真も」


「あ、ああ。感想はともかく写真って・・・・?」


「それはもちろん──」


「雪、寒いから早く帰るぞ、今日は泊まるんだろ」


「え? 良いの? さっきまで駄目って言ってたのに」


「良いよ、今日だけな」


 わーいっと伏見は満面の笑みで「じゃ先帰る」と言って弾むような足取りで去って行った。


「悪いな、神代」


「勘違いするなよ、気が変わっただけだ」


 あと写真は俺も気になるから出来れば頼むとだけ言い残して神代は伏見の後を追って行った。


 賑やかなコンビだな、と頬を緩めたところでポケットに入ったスマホが通知を受け取る。発信者の名前を見て俺はようやくかと安堵のため息を漏らす。


『なんとかなりました! 待ってるね』


 そのメッセージの後に写真が一枚送られてきた。エプロン姿でピースした涼香の写真。口元にチョコレートが付いているのはわざとなのか、事故なのか、どちらにしろ可愛らしい。


 スマホをポケットにしまい、俺はマンションに向かってもと来た道を引き返した。


「ただいま」


「おかえり、ごめんね、寒かったよね」


「うん、まあでも写真で大体何がしたかったか分かったから」


「ふふ、力作だよ?」


「それは、楽しみだな。ちなみに口元にチョコ付いたままだぞ」


 彼女はふえ? と自分の口元に軽く指を掠めるとチョコが取れる。どうやらあの写真の口元チョコは事故みたいだ。


「じゃあ見せてもらおうかな」


 慌ててスマホで自分の送った写真を確認して顔を赤らめている彼女をよそに俺はさっそくリビングに向かった──。


「これを、涼香が・・・・」


 リビングの食卓机にあったのは丸いチョコレートケーキ、上にはハート型のチョコレートがのっていて、それを囲むようにチョコのホイップクリームが付いている。


 形の整い方も誕生日の時のものとは比べものにならないくらい良い。


「これが私の本気で作った本命チョコよ」


 えっへんっとしている彼女に微笑みつつ、同時にいじりたい欲に駆られる。


「驚いたよ、ちなみにまだ口元にチョコ付いたままだよ?」


「え、嘘」


 彼女は慌てて口元に指を掠めるが、今度はチョコは取れなかった。


「うん、嘘」


「天音、私ケーキ没収しようと思うの」


「ごめんごめん、美味しく頂くよ、とその前に」


 俺はスマホで涼香の力作の写真を撮って伏見に送った。返信はすぐに返ってきた。


『おおー涼ちゃんやりますなーちなみにこっちは本命チョコで幼馴染が酔ってしまっております。かなり面白い』


 大方、アルコール入りのチョコを食べさせられたのだろう。神代のアルコール耐性は弱い。


 俺は内心で神代の健闘を祈っておく。彼がなんとなくお泊りを嫌がっていた気持ちが分かる気がする。


「じゃあ、頂きます」


 俺がスプーンを持ってケーキをすくおうとするとその手を彼女が止めた。


「どうかした?」


「いや、そのせっかくだから食べさせてあげたいなって、このマンションで最初で最後のバレンタインだし」


 言いながら、彼女の顔はしゅんとしたものに変わっていた。俺はそんな彼女の頭を軽く撫でて、小さな手にスプーンを渡す。


「じゃあ、お願いしようかな」


「うん!」


 結局一方的な食べさせでは満足出来ずに最終的には交互に食べ合った。


「天音、ケーキ終わる前にツーショット」


「そうだな、記念に撮っておくか」


 二人して口元にチョコを付けたまま、スマホのシャッターを切った──。

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