甘える日曜
なんかお互い本調子じゃないな、とお昼寝をした後の夕方から現在の日曜の昼にかけてずっと思っていた。
昨日はいつも通り彼女からのスキンシップをトリガーにして俺が大胆なことをしたわけなのだが、それがこのギクシャクとした感じの理由なのだろうか。
それでも後半は心臓に悪いとは言っていたものの大丈夫とも言っていたわけだが。
いつもなら朝から積極的な彼女も今日はなんだかよそよそしい。
俺自身も彼女の存在が前よりも強く感じられ、ふと通り過ぎた時のバラのような香りやちょっと手が触れた時の感触にも敏感なっている。
それに、前はそうでもなかったのだが、今は目が合った時に視線を逸らして恥ずかし気に頬を赤らめる彼女の様子を見るだけでドキリとする。
それも昨日、身体を密着させたせいなのかもしれない。
「その、お昼の時間だね天音」
「そうだな、一旦勉強切り上げて休憩しようか」
休憩という言葉の箇所で彼女はまた少し赤らんで「お茶入れて来るね」と言ってそそくさとキッチンの方へ向かった。
今までの添い寝やくっつきに近いスキンシップは正直、雰囲気や体調の悪さがトリガーになって何故か自然と出来てしまっただけで、お互い慣れない部分は残っている。
(彼女は相当慣れてそうだったのだが、そうでもないらしい)
「粗茶ですが、どうぞ」
「ついに敬語になった、いただきます」
俺はお茶を飲みながら、思考を巡らせいた。考えてみればこれは二重のチャンスなのではないかと、正直な願望を言うならば、俺は彼女にもっと甘えたい、普段の彼女なら後手でしかも少しのスキンシップぐらいでは動じない。でも今の彼女なら、その少しがかなり効きそうである。
問題は俺がどこまで甘えられるかだが。
「その、今日もお昼寝する気なの・・・・?」
「んや、ソファーでくつろごうかなって雨の日にぼんやり過ごすのも中々乙だぞ」
ホッと彼女は息を吐き出してどこか安堵したように胸を撫でおろした。
まあ、そう何度もあんなことをする勇気が出せるわけではないのだろう。
(流石に昨日のは俺にもかなり効くからな・・・・)
「じゃあたまにはスピーカーで音楽流そう、近所迷惑にならない音量で」
「いいね、俺の持ってる適当なアルバムで良ければ流すよ」
俺たちはお揃いのマグカップをソファーの前のテーブルに置き、並んで座った。雨の日にぴったりのチル系の音楽がリビングに流れ、しばらくすると肩の力は完全に抜けていて、隣の彼女は目を閉じて音楽と雨音を味わっている。
(こうして見ると清楚で大人っぽさがあるな)
普段より今の方が、甘えがいがあるというものだろう。
俺は彼女の二の腕辺りに自分の身体がくっつくような距離まで近づいた。
「あ、天音」
「嫌なら離れるけど」
「嫌じゃないけど・・・・けど」
彼女の身体が火照り出すのがくっつくとよく分かる。彼女は視線を逸らしてはこちらをうかがってまた逸らすを繰り返している。
いつもの余裕はなく、俺の仮説はおおむね正しかったのだが、この仕草の破壊力を考慮に入れておらず、結果的に俺の心拍数も上がっていた。
「けど?」
俺はもう一段畳み掛ける。
「その・・・・今は凄く意識しちゃうというか、余裕がないというか」
言葉通り彼女の唇はわなわなと震えていて、視線はちらちらと定まっていない。
「そういうところ。か、可愛いと思う・・・・よ」
(最後の最後でどもってしまった・・・・)
「あ、ありがと」
最終的にお互い身体はくっついてるのに恥ずかしさでそっぽを向くという奇妙な状態が出来上がってしまった。
頬をかきながら、ちらりと彼女の方を見れば、うつむきがちになって「可愛いって」と俺のさっき言ったことを呟いていた。
「ねえ涼香」
「は、はい」
「お膝借りて良い?」
「う、うんいいよ」
俺の方は少しずつ慣れてきていた。もちろん彼女が珍しくうぶな反応をしているのと、この雰囲気や流れの力があってのものではあるけど。
ポンと彼女の膝に頭をのせると、緊張するどころか余計に落ち着きを取り戻しつつあった。
(ただ、冷静になったら後の仕返しが怖くなってきた)
「急に甘えん坊になるのずるい」
「それを言ったら、涼香はいつもずるばかりだけどな」
「私は、元々積極的な方だから良いの、でも天音は元々そんなタイプじゃない」
「やっぱり甘えられるより甘える方が良いか?」
しばらくの間、沈黙が流れる。俺はその間、顔を見ていないので彼女が今どんな表情かは分からない。
それからはっきりと彼女は言った──それはいつかのデート時のみたいに何かにかき消されることなく俺の耳にダイレクトに飛び込んできた。
「普段の天音も好き、でも甘える天音はもっと好き」
「うう・・・・」
思わずうめいてしまった。カっと全身が熱くなる。
「大丈夫?」
「うん、まあその、やっぱり敵わないや・・・・」
ずるいのはどっちなんだ、と俺は強く思ったのと同時に油断すると高火力の直球が飛んで来る可能性があるんだと学んだ──。




