幼馴染たちの交流と幸せなお返し
「やっほー涼ちゃん、香坂くん」
あの後、昼食をとった俺たちは伏見との待ち合わせ場所である駅前のコンビニへと向かった。
それにしても、いくら俺以外の三人が集まっても違和感がないとはいえ、休日の駅前のコンビニを指定するとは中々強気というかなんというか・・・・。
「やっほー雪ちゃんってあれ神代くんは?」
涼香が伏見の隣に神代が居ないのに気が付いて、たずねるとあははっと伏見は苦笑しながら頭をかいて言った。
「中々、腰が重いらしく後で来ると思う。いや来させる」
「あんまり、無茶言ってやるなよ」
俺が思わず口を挟むと伏見は「分かってないなー」と嘆息する。
「神ちゃんは押さないと積極的にならないんだよ、むしろ押しすぎるくらいが丁度良いまである」
「なるほど、雪ちゃんのそれ凄く参考になる」
「あーやっぱり香坂くんもそういうタイプか、涼ちゃんも大変だー」
「神代と一緒にされるのは、あまり気持ち良くないんだが」
えーっと伏見は俺に詰め寄ってくる。今のは確かに良くなかったかもしれない仮にも彼女の前で彼氏に対して言及するのはあまり褒められたことではないだろう。
「神ちゃんが泣いちゃうよ、シクシクってね」
伏見はそう言って両手で涙を拭くジェスチャーをする。隣では涼香は可笑しそうに笑っていた。
「悪いが、想像出来んな」
まあ実際は絶対ないけどね、と言ってから伏見は俺たちを交互に見て「さてさて」と完全に察したかのような表情を顔に浮かべる。
「単刀直入に聞くけど、お二人さんもうそういう仲でしょ?」
「・・・・」
俺は言葉に詰まる。これで、はいそうですと言っていいものなのか、誤魔化すべきなのかその判断を果たして一人で下すべきか迷ったからだ。
しかし、隣の涼香はなんの迷うことなく「実はそうなんだ」と言い切った。それを聞いた伏見はパッと顔を明るくして「やっぱり、後夜祭の時から気づいてたんだよねー」と涼香の両手を取る。
「お互い実ったってことだもんねーめでたしだ」
「いや、手を取るなら片思いだった同士の俺の方だろ」
「神ちゃん以外の男の人とは気軽に手を繋げないのです」
「ああ、さようで」
三人でそんな掛け合いを繰り広げていると神代が如何にも気だるそうな顔をしてやってきた。
俺はそんな神代の肩に手を置いて一言声を掛ける。
「抗う意味はないぞ」
「・・・・分かってるよ」
昼食はお互いに取っていて、さてどこでなにして遊ぼうかと休日の街中を行き先も決めずに歩いて迷っていると珍しく神代が提案をしてきた。
「カラオケが良い」
その一言に俺と神代以外の二人は凍り付く。これは神代から伏見への強烈なカウンターであることを俺は知っていた。伏見もまた涼香と同じように歌が苦手である。さらに神代が続ける。
「遊ぶ場所くらい俺が決めてもいいよね?」
「う・・・・じゃあカラオケで」
結局、押し切ったつもりが逆に押し返されてしまった伏見と流れ弾を受けてうなだれる涼香に苦笑しつつ俺はフォローを入れる。
「涼香は無理して歌わなくてもいいよ」
俺と涼香はここに来る前に勝負をして俺が負けているので、当然お願い事であるカラオケで歌わせるというのは無効なのだ。
「雪には歌わせるからな」
「うう・・・・仕方なし」
駅近辺にカラオケボックスはかなりの数あるのだが、なるべく人の少ない店が良いと言う俺の要望に伏見は「任せて下さいな」と先頭を歩き案内役を買って出た。
「へえ、こんな路地裏にもカラオケボックスなんてあるんだな、神代は知ってたのか?」
「まさか、俺はおろか大半の奴は知らないと思うよ。雪は歌いたくないのに穴場のカラオケボックスなんてなんで知ってるんだ?」
「土地勘が鋭いだけだよーさあ腹はくくったから入ろう」
こじんまりとしたカラオケボックスの中の部屋は狭く四人がギリギリ入れるくらいで、最低限の機材が揃っていて防音は一応してあるものの、他の部屋から歌声が漏れ聞こえているのでそれほど期待できるものではないだろう。
神代、伏見、そして最後に俺の順に歌うことになった。
「天音の歌うところ楽しみだな」
神代が歌っている最中、隣に座っている涼香はそう言ってくっついてくる。おやおやと言った感じでその様子を伏見が見ているので、なんだかいつもと違って気恥ずかしい。
神代の後は伏見が歌う番になったが、腹をくくったというのは本当らしく伏見はためらいながらも渋ることなく歌い始めた。
俺も神代も中学時代の時以来、伏見の生歌を聞く機会はなかったが、改めて聞くと涼香と似て中毒性がある。音程は不安定だが、柔らかい歌声は聞いていて心地良いものだ。
「・・・・良いな」
神代も思わずそんな呟きを漏らすくらいである。こうなってくると涼香も歌わせたいのだが・・・・そう思っているのを察したのか涼香は俺の服の裾を引っ張ってはにかみながら言った。
「天音と一緒なら歌っても・・・・良いよ?」
「それは、願ってもないというかぜひ」
伏見が歌い終わると俺と涼香がマイクを手に取って前に出る。曲は男女の掛け合いがあるタイプのもの。
「ほう」
神代は意外そうに俺の方を見て、伏見はなぜか目を輝かせている。
歌い出しからよろよろの涼香を置いていかないように歌いながら、横目で彼女の方を見る。
両手でマイクを持ち、頬を赤らめて肩に力が入ってしまいながらも、小さな口を動かして必死に歌っていた。
(か、可愛い・・・・)
ただ掛け合い前でその調子なので掛け合いパートは思いっきり噛んでしまっていたけれど、それも含めて彼女の可愛い一面として俺の記憶に刻まれた──。
「今日はありがとねー涼ちゃん、香坂くんも」
「俺にはお礼の言葉はないのか」
「心配しなくても神ちゃんには後でお礼するから」
「仲睦まじいな」
俺が何気なくそんなことを呟くと伏見は「それはこっちのセリフだよ」と笑って返してきた。
俺たちはそのままカラオケボックスの前でそれぞれ別れる。外はもうすっかり夜の帳が降りていて、空には小さな星が点々と散りばめられていた。
「楽しかったな・・・・私、今凄く幸せかも」
彼女は星を見上げながら、ふふっと微笑む。彼女の幸せを増幅させる方法を俺は知っている。
「涼香」
「どうかした天音──」
俺は昼間のお返しを早速実行した、唐突で驚くかと思ったのだが彼女は瞳を閉じて受け止めた。
「さては、このタイミングでするって分かってたな?」
「んーしてくれるだろうなとは思ってたよ」
そんな余裕そうな言葉とは裏腹に彼女の顔は赤く俺と同じように火照っているのが見て取れた。
「幸せだよ、天音」
そう言って、彼女に今までにないくらい満面の笑みを向けられて俺は短く応えることしか出来なかった。
「それは、良かったほんとうに」
そのまま俺たちは手をしっかり繋いで夜の街中をマンションに向かって歩いた──。




