後夜祭と恋する幼馴染たち
「正直寂しかったでしょ?」
文化祭ライブが終わる頃には外はすっかり薄暗くなっていて、残すところは校庭で行われる後夜祭のキャンプファイアーだけになった。
体育館の入り口で彼女は立ち止まりこちらの心中を察したかのように顔を覗き込んでそう言った。
「ああ、寂しかったよ」
「やけに素直だね」
「嘘ついても仕方ないからな、本当は色々一緒に巡りたかった」
「ごめんね、よく堪えられたね」
彼女は優しい声音で言いながら、俺の頭を軽く撫でる。彼女の身長的に俺が若干頭を下げないといけないので、傍から見たら結構目立ってしまうのではないかとハラハラする。
「大丈夫だよ、生徒はほとんど帰宅か後夜祭の為にグラウンドに居るから」
「なら、良いんだけど」
「私と居るの知られるのは嫌?」
一瞬、冗談を言っているのかと思った。今まで彼女は学校で俺たちの関係がバレないように立ち回っているのかと思っていたからだ。
しかし、彼女の表情はいたって真面目で揺らいだ瞳を真っ直ぐこちらに向けている。
「嫌じゃない・・・・ただあんまり居ると涼香が困るかな、と思ってるだけで」
彼女は「んー」と真っ直ぐ向いていた視線を斜め上にやり、それから静かな笑みを浮かべて口を開く。
「確かに、珍しいなーくらいは思われるかもしれないけど、同棲してるってバラすわけじゃないし」
「でも、前に雑貨屋で話しかけた時は遠慮してたじゃないか」
「そうだね、でも正直私はあの時よりも、屋上でお昼ご飯を共にした時よりも──寂しがり屋になっちゃったみたいな」
彼女はスッと身体をこちらに預けてきた。俺は両腕で抱き込むように受け止める。
ふわっと香水の匂いが鼻腔を掠め、腕から彼女の体温が伝わってくる。彼女は俺の胸に耳を当ててクスりと笑った。
「ドキッとしてるね?」
「当たり前だろ」
「ふふ、認めるんだ」
「それより、これ誰かに見られたら相当不味くないか?」
俺みたいな窓際生徒が涼香とこんな風にしているのが露見したら、来週から噂の種されること間違いなしだろう。
「そうだね、流石にまずいかもね」
彼女は名残惜しそうに俺の胸から離れて、一度背伸びをする。
「充電完了、じゃあ後夜祭行こうか」
「え? 良いのか?」
クラスメイトはおろか、学校全体の生徒が集まる場所なのだが、大丈夫だろうか・・・・。
「雪ちゃんや神代くんが校庭の端に居るはずだから、そこなら目立ちにくいよ」
ここまでのやり取りで分かったことは、彼女はもう少なからず俺たちが仲の良い関係であることを周囲に知られても良いと思っているのかもしれないということだ。
それでも端に位置取ったり、中学の顔見知り同士を一か所に集めるたりして最大限配慮は欠かさないのは彼女らしい。
俺は一瞬、迷ったがここまでお膳立てされては行かないわけにもいかないだろう。
彼女の手に引かれるようにして、俺は後夜祭へ向かった。
「涼ちゃんに香坂くん。待ってたよ!」
笑顔でこちらに手を振る伏見、そしてなにやら様子のおかしな神代が隣に立っていた。
案の定若干の視線は感じるけど、ほとんど生徒は中央の大きなキャンプファイアーに目を引かれていたり、友達同士で談笑していて気付く様子はなかった。
俺の隣の涼香が神代と伏見を交互に見ると「おお」っと声を上げる。その様子に神代は頬をかき、伏見は「やっぱり分かるんだー」と頭を軽くかいていた。
「ようやく実ったんだね雪ちゃん」
「流石、そうなんだよ。ようやくね」
ああ、確か伏見は神代にずっと片思いをしていたんだっけ。
「これは雨でも降るのか神代」
あの他人に興味なさそうな神代が思いを受け入れるなんて、普通は信じがたいことだが、これも幼馴染パワーがなせる技なのかもしれない。
「そっちこそどうなんだ、天音」
神代がそう切り出した瞬間、涼香がパッと俺の手を握ってきたので俺も握り返しておく。
「香坂くんとは少しだけ仲良くなりました」
「いや、一見するとショートカットして一気に距離が近くなってるようにしか見えないんだが・・・・」
そうツッコミを入れる神代を伏見が「細かいこと気にしない」と小突く。
「まあ、別に天音の恋路なんてどうでもいいんだが」
「それを素直に言えるところは相変わらずお前らしいな」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く神代に伏見がくっついてなだめる。
(そっか・・・・神代たちは遠慮とかしなくても良いんだよな)
その様子を少し羨ましそうに眺めていると俺の二の腕辺りに涼香が頭を預ける。
「安心して、マンションに戻ったら沢山くっつくから」
小声でそんなことを言う彼女に俺も同じく小声で返す。
「もう、くっつかれてるんだけど」
「これは文化祭サービス」
伏見と神代はこちらの様子に気付かないくらい二人で話しながら、中央のキャンプファイアーを眺めていた。
「これが一緒に見れて私は嬉しいよ天音」
パチパチっという音と共に火の粉が夜空に舞っていく。これが二人だけならどれだけ良かったことだろうか、と思うのは少し贅沢が過ぎるかもしれない。
「今日は一緒に話しながら寝るか?」
俺が小声でたずねると彼女はこくりと頷いて握った手に微かな力を込めた。
「もちろん、そのつもりだよ天音」




