文化祭1
楽しかった誕生日会が終わり、地獄のような文化祭の準備と練習が再開してから当日までは、あっという間だった。
これは、文化祭当日間際になってクラス全体に知らされたことだが、どうやらシフト時間外の自由行動の時には客として来ることも出来るらしい。
この仕様にクラスの男子達は自分のクラスの女子達の手料理が食べられると歓喜していた。
まあ、俺はいつも涼香の料理を食べているから別に浮かれることもない、と思って前日の食卓で彼女に何気なく話すと「えー」っと何故かガッカリされた。
「なにか、普段作らないもの作るとかじゃないんだろ?」
彼女は急にふふんっと鼻を鳴らして「分かってないね」とジッと俺を見つめる。まさか、俺がまだ食べてない隠し料理があるということだろうか? 文化祭の為だけの隠し玉みたいな。
不意打ちにはぐらかし、サプライズというのは彼女の得意領域である。だから、充分あり得る事だろう。
「ちなみに・・・・教えてくれる?」
ふっと涼しい微笑みを浮かべて彼女は応える。
「明日のお楽しみ、接客頑張ってね」
「ぐ・・・・割と本気でサボりたい」
「ここまで頑張ってきたんだから、大丈夫だよー」
ポンポンと肩を叩く彼女はここまでの俺の疲労した姿も全部見てきているんだよな。そう思ったら少しだけ大丈夫かもしれないと身体の力が抜け頬が緩んだ。
「まあ、でも本番は困った人も来るかもだから、ファイトだね」
「ああなるほど、上げて下げるタイプのやつだったか・・・・」
再びうなだれる俺の頭を彼女は優しく撫でた。
我が校の文化祭はかなり大規模なもので学校内外問わず沢山の人が訪れる。いつもは閑散とした並木道も今は出店が立ち並び、人が列を作るように歩いている。
そんな並木道を俺は半ば駆け足で抜ける。シフトの時間を少し勘違いしていて時間がギリギリだったので、せっかく早起きしたのに結果的に余裕がなくなってしまった。
普段から課題以外の計画性が甘いので仕方ない。
(前途多難だな・・・・)
俺は小走りで教室までの廊下を進みながらため息をついた。
「お、天音ギリギリだなすぐ準備して入ってくれよ」
教室前に居た神代はもう接客を始めていた。俺への普段の態度からは想像出来ないほど丁寧できちんとした対応をしている。
「神ちゃん、やっぱり良いよねー」
不意に俺の横から明るい声が聞こえてきた。
声がする方へ向くとそこにはショートのボブヘアに女子の中でも背が低い小柄な女子生徒──俺はその女子を知っていた。名前は伏見雪、あの神代の幼馴染である。
「伏見に会うの、なんか久しぶりな気がする」
「実際、気がするじゃなくて久しぶりだよ香坂くん。涼ちゃんは落とせたかな?」
「んん、久しぶりの第一声がそれなのはあれだけど、まあ順調かな」
流石に付き合ってもう添い寝も同棲もしてるなんて言えるわけなく、かと言って全然上手く行ってないと嘘をつくのも嫌だった。
俺の返答に伏見は興味深さそうにこちらをジッと見つめて「ほうほう」と何やら察したかのように頷くと、ふっと笑みを浮かべる。
「香坂くんも中々ですなー」
「待って、なんか心読まれた?」
俺が慌て始めると伏見は「なんてね」とクスクスと口元に手を当てて笑っていた。
やられた──しかもなんかやり口が涼香に似ている。
「昔の涼ちゃん流、やっぱり効くねー香坂くんは。でも反応を見るに順調そうで何よりだよ」
伏見、昔も今も本当は変わらないんだけどな、と内心で思ったけど今が変わり過ぎてマンションの中での本当の彼女を知らない伏見が分からないのも当たり前なのだ。
「雪ちゃん、香坂くんをあんまり引き止めちゃ駄目だよ」
伏見の背後から制服にエプロン姿の涼香がこちらの様子を眺めて苦笑した。
「はーい、じゃあ神ちゃんとも仲良くねー」
そう言い残して伏見は涼香に連れられて行った。
「おい、天音早く入ってくれ」
「ああ、すまん」
朝から忙しいな、と俺は再びため息を吐いて準備を済ませ接客に向かった──。




