涼香から見た聖夜のプロポーズ。それは幸せの瞬間
「・・・・んう」
私、いつの間に寝ちゃってたんだろう。リビングの周辺を見渡すとまだ皆は寝ているようだった。時計を見てそれもそのはずだと納得する。時刻は朝の五時、カーテン越しに見える外は少しだけ明るく夜が明けたばかりといった感じだ。
「すう──」
小さな寝息がふと耳に入って、膝元を見ると天音が気持ちよさげな顔をして眠っていた。ああ──この幼馴染はどうしてこうも私の心をくすぐるのだろう。無防備であどけない寝顔は今までだって愛おしさはあったけれど、あのクリスマスのプロポーズ以降だとそれが何倍にも膨れて感じられる。
私は今一度あの日のことを思い返す。忘れられない特別な日の出来事と私が感じたその全てを──。
イルミネーションが私と天音のプロポーズを華やかに祝福しているかのようだった。
指切りをしたその後、並木道を並んで歩く。ゆっくりとした歩幅で手をしっかりと繋ぎながら──。
「どう? 人生初プロポーズの感想は」
「どうって、思ったよりあっさりしてたな、とか」
信じられるだろうかロケーションはこんなにもロマンティックな場所を選んでくれたのに、感想は全然ロマンの欠片もない内容。いっそくさいセリフの一つくらい言ってくれたって良いのに。
「むう、なんかつまんないの」
「わ、悪い。ただこれは別に取ってつけるわけじゃないんだが・・・・」
天音はそこで言葉を切ると気恥ずかしそうに視線を逸らし、頬をかく。何か期待できそうな反応だ。私はこういう時、積極的に押してみることにしている。
「なあに? せっかくだからドキッとさせてみてよ」
ああ、勢い余ってちょっとこれは、露骨過ぎたかもしれない。
「綺麗だった凄く、その幼馴染っていうより完全に一人の異性としてこれ以上ないくらい・・・・魅力的だったと思う」
天音のその言葉はくさいセリフというより、純粋な愛おしさの吐露のように感じた。だから──ホッと身体中が火照りだして、つい笑みがこぼれ出てしまう。
もっと欲しいかも・・・・そう思ってしまうのは贅沢だろうか? いや、この特別な日ぐらい贅沢で欲張りでも許されるはずだ。
「・・・・どうしてあの時、指切りだけだったの?」
「なんか雰囲気壊したくなかったんだよ、逆にしてなにかして欲しかった?」
「その・・・・ギューとか」
う、なにかして欲しかった? なんて改めて正面から聞かれると、途端に言うのが気恥ずかしい。
「とか?」
「その・・・・撫でるとか」
「うん、他には?」
これは多分、天音の無自覚の問いかけではなく私が本当にして欲しかったことを彼は知っていて意図的に問いを重ねている。私が天音のことをよく理解しているように天音もまた私のことをよく理解しているのだ。
「一番は・・・・唇を重ねて欲しかった」
ここでいつもより深くキスをして欲しいとか、そういう純粋な欲が垣間見える言い回しをせずに清楚な言い回しを使えた自分を褒めたい。
「それが聞けて良かった──」
次の瞬間、私の身体は天音に抱き寄せられていた。戸惑いとか驚きではなく、私がして欲しいって言ったことをすぐにしてくれる。そんな天音への愛おしさで胸がいっぱいになる。
「暖かいな、涼香は」
「私も、冬だから余計にそう感じるね」
私は遠慮も気恥ずかしさもなく、天音の胸元に頬をピッタリとくっつける。とくんっと心音がはっきりと聞こえてくる。
その心音はびっくりするくらい穏やかに規則正しいリズムを刻んでいた。
(もう、ハグしても落ち着いていられるんだ)
私はこんなにもドキッとしてるのに、なんかずるいな・・・・。
「このまま、時間が止まってくれたら──なんて思うね」
そう言う天音の声は穏やかに語りかけるような、抑揚のついたそんな声。
「ここでそういうセリフ言うの──一番効く」
私だって気持ちは同じだ。花火大会の時だって今の瞬間だって、幸せの最高潮で時間が止まって欲しいと願うのは人間の常なのかもしれない。
これが、終わったら年が明けてからしばらくで離れ離れになる。
数日だって天音の居ない生活に耐えられるか分からないのに一年間──寂しくて春なんて来て欲しくはないのだ。
「涼香、こっち向いて」
「天音──」
スッと自然に私と彼はお互いの唇を重ねた。寒さも降りしきる雪も、これから来る未来もこの瞬間だけは全て置き去りにして、深く長くそうしていた。
それは忘れられないくらいに記憶に刻まれるような満ち足りた特別な夜の幕引きだった──。




