二度目のデート
駅からそう遠くない場所にある大型ショッピングモールは、流石に平日とはいえ、結構な人が出入りしていた。
ただ、周囲を見る限り客層は子供連れの主婦や高齢の人などが大半で、ところどころ若い人も居るがうちの高校の生徒は居ないようだ。
(分かってはいても、ひやひやするところはあるな)
ショッピングモールの入り口の自動ドア付近で俺は彼女の方を見る。
「どうかした?」
「いやこのまま腕組んで入るのかな、と」
「当たり前でしょ恥ずかしがらなくても誰も見てないよ」
彼女は絶対ほどくつもりはないらしく、ギュッと組んだ腕に力を込めて自分の身体の方に俺を引き寄せる。
「分かった、ほどかないから腕の力をもう少し抜いてくれ」
「分かればよろしい」
ふっと満足気な微笑みをこちらに向けてくる彼女の頭をポンポンしたい欲求を抑え込んでショッピングモールの中に入った。
誰も見ていないというのは、彼女の誤算だということが一階の奥の方にあるグランドシネマへ向かっている最中で分かった。
平日、午前中に高校生二人の腕組みカップル、それに加えて彼女の方は容姿端麗な清楚系。
「涼香、俺たちなんか浮いてない?」
俺は時折感じる視線を気にしながら彼女にそう耳打ちした。
「気にしなければ見られてないのと同じだよ」
なるほど、たしかに向こうから直接何か言ってくるわけではないので、気にしたら負けなところはあるかもしれない。
映画館はモール内ほど人が多くなく、とりあえず落ち着いて映画を楽しめそうで俺はホッと胸を撫でおろす。
「お待たせ、ポップコーンと飲み物買ってきたよ」
「おう、俺はチケット買っておいた」
映画館自体は子供の頃、一緒に行ったことは何回もある。ただ今の俺たちに流れる空気はその頃のどれとも違ったものだ。
お互いがどの頃よりも近くて、微笑ましさと愛おしさを同居させたようなそんな空気感を漂わせている。
関係性の変化で疎遠になるどころかより隣に居なくてはならない存在になった。そんな実感が俺も多分、彼女にもあるのだろう。
上映前、隣同士の俺たちは何を言うでもなく手を繋いで顔を見合わせては微笑み合った。
「いや、凄い泣けたね私もあんな儚い恋したいな」
俺たちは余命物の小説の映画化作品を見た後、ショッピングモールのフードコーナにあるファミレスで感想会のようなことをしていた。
「儚くない恋で悪かったね」
「分からないよ? もしかしたら私たちのどっちかが余命宣告されちゃうかも」
「どっちが宣告されるにしろ、その展開は泣けるな。主に悪い意味で」
映画に感化されて不謹慎なことを言い出す困った幼馴染に俺がじとっとした視線を送ると彼女は苦笑して「ごめん」と言って俺の頭を軽くさすった。
「店内でうかつにスキンシップしない方が良いと思うんだけど」
「気にしない、気にしない」
「涼香が気にしなくても俺は気にするんだが」
「んーそれなら、控えとく」
この上機嫌状態の彼女がここまであっさりと引き下がるとは予想しておらず、俺は思わず目を丸くする。
「そんなに驚くことないじゃん、今日は天音のお祝いなんだからさ」
──そう言う彼女の奢りで沢山の料理を頼んでお腹を満たしていく中でステーキやハンバーグなどいかにもというような料理が来るたびに彼女は子供のように目を輝かせてはしゃいでいた。
その様子があまりにもあどけなかったせいか、マンションで抱き枕を抱えている時の姿が連想されて、もしかしたら涼香は学校一の人気者という地位の他にも学校一の癒し系になるというルートも存在していたのかもしれない。
「本当はこんなに可愛いのにな」
「え?」
まずい、緩み過ぎてつい思ってることが口からこぼれ落ちてしまった。慌てて誤魔化そうとしたけど、「なんて言ったの?」ときょとんとした表情で聞き返してきたので言葉自体は届いていないようだった。
「なんでもない、ただ無邪気な涼香も悪くないなって」
「それ、馬鹿にしてるでしょ」
「褒めてるつもりなんだけどな」
彼女は「むう」と不服そうに頬を膨らませる。どうやら機嫌を損ねてしまったみたいだ。
仕方ない、と俺は自分のチョコレートパフェをすくって彼女の方に差し出す。
「んー美味しい、大胆な行動に出たね」
「まあ、俺が悪いからな」
最初にスキンシップがどうのって言っていた当人が一番大胆なことをしたという自覚はある。後悔はしていないけど。
「嬉しいよ天音」
先ほどまでの子供っぽさとは違う、どこかうっとりとした表情で言われてドキッとしてしまった。
学校を休んでいるという都合上、下校時刻までにはマンションに戻らなくてはいけなかった。
ショッピングモールからの帰り道、隣に歩く彼女の横顔はどこか名残惜しさをにじませていた。
「その、なんだまたお出かけしような、そんな頻繁には休めないけどさ」
流石にそう何度も同じタイミングで二人同時に休んでいると変な勘ぐりをされる可能性があるが、偶然だと思われる程度なら俺はこうして休んで出かけたりするのは構わない。
「うん、ありがとう。でも本番はマンションに着いてから、だよ」
「そうだな、楽しみだ」
昼下がりの街中を俺たちは手を繋いでマンションに向かって歩いて行った──。




