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お宅訪問とメッセージ

「あの、なんで俺の番号知ってるんですか? 教えた覚えがないんですが」


 スマホで藤野綾香さんの着信通知を見て真っ先に思ったことを俺は口にした。たしかに向こうの連絡先は貰っているし、登録も一応してあるのだが、俺の方はまだ教えていなかった。


 単に忘れてそのまま会う機会もなかったからだ。


「でも娘は香坂くんの番号知っているでしょう?」


 スマホ越しに聞こえる綾香さんの声はパッと明るい。余程機嫌が良いのかもしれない。


「それはそうでしょうね」


「じゃあ、娘が知っていて私が知らないなんてあるかしら?」


「いや、綾香さん普通にあると思います」


(俺だって親に神代や涼香の番号を教えたことはないし)


「うちではないのよ、それより今日なのだけど」


 俺の反論はさらっと受け流され、次の話題に行く綾香さん。まあ知られて困る相手ではないので良いのだが。


「そちらにお邪魔しても?」


 通話から聞こえたその言葉に向かいに座っている彼女が思わず「けほ」っと咳き込んだ。


「あら、咳が聞こえたけど、娘は風邪でも引いているの?」


「いえ、すこぶる元気ですよ、それでなぜ突然?」


「良いスイカをおすそ分けしに行こうと思って、ついでに様子が見れたらいいかなってどう?」


「て、言ってるけど、どうする涼香?」


 思わず口が滑って下の名前で彼女を呼んだのがまずかったと気付いたのは、彼女が慌てた表情でこちらを見た後だった。


「どうやら、私が想像している以上に仲良くやってるみたいね、じゃあもうすぐ着くから」


(なるほど、最初から拒否権はなかったみたいだ)


 通話が切れると俺と彼女は同時にため息を付いた。俺の父さんと言い、彼女のお母さんと言い、俺たちの親はどうも強引なところがある。


「大変なんだな、涼香も」


「そうだよ、良い? うかつにこちらからお母さんに連絡しないでね」


「肝に銘じておくよ」


 ──それから、一時間もしないうちに玄関のインターフォンがなり、綾香さんがうちに来た。外出着が彼女と同じ白地のワンピースなのはやはり子は親に似るということか。


「本当にスイカ丸々一個・・・・」


 綾香さんの片手にはドッジボールの球のような大きさの立派なスイカともう片方のビニール袋には花火のようなものが透けて見える。


「お母さん、連絡するならまず私にしてよ」


 彼女はトコトコと後ろから俺の隣に来ると頬を少し膨らませてツンっとした声で言った。


「したのよ? でも涼香出ないんだもの」


 ハッと彼女はなにかを思い出したかのような素振りを見せ、リビングへと駆ける。ちょっとつまずいて転びそうになるが、なんとか踏ん張り行ってしまった。


「なんかあるんでしょうかね?」


「涼香は完璧そうに見えておっちょこちょいなのよ香坂くん」


 彼女はトボトボと歩いてきて俺にスマホを見せる。電源が入っていなかった。


「いつから入ってないんだ?」


「友達と花火大会の予定を連絡してた数日前から」


 彼女いわく、充電器に差したまま忘れていたらしい。


「うわ、凄い通知の量だよ天音」


 今、彼女は俺と同じ過ちを犯した。


「仲睦まじいみたいね天音くん」


「お母さんは香坂くんって呼んでてよ、もういいでしょ」


「はいはい、円満なのは分かったわお父さんも喜ぶでしょうね」


(そういう関係になっているの察せられてないといいが・・・・)


 恋仲になっているというのはプラスにもマイナスにも捉えられかねない。両親がそれを狙って最初から計画でもしてない限り。


「それじゃスイカとこれは線香花火、夏だから二人でどうぞ」


「いただきます」


 俺がスイカと線香花火の入った袋を受け取ると綾香さんは俺らに手を振って玄関を出ようする。


 彼女はプイっとそっぽ向きながらも小さく手を振っていた。


 綾香さんは「難しい年頃ね」と呟いて帰って行った。


「スイカ、今食べるか?」


 俺が隣の彼女に聞くと首を横に振る。


「夕食後にこの花火でもしながら食べるのがいいよ」


 それから、彼女は急いで外着に着替えると友達に花火大会抜け出したことを弁解しに向かった。


(交流が広いのも大変だな・・・・)


 大量に来る通知に慌てていた彼女を見て俺はつくづくそう思った。


 ──結局、彼女は夕飯時になっても帰ってこなかった。当の俺は一日中夏休みの課題をやり、参考書を解いていた。参考書の方はとりあえず彼女のものを借りたりしたが、正直こんなレベルのものを日常的にやっていれば校内の定期テストでトップなのも頷ける。


『ごめん天音少し遅くなりそう』


 一人で夕飯を食べていた時、卓上に置いたスマホにメッセージが届く。


『いいよ、元々俺のせいでもあるし、悪いな』


 既読が付いて次に表示されたメッセージを見て俺は思わずご飯を喉に詰まらせそうになる。


『悪くない、大好き。待っててね』


 俺が言いたくても気恥ずかしくて言えないことを彼女はメッセージで送ってきた。


 恋愛において圧倒的に奥手な俺は同じ文言を返すことも出来なかった。


『ああ、待ってるよ』


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