彼女の仕返しと添い寝
ソファーで涼香と戯れた後、俺は入浴を済ませて欠伸をしながら自分の寝室に入ろうとあまり音を立てないようにドアを少し開ける。
寝室の中には俺が入浴している最中に着替えたのであろうパジャマ姿の彼女がお揃いの抱き枕を両手で抱えて、モフモフしながら時々顔を埋めて羽毛の暖かみを肌で堪能しているようだった。
俺が寝室に入ろうとしていることに気付いてない彼女は埋めた顔をスリスリして言葉にならない声を上げていた。
(本当に可愛いもんだよなこの趣味)
学校では未だに隙のない人気者の藤野涼香がマンションの中では隙しかない状態になっている。
同棲自体、幼馴染特権という面もあるしこの姿が見れるのは小指を結んで恋仲になった恋人特権だろう。
(なんか、感慨深いな)
そんなことを思っていると、俺は思わず頬と口元が緩んで朗らかな笑みがこぼれた。
「ん? いつの間に」
ようやく俺の気配に気付いた彼女は言動とは裏腹に大して驚いた様子もなく顔の半分を枕で隠しながらこちらに視線を向ける。
「相当気に入ってるなそれ」
「天音も気に入ると思ふ」
最後まで言い切る前に耐えられなかったのか再び顔を羽毛に密着させた彼女を穏やかな眼差しで見ながら彼女の隣に横になった。
俺の抱き枕は丁度良い位置に置かれていて、一瞬ためらいながらも、手は自然と暖かさを求めて枕を抱きにかかる。
「どう?」
「うん、やっぱり暖かいもんだな」
感想を言いながら彼女が枕から目元だけを出して目をぱちくりさせているのを間近で見てあまりのあどけなさに内心で悶えていた。
スッと、彼女が片手を俺の頬に当てて頭を撫でるようにすべらせる。
「もしかして、ソファーの時の仕返し?」
「ううん、これはその前準備。こうやって天音を眠くさせてるの」
彼女の手のひらは小さいけど、充分なぬくもりを頬に伝えていた。
(確かにこれは・・・・効くな)
どうやら本命の仕返しをするために俺を寝かしつけようとしてるみたいだ。
狙い通り俺は瞼が重くなって頭がぼんやりとしてくる。
風呂上がりでただでさえリラックスしている上でやられているので、余計に効く。
「な、なんか私まで・・・・天音眠そうな顔しないで」
「・・・・自分から仕掛けておいて無茶言うな」
彼女が頬をさすればさするほど俺はうとうとして、それを見た彼女が釣られてうとうとし出す。
「体質、考慮しろよ涼香」
前からそうだが、彼女は他人が眠そうにしているのを見ると自分まで眠くなってしまうという体質なのだ。
「天音が・・・・眠くなるまで・・・・ない」
(限界でもさするのは止めないんだな)
しかし俺もどうやら限界が来てしまった上、彼女のように寝るのを拒む理由があるわけではないので、あっさりと閉じかけの瞼を下ろしてしまう。
暗転した視界の中で、彼女の眠たげな声が耳元で聞こえた。
「これが・・・・仕返し」
彼女は自分の頬を俺の頬にくっつけながら言った。
「おやすみ、天音」
ポンポンと俺の頭を弱い力で叩いて寝息をたて始めた。
こんなことが同棲を始めたての頃にあったなと途切れそうな意識の中、思い出していた。
俺は手放しかけた意識を何とか保ち、瞼を半分開ける。
「・・・・むう」
彼女は満足と幸せを含んだ微笑みに近い寝顔で一瞬、声を出して規則正しい呼吸に戻った。
(確かにとんだ仕返しだな)
そんな彼女の頬に俺は手を当て一度さすって離す。
手のひらに残る彼女の頬の熱や手触りを感じながら、今度こそ俺は意識を手放した。
──俺はその夜、懐かしい夢を見た。
まだ、お互い小さかった頃にこうして添い寝をしたことがあり、そこで涼香は将来香坂くんのお嫁さんになるんだっと言って笑みをこぼすシーンで始まり俺がそれに対して返答を返した後──指切りを交わしたところで夢は終わった。




